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第三十九話 謎の男

 門を挟んで対峙しているゴブリン・ロードを見ても、男は動じる気配もない。


 表情を変えることなく立っている男にゴブリン・ロードは声をかけた。



「貴様ハ、何者……」


「あーあ、麦畑をこんなにも荒らしてしまって」


 ゴブリン・ロードを無視して男は口を開いた。


「ザール平原は帝国内有数な穀物地帯だ。これじゃ今年の帝国内の麦の価格が上がってしまうぞ」


「何ヲ、言ッテイルノダ?」


 突拍子もないことを言い出す男に、ゴブリン・ロードは理解できない。


「穀物の相場が上がってしまうんだよ、お前のせいでな! どう責任を取るつもりだ?」


「フザケタコトヲ 抜カスナ!」


「ふざけていない! それに麦を潰された農民たちにも何かしらの補償をしなくてはならない。それら全ての金をお前は払えるのか?」



 真剣な表情で怒っている男を見て、ゴブリン・ロードは馬鹿にしたように笑った。

 侵略者に文句を言うとは、この男は気が触れているに違いない。わずかな時間でもこんな男と会話したことを後悔した。



「忌々シイ。全軍突……」


「忌々しいのはこちらの台詞だ。全軍攻撃開始!」


 すると、突如町の防壁の上を覆い尽くすほどの騎士が現れた。全員が弓を構えている。


「撃て!」


 男の号令後、雨のような矢が町を囲んでいるゴブリンの頭上に降りかかる。

 それと共にゴブリンたちが倒れていく。さらに正門以外の他の三方の門がそれぞれ開かれると、中から騎士たちが溢れ出し、ゴブリンたちに襲いかかる。



「オノレ、謀ッタナ」


 ゴブリン・ロードは大声を上げた。

 この騎士たちは最初から町に隠れていて、自分たちを待ち伏せしていたのだ。目の前の男は気が触れていたわけではなかったのだ。

 しかし、それでもゴブリン・ロードは余裕な表情を崩していない。

 なぜなら、この町の大きさからして収容できる騎士の数は多くても二万程度。ゴブリン軍の半分にも満たないからだ。

 今は不意を突かれて多少の被害を被ってはいるが、ゴブリン軍の方が圧倒的に有利なことに変わりない。



「陣形ヲ立テ直シテ、攻撃二転ジロ!」


 ゴブリン・ロードの号令がかかると、ゴブリン・ジェネラルたちはすぐさま号令に従い陣形を立て直した。乱れていた陣容が急速に整っていき、人間の軍と対峙するまでとなった。


 これでゴブリン軍が圧倒的に有利になる。

 すると今度は人間たちの方が追い込まれ始めた。騎士たちは門の中に押し戻されていき、そのままの混戦した勢いでゴブリン軍も町の中になだれ込む。

 防衛戦おいて、城や町の中に攻め込まれたら敗北だ。

 しかも、ゴブリン軍は人間たちの倍以上の兵力を持っている。


 勝敗は決した。




「アハハハ。見ヨ、人間。貴様ドモガ、我ラニ敵ウハズガナイノダ」


 下卑た笑い声を上げたゴブリン・ロードだったが、目の前にいる男は慌てるどころか身動き一つしていない。

 それがゴブリン・ロードには気に入らなかった。


 ゴブリン・ロードは右手に持った巨大なハンマーを大きく振り回す。遠心力を得たハンマーはとてつもない破壊力で正面門の壁を易々と撃破した。壊された瓦礫が雨のように地上に落ちてくる。

 しかし、それでも男は動かない。


「貴様タチハ、負ケタノダ。セイゼイ苦シミナガラ死ネ!」


 ゴブリン・ロードが今度は男の頭上にハンマーを振り落とす。男は長身だが、ゴブリン・ロードはその倍近くはある。その高さから落とされるハンマーの攻撃は凄まじい威力だ。

 避けることもできず、防ぐこともできずに、ゴブリン・ロードの一撃は男の身体をいとも簡単に打ち砕く。


 はずだった。



「ナンダト……!?」


 ゴブリン・ロードは驚愕のあまりそれ以上声が出ない。

 男が渾身の一撃を受け止めたからだ。


 ゴブリン・ロードのハンマーは、男の左手に握られた盾によって防がれてしまった。



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