第二十一話 受け継ぐ願い
「……そんなことがあったのね」
カリンからシュトラ王国の興亡を聞き終えたエルシーネは小さく息を吐いた。
同情するつもりはないが、悲しい出来事には違いなかったからだ。
「文献には、アークスはかなり優秀な神官長だったと記載されています。小国のため最高位が神官長止まりでしたが、実力はそれ以上だったと。シュトラ王国が滅ぶことさえなければ、周辺国にまで名を残すほどの神官になっていたでしょう。しかし、まさか生きていたとは……」
そのアークスから信力の核を受け取ったのがカリンなのだ。
「でも、信力の核を他人に渡すなんてできるの?」
そんな話をエルシーネは聞いたことがなかった。
そもそもそれが出来るのであれば、神官たちは代々信力を受け継いでいくだけで簡単にレベルアップが出来てしまう。
「信力の核を受け渡すことはできません」
ユーゲン神官上長は断定した。
まさにエルシーネの言う通りであるからだ。ただ、目の前に高レベルに成長した少女がいることも事実だった。
「アークスは若い頃から天才と呼ばれていた神官です。この百年の間に信力の核を受け渡す特殊魔法を編み出していたのかもしれません」
おそらくはユーゲンの推測が正しいのだろう。
しかし、それだと新たな疑問が出てくる。
「でも、なんのために?」
死者の森で永遠の時を過ごすアークスにとって、信力を他人に譲り渡す必要などないはずだ。
「アークスは自分の行いが間違っていることを知っていた。だからこそ、いつの日か自分の過ちを正してくれる者に出会えた時、信力を渡そうとしていたのかもね」
それがカリンだったのだ。
シャスターの言葉にエルシーネもユーゲンも納得した。
そして、カリン自身も。
「私はアークスさんから受け継いだ信力を人々を守るために使っていく。それがきっとアークスさんの願いだと思う」
最初アークスを極悪人だと思っていたカリンだったが、過去の出来事を見てからそれが違うことが分かった。
ただ、だからといってアークスの行動が正しかったかどうかは分からない。間違っていたのかもしれない。
しかし、それを決めるのは他人のカリンではない。アークス自身なのだ。
カリンは託された信力を自身が後悔しないように使うだけだ。
その決意を見てエルシーネは微笑んだ。
「やっぱりカリンちゃん、私の片腕にならない?」
「おい」
「あははは、冗談よ。それじゃ、カリンちゃんのレベルも分かったことだし、そろそろ敵の本拠地に乗り込みましょうか」
四人はユーゲン神官上長たちの見送りを受けながら大聖堂を後にした。
そして、そのままシャイドラの正面門を通り抜け、フェルノン山脈に向けて進み始めた。
皆さま、いつも読んでいただき、ありがとうございます!
今回はアークスが起因するお話でした。
死者の森、旧シュトラ王国の神官長だったアークスです。
さて、アークスから信力を受け取ったカリンは、どう成長していくのでしょうか?
次回も楽しんで読んでいただければ嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!




