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第二十七話 シャスターの頼みごと

 翌朝、ザン将軍率いる二万の軍は出発の準備をしていた。

 ロストンからフェルノン山脈の南端までは街道が延びている。早馬で進めば、二日の距離だ。


 しかし、アイヤール王国領土内のフェルノン山脈南端ついては、当然ながらザン将軍も詳しくない。

 そこでフェルノン山脈南端までの道案内として、アイヤール王国から二人の中隊長が同行した。できればマイトラ自身が同行したかったが、マイトラは一日も早くに国内を安定化させなくてはならない。


「ご武運を」


 馬上に乗ったザン将軍にマイトラは頭を下げた。

 本来であればアイヤール王国内での戦闘だ。アイヤール王国の軍隊が戦うべきなのだが、そのような余裕はない。だからこそマイトラは歯痒い。

 そんな心情を察してザン将軍は笑う。


「気にすることはない。ゴブリン討伐は私の使命だからな」


「使命……ですか?」


「ああ。十五年前のリベンジだ」


 ザン将軍は豪快に笑った。

 マイトラにも、リベンジが何を意味するのか想像がつく。

 つまり、ザン将軍も十五年前の戦闘に参加していたのだ。そして、その時はゴブリン・ロードを倒す実力が無かったということなのだろう。



「ザン将軍、よろしくお願い致します」


 マイトラはさらに深く頭を下げた。


「もちろんだ。それにシャスター様からもアイヤール王国を助けるようにと頼まれているのでな」


「シャスター様が!?」


 マイトラは驚きながらも、すぐに納得をした。

 シャスターたち一行は、数日前にエースライン帝国に向かったのだ。

 国境都市シャイドラで、ザン将軍と出会っていても不思議ではない。いや、出会っていることの方が当然だ。


「シャスター様はアイヤール王国を救ってくださいました。我々一同、言葉に尽くせないほどに感謝しております」


「そのシャスター様から『ザン将軍だったら、ゴブリンの大軍程度でアイヤール王国の住民に被害を出すなんてこと絶対にないよね?』と釘を刺されているのでな」


 ザン将軍がその時のことを思い出して苦笑する。


「住民に被害を出さずにゴブリン軍を殲滅させると約束しよう」


「ありがとうございます」




「それでは進軍!」


 ザン将軍の掛け声と共に、二万の軍勢が南に向かって進み始めた。

 昨夜は暗かった為、軍の全容が分からなかったが、視界が開けた今ならよく分かる。そして、よく分かるからこそ、マイトラは初めて見る壮大な光景に息を飲んだ。

 二万の大軍ともなると、その数だけで圧倒させられるからだ。



「ご武運を」


 もう一度同じ言葉を心の中で呟いたマイトラは、ザン将軍たちが視界から消えるまでいつまでも見送っていた。



 そして軍勢が消え去った後、今度は北へ向けて深々と頭を下げた。

 ここにはいない、救国の英雄に感謝をするために。



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