第三十八話 ゴブリン・ロード
フェルノン山脈の北端は七大雄国の一角を占める超大国、エースライン帝国の領土となっている。
エースライン帝国の領土の東部最端の中央付近が、フェルナン山脈の北端の終わりとなっており、その先には広大な麦畑が広がっていた。
エースライン帝国の東部に位置するこの一帯は、帝国内でも有数な穀物地帯の一つでザール平原と呼ばれている。
しかし今、ザール平原に実っていた穀物は、ゴブリン軍侵攻の中で無惨にも潰されていた。
五万もの大軍が踏み潰していくのだ。ザール穀物地帯の被害は軍が進むごとに大きくなっていった。
それでもまだ穀物地帯のごく一部だけの被害で済んでいるのは、それだけザール平原が広いからだ。
しかし、それも時間の問題だった。
ゴブリンの大軍がザール平原を縦断してしまったら、とてつもない被害を受けるだろう。
「ワハハハ、進メ進メ。コノママ帝都ヲ 滅シテヤルワ!」
そう叫んでいるのは、屈強な四人のゴブリンが担いでいる輿の上に乗っているゴブリンだ。
その姿をエルシーネたちが見たら驚いたに違いない。ゴブリン・ジェネラルのさらに二回りも巨大な体躯だったからだ。
そのゴブリンこそが、本物のゴブリン・ロードだった。
ゴブリン・ロードの周りには四人のゴブリン・ジェネラルが警護している。
さらに五万もの隊列には他に何人ものゴブリン・ジェネラルと、その数十倍のゴブリン・キャプテンも指揮官として配備されており圧倒的な戦力だ。
自軍の戦力を満足げに見渡していたゴブリン・ロードのもとに一匹のゴブリン・ジェネラルが現れた。
先遣隊からの定時報告だ。
「前方ニ、人間ノ町ガ、見エマス」
「町ダト?」
報告を受けたゴブリン・ロードは暫し考えると残忍な笑みを浮かべた。
「チョウド良イ。人間共ヲ 皆殺シ二シテ、我ラノ強ヲ 知ラシメルゾ! 我ガ到着スルマデニ、町ヲ 取リ囲ンデオケ。一人タリトモ逃スナ」
「ハッ!」
報告したゴブリン・ジェネラルはすぐさま命令に取り掛かった。
全軍の進軍速度を加速させると、わずか一時間後にはゴブリン軍は町を包囲してしまった。
町はかなりの大きさで防壁も高く堅固であったが、さすがに五万の大軍に包囲されてはなす術もない。防壁に囲まれた町の中は恐怖のあまり静まりかえっていた。
町に着いたゴブリン・ロードは輿から降りると正面門の前に立った。
正面門はゴブリン・ロードでも通るのには余裕がある高さだ。しかし、ゴブリン・ロードは門を抜けることはできない。当然ながら、門が閉まっているからだ。
「クックックッ、無駄ナ足掻ヲ シテオル。全軍突……」
ゴブリン・ロードは号令を途中で止めてしまった。
なんと、門が開き始めたからだ。
門が左右にゆっくりと開かれると、町の中が見えてくる。
すると、そこにはひとりの男が立っていた。




