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第二十四話 遭遇

 二時間ほど歩き続けた四人は、大きく開けている野原に辿り着いた。


「ここね」


 エルシーネが周りを見渡す。確かに千匹が休憩するにはちょうど良い場所だ。



 それからしばらくすると、前方の森の先から微かに音が聞こえてきた。無数の足音だ。


「そろそろお出ましね。カリンちゃん、お願い!」


「はい……」


 こうなったらもうやるしかない。

 エルシーネの期待通りの防御壁プロテクション・バリアなど張れるはずがないが、今自分にできる最大限の神聖魔法を放つしかない。カリンは全集中をして言葉を紡ぎ出す。


防御壁プロテクション・バリア!」


 次の瞬間、野原の右端に薄緑の透明な壁が張られた。


「嘘……」


 その壁を見て、カリンは自分が声を出したことに気付かないほど呆然としていた。


 なぜなら、目の前の防御壁プロテクション・バリアの伸びた先が見えない程遠くまで伸びているからだ。バリアは野原を超えて森の中にまで伸びている。

 軽く四、五百メートル以上は伸びているだろう。しかも、バリアの高さも十メートルは軽く超えている。

 驚くほどの巨大な防御壁プロテクション・バリアの長い壁が出来上がっているのだ。

 これには頼んだエルシーネも驚いていた。


「凄いわ、カリンちゃん! 私の予想を超えたバリアよ!」


「これがカリンの実力だよ」


 シャスターの言葉にカリンは驚きつつも静かに頷いた。

 それまで半信半疑だったが、防御壁プロテクション・バリアを張って気付かされた。

 確かに自分の実力は格段にレベルアップしているのだ。アークスの城のトラップされた廊下では三十メートがやっとだった。それが今では五百メートルにもなっている。

 それだけ皆の役に立てるのだ。カリンにとってとても嬉しいことだった。



 これで準備は整った。

 あとはゴブリンと戦うだけだ。そう思ったカリンだったが、シャスターの次の言葉に耳を疑った。


「それじゃ、あとはエルシーネに任せて俺たちは後ろに下がろう」


 シャスターは星華と一緒に森の中に戻ろうとしているのだ。


「ち、ちょっと、待って! シャスターは魔法で戦うのでしょ? ここにいたほうが良いんじゃ……」


 慌てるカリンにシャスターではなくエルシーネが笑った。


「シャスターくんは魔法で戦わないわよ」


「え!? どうしてですか?」


「シャスターくんの魔法って、ほら、派手でしょ? あんな魔法を撃たれちゃ、他の軍隊にも気付かれてしまうわ。そのことを知ったゴブリン・ロードに逃げられてしまったら元も子もないのよ」


 確かにあんな災害級の魔法が放たれたら、この周辺一帯にいる全ての者たちが気付いてしまうだろう。

 しかし、それではシャスターの魔法無しに千匹ものゴブリンをどうやって倒すのか。


「まぁ、見てて。私も地味に戦うのは苦手だけど、シャスターくんに比べたらかわいいものだから」


 エルシーネは野原の中央に向かって、ひとり歩き出す。


「それじゃ、シャスターくんと星華さんは私の取りこぼしで逃げた敵だけ退治してね」



 エルシーネは広範囲攻撃を得意とする魔法使い(ウィザード)ではない、騎士だ。騎士ひとりだけで千匹もの敵に何が出来るのか、カリンは不安を隠しきれない。

 しかし、野原の中央に立ったエルシーネの表情に悲壮感は全くない。

 それどころか、高揚感が溢れているように見えた。



 ちょうどその時、前方の森がざわめき出した。

 森の中から異形の魔物が現れたのだ。


「あれが、ゴブリン……」


 カリンは初めて見た魔物に鳥肌が立った。

 姿は人間と同じ二足歩行で、身長はカリンの胸ぐらいだろうか。あまり大きくない。ただその見た目が醜悪だった。緑色の肌に尖った耳と裂けた口、そして残忍そうなつり上がった目、その姿にカリンは嫌悪感しか持つことができなかった。


 そんなゴブリンが森の中から何十、何百と出てくる。

 そして、エルシーネの存在に気付いた魔物たちは残忍そうに叫びながら彼女の周りを囲い始めた。


 まさにエルシーネにとって絶体絶命の状況となってしまった。


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