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第三十六話 進軍

 フェルノン山脈は、アイヤール王国からエースライン帝国の東端を南北に連なる山脈だ。

 山脈北はエースライン帝国領土の東部の中央付近で終わっている。そして、フェルノン山脈の南端と北端では風景が大きく異なる。



 ザン将軍が現在布陣している山脈南端の山麓と比べると、はるかに広大でなだらかな北の山麓の先には一面に麦畑が広がっていた。

 エースライン帝国の東部に位置するこの一帯は、帝国内でも有数な穀物地帯の一つでザール平原と呼ばれていた。



 昼前のこの時間帯、いつもなら多くの農民たちが畑仕事に精を出している頃だ。

 しかし、今日は違った。

 農民たちは誰一人としていない。

 さらに麦畑が無造作に踏みつけられ潰されていた。しかも踏み潰しているのは一人や二人ではない。




「全軍、進メ!」


 指揮官らしき者たちが各所で号令を飛ばす。

 それに合わせて、彼らは平然と行軍を続けていた。

 まるでどこかの騎士たちのように一糸乱れぬ行進……しかし、彼等は騎士ではなく、ましてや人間でもなかった。



 ゴブリンの軍隊だ。


 その数およそ五万。



 かつて無いほどのゴブリンの大軍が、エースライン帝国本土に襲い掛かり始めた。



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