表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/810

第二十六話 ザン将軍の優しさ

 ザン将軍率いる二万の兵は移動の速さを重要視したため、全て騎士の編成だ。しかも、山岳地帯に配属されているだけあって、山道の馬術はお手の物だった。

 シャイドラを出発した彼らはわずか三時間ほどで山を下ると、その日の深夜日付が変わる頃にはアイヤール王国第二都市ロストンに到着した。

 シャスターたちが三日以上掛かった距離を僅か一日で到着したのだ。

 アイヤール王国第二の都市ロストンにはすでに伝達がいっており、深夜遅くなのに多くの騎士が出迎えている。



「遠いところをわざわざありがとうございます。私はロストンを預かっているマイトラです」


 ロストンの入口でマイトラ大隊長がザン将軍を迎えた。


「エースライン帝国、将軍のザンだ。こちらこそ、急ぎとはいえ深夜に到着したこと、申し訳ない」


 その瞬間、マイトラの後方がざわついた。

 彼の後ろには出迎えの騎士たちが多くいたが、その中にザン将軍の名を知らぬ者はいない。帝国一剛の戦士と言われているザン将軍が目の前にいるのだ。ざわつくのは当然だった。マイトラも驚きを隠せない。


「レーテル国王からはエースライン帝国の軍隊が来る旨を聞いておりましたが、まさかザン将軍に来て頂けるとは思ってもいませんでした。お会いできて光栄です」


 マイトラは深く頭を下げた。

 昨夜レーテル国王から内密に今回の件について連絡を受けた時、マイトラは声を失った。ゴブリンの襲来を聞かされたからだ。やっと内戦が終わりこれからという時に、また十五年前の悪夢が襲ってくるのかと絶望感に襲われたのだ。



 そして、その気持ちはレーテル国王も同じだった。

 ザン将軍から画面越しにゴブリン襲来の件を聞いた時、レーテル国王の顔からは一気に血の気が失せた。

 エルシーネからゴブリン襲来に備えるように忠告されていたが、あれからたった数日後に動き出すとはあまりにも早過ぎる。この状況下では戦力を東に集結させる余裕もない。

 このままではアイヤール王国が滅ぼされてしまうのは確実だ。


 しかし、そのことはザン将軍も当然分かっていた。

 アイヤール王国にはゴブリンに戦力を回す余裕がないことは想定済みだ。だからこそ、レーテル国王にエースライン帝国の戦力だけで戦うことを申し出たのだ。

 目を潤ませながら何度も何度も丁寧に感謝を述べるレーテル国王に、ザン将軍は微笑みながら確信した。


「この少女は良き国王になるだろう」と。



 このやり取りが行われたのが、昨夜の宴が終わった後だ。

 レーテル国王にアイヤール王国内通過の許可を取ったザン将軍は、部下たちに命じて一夜のうちに出陣の準備を整えたのだ。

 同時にレーテル国王も東方面の治安維持を受け持っているマイトラに事の経緯を伝え、エースライン帝国の軍隊には最大限の協力をするように命じたのだった。




「まだ多少の混乱が続いており、大したおもてなしも出来ませんが、どうぞこちらへお越しください」


 マイトラがロストンへ入ろうとするが、ザン将軍は動かない。


「ザン将軍?」


「いや、我々が街に入り無用な混乱を起こしたくはない。このままロストンの外で野営をすることにしよう」


「あ、いや、お待ちください」


 それはあまりにもザン将軍に失礼だと、マイトラは何度もロストンで宿泊してくれるようにと懇願したが、当の本人が外で良いと言っているのだ。


「気持ちだけはありがたく受け取る。それよりも貴殿は、貴殿にしか出来ないことをロストンでするべきではないかな?」


 そのように忠告されてしまってはマイトラとしては返す言葉がない。ザン将軍の心遣いに丁寧に礼をすると、マイトラは街の中へ消えていった。

 自分の職務に戻るためだ。



「それで良い。今は我々の歓迎よりもアイヤール王国の復興の方が最優先だからな」


 小さく呟いたザン将軍は部下たちに野営の指示を出す。

 すぐさま騎士たちは郊外でテントを張る準備を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ