第三十四話 ザン将軍の武法
ザン将軍はフェルノン山脈南側の山麓でゴブリンの軍と対峙していた。
広い場所が少ない山脈では自ずと戦う場所が限られてくる。その中でも今いる場所は、両軍を合わせても充分な広さだった。
「全軍突撃!」
ザン将軍の号令と共に二万もの騎士が突撃を開始する。
同時にゴブリン軍二万五千も動き出す。
両軍はすぐに激突した。
ゴブリンは魔物の中では下位に位置するモンスターだ。しかし、それでも普通の人間よりは数段強い。
事実、十五年前のゴブリン侵攻の時はアイヤール王国には甚大な被害が起きた。
しかし、今回ゴブリンたちにとっては相手が悪かった。エースライン帝国十輝将のひとり、ザン将軍率いる騎士たちが相手だからだ。
騎士たち一人ひとりの活躍もさることながら、ザン将軍の戦術は見事だった。
ゴブリンたちも戦術を駆使しているが、ザン将軍の戦術の前には成す術もなかった。十五年前よりも格段に南東部を守る帝国の軍は強くなっていた。それもザン将軍の訓練の成果が大きい。
戦いも終盤にかかった頃、起死回生を狙ってゴブリンたちが一斉に突進してきた。
しかし、ザン将軍はあえて立ち向かうことはせずに後退を指示する。
相手が逃げ腰だと思ったゴブリンたちは勢いよくさらに突進してくるが、急激に突進を繰り返した為、ゴブリン軍の戦列が伸びてしまった。
何匹かの指揮官クラスのゴブリンがそのことに気付き、伸びた戦列を元に戻そうと突進を止めたが既に遅い。
「今だ、突撃せよ!」
ザン将軍の号令に合わせ、ゴブリンの伸びた戦列の左右から騎士たちが一斉に襲いかかった。
突然の攻撃にゴブリンたちは前方と後方で連携が取れないまま大混乱に陥る。
しかも、ザン将軍の軍は全て馬に乗った騎士だ。歩兵のゴブリンとは身長差が三、四倍は違う。高い方が低い方よりも優位なのは戦いの基本だ。混乱して馬の足元で動き回っているゴブリンを仕留めるのは、騎士たちにとって造作もないことだった。
さらに後退しながらゴブリンたちを奥に引きずり込んでいた前衛部隊も一気に攻勢に転じた。
三方からの熾烈な攻撃に、ゴブリンたちの戦力は急速に小さくなっていく。
「お見事な采配です! ザン将軍」
アイヤール王国の中隊長が感嘆する。
数で勝っている二万五千ものゴブリンを短時間でこれほどまでに大打撃を与えるとは、並々ならぬ手腕だ。
「ゴブリンどもが弱かっただけだ。さて、俺も鈍った身体に軽く運動でもしてくるか」
ザン将軍が戦場に飛び込んでいく。
ザン将軍が大剣を振るう度に、何匹ものゴブリンが倒されていく。
戦闘は一方的なものとなっていた。
勝負は完全に決していたのだ。
そんな中、戦い続けていたザン将軍の前に馬に乗った一際大きなゴブリンが現れた。
「貴様、許サナイ!」
「ほぉ、この大軍の将か?」
「ソウダ。貴様ハ、俺ガ殺ス!」
ザン将軍は十五年前の光景を思い出した。
ゴブリン・ロードは、目の前のゴブリンよりさらに大きかった。ということは、やはりこちらはゴブリンの本隊ではないということだ。
予想が的中したことを心の中で笑いながら、ザン将軍は馬を降りた。
軍の将同士、一対一で戦うためだ。
「ゴブリン・ジェネラルか。十五年前のリベンジとしては不満だが仕方があるまい。おまえの首で我慢しておこう」
「黙レ、人間!」
ゴブリン・ジェネラルは棍棒を振り回しながらザン将軍に突撃をしてくる。
しかし、ザン将軍は動かぬままゴブリン・ジェネラルの突撃を大剣を握った片手だけで軽々と防いだ。ゴブリン・ジェネラルは勢い余って態勢を崩す。
「ナンダト!?」
「お終いだ。ゴブリン・ジェネラル」
ザン将軍の大剣が凄まじい速さで回転すると、剣を中心に激しい旋風が起こる。
「旋風斬」
次の瞬間、ゴブリン・ジェネラルの胸から腹にかけて大きな穴が空いた。
旋風がゴブリン・ジェネラルの身体を襲ったのだ。
レベル三十の超上級以上の戦士系職業の者だけが、長い年月鍛錬して編み出すことができる技。
戦士にとっては魔法のような必殺技。
それが武法。
ザン将軍は自らが得意とする武法、旋風斬を放ったのだ。
この十五年間でザン将軍は桁違いに強くなっていた。
なぜ自分が死んだか理解できぬまま、ゴブリン・ジェネラルはその場に倒れ込んだ。
その死に合わせたかのように、ゴブリン軍は全滅した。
戦闘開始から一時間もかからない、ザン軍の圧倒的な勝利だった。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回はザン将軍の武法、「旋風斬」を出してみました。
武法はすでにエルシーネが幾つか出していますが、ザン将軍は初となります。
話の中でも説明していますが、武法は戦士系職業の者にとっての魔法のような必殺技です。
こらからも色々と武法が出てくると思いますので、楽しみにして頂ければ嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!




