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第三十一話 真の狙い

 ザン将軍率いる二万の軍隊は、太陽が沈みかけているフェルノン山脈の麓にいた。

 ロストンを出発して二日後の夕方に山麓に到着した軍隊は、その場で休息をしていたのだ。



 テントの中で早めの夕食とっていたザン将軍のもとに、部下の一人が慌ただしく飛び込んできた。


「偵察隊からの報告です! ここから十キロメートルほど先にゴブリンの大軍が現れたとのことです」


「思ったより早かったな。しかし、これで今日中に全滅させることができるな」


 ザン将軍は豪快に笑った。


「それで、ゴブリンの数は?」


「およそ二万五千匹とのことでございます」


「二万五千!?」


 ザン将軍は笑いを収めると顎を撫でた。

 想像していた以上に数が多いからだ。

 シャイドラにいた時の斥候からの報告では一万だったが、それが倍以上に増えている。数日の間に増援されたということだ。

 もしかしてこちらが本隊か、と一瞬考えたザン将軍だったが、すぐに頭を横に振った。


「いや、こちらが陽動には違いない。となると、ゴブリンどもは我々が思っている以上に大軍を擁しているということか」



 こちらに二万五千ということは、本命のシャイドラに侵攻する軍はそれ以上だ。


 少なく見積っても四万以上か、ザン将軍は少しだけ苦い表情をした。

 国境都市であり要塞都市でもあるシャイドラならば、四万でも五万でも防げるだろう。しかし、その場合、シャイドラ内の民心の方が問題だ。

 外には数万のゴブリンが侵攻している状況で、民たちが恐怖に陥ることだけは何としても防がなくてはならない。


「よし、全軍に伝えよ! すぐに出立だ。さっさとゴブリンどもを殲滅して、早くシャイドラに戻るとしよう」


「はっ!」


 すぐに全軍に知らせがまわり、騎士たちが慌ただしく動き出す。

 そして、ザン将軍が命令してからわずか十分後には全軍の準備が整った。かなりの速さだ。



「全軍、出撃せよ!」


 ザン将軍の号令が響き渡ると、二万の兵はゴブリン軍に向かって進み始めた。


 しかし、この時ザン将軍はシャイドラに侵攻しているゴブリンの軍隊が、フェルノン山脈南側に侵攻してきた二万五千よりも少ない兵数、二万程度だとは知らない。


 知っていたらゴブリンたちの真の狙いに気付いたに違いないが、幸か不幸か、ザン将軍は前面の敵だけに集中することができたのだった。




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