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第三十五話 遅すぎた真実

「思ったよりも早く決着がついたな」


 ゴブリンのアイヤール王国侵攻軍に圧勝したザン将軍だったが、休む間もなく移動を開始しようとしていた。

 ザン将軍の拠点地でもあり、国境都市であるシャイドラが気にかかっていたからだ。


 シャイドラに進軍しているゴブリン軍は想像以上の大軍だと、ザン将軍は考えていた。

 なぜなら、ザン将軍と対峙した陽動のアイヤール王国侵攻のゴブリン軍でさえニ万五千もいたからだ。

 本命のシャイドラ侵攻軍はそれ以上の大軍であることは間違いない。

 シャイドラが簡単には陥ちないことは分かっているし、それより先にエルシーネたちがゴブリンの本拠地の制圧してしまう可能性の方が高いだろう。

 それでも万が一のことを考えて、ザン将軍は帰路を急ぐことにした。


 ちょうどその時だった。

 シャイドラからの伝令が届いた。



 シャイドラの防衛はザン将軍の片腕である副将が守備を行なっている。その副将からの定時連絡だった。

 ザン将軍は紙を受け取ると、周りの幹部に分かるように声に出して読み始める。


「『シャイドラ付近にてゴブリン軍の進行を確認、その数およそニ万』……二万だと!?」


 ザン将軍はもう一度見直したが、書かれている内容が変わることはない。

 シャイドラの周囲には斥候を放っている。彼らは隠密行動にも長けていて、その正確な情報収集に間違いはあるまい。

 しかし、ザン将軍としてはあり得ない数字だった。


 陽動の軍が二万五千に対して、本命の軍が二万とは。

 陽動よりも本命の方が戦力が少ないのだ。



「まさか、本当にこちら側のアイヤール王国侵攻が本命だったのか? ゴブリン・ロードにとって我々が余裕で勝利したことが想定外だったのか……」


 いいや、やはりそれはあり得ない。

 こちらが本命ならもっと精鋭だったはずだ。

 指揮官クラスのゴブリンも少なく、二万五千とはいえ大した装備もしていないゴブリン軍だったからこそ、ザン将軍は短時間で全滅させることができたのだ。

 それでは何故……。


 やはりシャイドラが本命。しかし、それにしては二万では少ない。


 こちらのアイヤールが本命。しかし、それにしては敵が弱すぎる。


 それでは、本命は一体……。



「……しまった!」



 ザン将軍はあることに気づき、大声を上げた。

 あまりにも大きな声だったため、周辺にいた騎士たちが何事かと驚いている。

 しかし、そんなことを気にする余裕もなくザン将軍は肩を震わしていた。


「どうなさいました?」


 側近が慌てた様子で尋ねる。

 そんな側近見てザン将軍は冷静さを取り戻し、静かに口を開く。


「こちらが陽動なのは間違いがない」


「私もそう思います」


 二万五千とはいえ、あまりにもゴブリン軍は弱かったからだ。


「それでは、シャイドラ侵攻軍が本命かと思ったが、こちらよりも少ない戦力と聞いてそれも違うことが分かった。つまりだ、アイヤール王国侵攻軍もシャイドラ侵攻軍も、どちらも陽動だったとしたら」


「ま、まさか……」


 さすがザン将軍の側近の一人だ、上官の言わんとすることはすぐに分かった。分かったからこそ、額から冷たい汗が流れる。


「そう、俺もエルシーネ皇女殿下も、まんまと引っかかったのだ。ゴブリン・ロードの戦略に。奴らの主力部隊は他にいるのだ。そして主力部隊が向かう本命先は……」


 ザン将軍は苦々しく地図のある場所を強く指した。



「エースライン帝国の帝都だ!」



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