第十八話 出陣
翌朝、ザン将軍は二万の大軍を率いて出発する準備を進めていた。
アイヤール王国内のフェルノン山脈西側の南端に向かうのだ。すでにレーテル国王には連絡済みであり、今から急いで進軍すれば三日後には到着するだろう。
「それでは、後を任せたぞ」
「ザン将軍もお気をつけて」
副将がザン将軍に敬礼をする。彼は残留する五千の騎士と三万五千の歩兵でシャイドラの防衛を任せられたのだ。
「おそらく敵の本隊はシャイドラを狙ってくるだろう。シャイドラの防衛力は高いとはいえ、気を抜くなよ」
「はっ!」
副将に細かな指示を出した後、ザン将軍は副将の後ろに立っていたシャスターに笑顔を向けた。
「それでは、シャスター様たちも宜しくお願い致します」
「はいはい」
シャスターはつまらなそうに応えた。
そもそも、今回はザン将軍に上手く乗せられてしまった感が強い。シャスターとしては、シャイドラの防衛を任されると思っていたのだ。
シャイドラは要塞都市だ。さらに騎兵、歩兵合わせて四万もの留守の軍隊が都市を防衛することになっている。もし、シャイドラがゴブリンたちの本命で、何万もの大軍が押し寄せてきたとしても、シャイドラが陥ちることはない。
そこでシャスターは敵が襲ってきたら、シャイドラの防壁の上から適当に魔法を放って楽をしようと考えていたのだが。
「敵の本拠地に攻め込ませるとは、人使いが荒い将軍だ」
ぼやいたシャスターを見てザン将軍が大笑いする。
「そう申されますな。エルシーネ皇女殿下も同行するのですから、そこまで大変な旅にはならないでしょう」
「そうよ。シャスターくんは私の援護をしてくれればいいからね」
「いや、エルシーネがいるからこそ大変な旅になり……」
「ん、何か言った?」
「……なにも言ってない」
つまらなそうに応えるシャスターに、ザン将軍は頭を下げる。
ゴブリン・ロードの本拠地の場所については、昨夜のうちに確認済みだった。もちろん、正確な場所までは分からないが、斥候たちの報告から推測すると本拠地はシャイドラからフェルノン山脈へ真っ直ぐ東に向かった場所、南北に延びているちょうど真ん中、山脈の中腹にある可能性が高い。
そこに向かって、シャスターたちは山道を歩いて進むのだ。
「それでは、シャスター様、宜しくお願い致します」
そのまま馬上に乗ったザン将軍は、シャスターたちの見送りの中、出発した。
「それじゃ、私たちも行きましょうか」
カリンがシャスター、星華、そしてカリンを見つめる。この四人が敵の本拠地に乗り込むパーティーだ。
「あ、あのぅ、私なんかが一緒に行くのは足手まといじゃ……」
カリンが恐縮している。
他の三人が超がつくほどの高レベルだけに、一人だけ低レベルのカリンとしては邪魔にならないか心配しているのだ。
「何言っているの、カリンちゃん! 神聖魔法の使い手の貴女がいてくれなきゃ困るじゃない」
「でも、私はまだ低レベルの神聖魔法の使い手ですし……」
「ん!? 低レベルって……」
不思議そうな表情をしたエルシーネだったが、すぐに理由に気付く。
「まさか、シャスターくん!?」
それと同時にシャスターも気付いたようだ。この少年にしたはかなり慌てている。
「そうだった! カリン、今すぐ大聖堂に行こう! エルシーネ、出発は少し待って」
「全く、もう!」
呆れ顔のエルシーネをよそに、シャスターはシャイドラにある大聖堂に向かって走る。
その後ろをエルシーネと星華も付いていく。
さらにその後を訳も分からずまま、カリンが慌てて走り始めた。




