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第十九話 シャイドラの大聖堂

 大聖堂はシャイドラの中心地にあった。

 彼らが昨日試合をした建物の裏側だ。それなのに迂闊にもシャスターは忘れていたのだ。


「これが大聖堂……」


 大聖堂の前に立ったカリンが感慨深く眺める。

 教会を大きくしたものが大聖堂だ。

 残念ながらレーシング王国には大聖堂がなかった。だから、カリンは初めて見る大聖堂に感動したのだ。しかも、シャイドラの大聖堂の外壁は綺麗と塗装されており、その雄大さと相まってまるで神々の宮殿のような美しさだ。

 カリンはしばらく見惚れていた。

 しかし、なぜ大聖堂に来たのか。何も理解できていないカリンに、シャスターが説明する。



「カリンの信力レベル、つまり神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)としてのレベルを大聖堂で調べてもらうためさ」


 神聖魔法を扱う神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)の職業の中の一つが神官である。

 神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)と神官は広義では同じ意味であり、それぞれのレベルも同じということだ。

 さらにその土台には信力レベルがある。個々の能力である信力のレベルが上がることによって、職業である神官レベルも上げることができるのだ。

 つまり、信力レベルと神官レベルはイコールということだ。



「神官様にレベルを調べてもらうのね」


 カリンは神官見習いとしてレーシング王国でノイラの教会に奉公していた時、自分の信力と神官レベルを上位の神官が教えてくれていたことを思い出した。その時、カリンのレベルは三だった。

 だからこそ、自分のレベルを神官に調べて貰うために大聖堂に来たのだと、カリンは思ったのだ。

 しかし、シャスターは首を横に振る。


「低レベルの確認なら神官でも分かる。しかし、ある程度のレベルからは人が確認することは難しい。だから、ここに来たのさ」


「ん?」


 カリンの予想とは違い、神官がレベルを教えてくれるわけではないらしい。それなのになぜ大聖堂に来たのだろうとカリンは疑問に思うが、尋ねる前に大聖堂に着いてしまった。




 シャスターは大聖堂の中庭を抜けて大扉を開けると、広い礼拝堂の中を大幅に歩く。

 礼拝堂には数人の神官たちが日課である礼拝を行っているところだった。教会は自由に門戸を開いているので、誰が入って来ても別段気にする者はいないのだが、この四人は違った。

 特に最後尾にいる女性に皆の視線が集中する。


「エルシーネ様!」


 突然の皇女の来訪に誰もが驚いていたが、シャスターはそのままカリンの手を引っ張りながら礼拝堂の奥に進む。

 そこには人の姿をした十二体の等身大の像が置かれていた。礼拝している者たちの信仰の対象だ。


「ファルス神教の十二神!」


 カリンは両脚を着いて両手を握ると、像の前で頭を下げた。

 ファルス神教とは、エースライン帝国をはじめ周辺国の地域で信仰されている神教だ。当然ながらレーシング王国でもファルス神教を信仰しており、レーシング王国の教会で奉公していたカリンは、フェルドの町の教会でも毎日礼拝していた。



「これはこれは、エルシーネ皇女殿下」


 奥の扉から従者を伴った老人が現れた。


「ユーゲン神官上長、急に来て申し訳ありませんが、彼女の信力レベルを測ってもらえますか?」


 エルシーネの頼みにユーゲン神官上長はにこやかに応じた。


「もちろんです」


 しかし、にこやかに応じられない人物もいた。

 カリンだ。


「し、し、しんかん上長……さま!?」


 カリンはユーゲン神官上長の前で両膝をついて頭を下げた。

 神官上長の身分に驚いたからだ。


 神官の職位は、カリンのような神官見習いから始まり、レベルが上がると神官になれる。

 そして、その神官をまとめ上げるのが神官長であった。

 通常、神官長が一国の神官の職位として最高位である場合が多い。カリンが住んでいたレーシング王国でも神官の最高位が神官長であり、それ以上の身分はない。

 旧シュトラ王国でも、アークスが神官長として最高位であった。


 しかし、大国になるとさらにその神官長の上の職位がある。

 それが神官上長なのだ。

 神官見習いのカリンとしては、知識として知っているだけの存在である神官上長が実際に目の前にいるのだ。

 ひざまずくのは当然であった。



 そんなカリンをユーゲン神官上長は優しい目で笑う。


「お立ちなさい、少女よ。畏まる必要はありませんよ」


 穏やかな口調で微笑みユーゲン神官上長に手を取られてカリンはゆっくりと立ち上がる。


「あ、ありがとうございます」


 カリンはユーゲン神官上長の後に続き歩くと、石像たちの前に立った。

 すると石像たちの中央の台座の上に透明に輝く球が置かれている。


「さぁ、少女よ。こちらに来て、この球に手のひらを乗せなさい」


 カリンは言われるがまま球の前に立ち、ゆっくりと球に手を乗せた。すると石特有の冷たい感触に襲われたが、それも一瞬のことでそれ以外では特に変わったことはない。


 しかし、みるみるうちに変わっていったものがある。ユーゲン上神官長の表情だ。



「こ、これは……」


 先ほどとは逆に、ユーゲン神官上長が驚きの表情を見せている。

 球を凝視しているユーゲン神官上長に対して、カリンは不安を覚える。


「あ、あのう……何かあるのですか?」


 しかし、ユーゲン神官上長はカリンに答えるよりも先にエルシーネに問いかける。


「エ、エルシーネ皇女殿下、この少女はいったい……」


「私もまだ最近出会ったばかりなの。こちらのシャスターくんと一緒に旅をしているそうよ」


 エルシーネの意地悪そうな微笑みに、ユーゲン上神官長は何かに気付いたようでさらに驚愕する。


「まさか! シャスター・イオ様!?」


 ユーゲン神官上長は驚き喘ぐと、深々と頭を下げた。


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