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第十七話 ゴブリン軍

「現在、我々は十五年前の脅威と同じ状況に置かれているということです。そこで、シャスター様のお力をお借りしたいのです」


 ザン将軍は立ち上がると頭を下げた。


「他の将軍たちは出陣しないの?」


 ザン将軍に座るよう促してから、シャスターが質問をする。

 十輝将(じゅうきしょう)はそれぞれ帝国内の各地を守護しているが、今回のような場合なら数人の将軍や軍が共に派遣されて来てもいいはずだ。



「実は、帝国では今回のゴブリン・ロード以外に二件もの似たような件が発生したようで、他の将軍たちは守護地から離れられないのです」


「まさか、魔物の(ロード)化が同時に三件も!?」


「はい」


 さすがのシャスターも驚いた。

 百年に一度起きるかどうかの出来事が、十五年経った程度で同場所で起きること自体、異常なことだ。

 しかし、さらに他の場所でも二ヶ所、魔物の(ロード)化が起きているということなど、普通に考えてあり得ない。

 同時に三件も起きている。それを偶然と呼ぶにはかなりの無理があるだろう。


「それで、私がザン将軍と共にゴブリンを討伐するようにと勅令が出たのよ。まぁ、父上が出したというよりは、嫌がらせが大好きな兄上の差し金でしょうけどね」


「そんなことはありません。皇子殿下はエルシーネ皇女殿下のことを想ってこの地に派遣したのですよ」


「ふん。そんなこと私が本気で信じていると思っているの?」


 ザン将軍の必死のフォローもエルシーネには全く響いていなかった。演技までしてシャスターを参戦させたことは、やはり兄に嫌味を言われないための対策だったようだ。

 エルシーネと兄の仲が悪いのはシャスターも知っている。というよりも、妹が一方的に兄を嫌っているのだ。


「これで討伐するのに時間がかかったら、また何を言われるか分かったもんじゃないわ。早く討伐してしまいましょう」


 食べ終わったいくつかの皿を下げさせると、エルシーネがテーブルの真ん中に大きな地図を広げた。




「ゴブリンたちはフェルノン山脈全域に現れているわけではないの。斥候によると、フェルノン山脈西側の中央、つまり私たちのいるシャイドラからアイヤール王国までね」


 エルシーネが地図に描かれている山脈を指差す。


「前回と同じ場所に現れているわ。おそらく山脈西側の中央の何処かにゴブリン・ロードの住処があるのだと思う」


「それで、ゴブリン軍は今回もアイヤール王国側から攻め入ると?」


「ええ、ゴブリン・ロードなら高度な知恵もあるわ。エースライン帝国に攻め込むよりも、アイヤール王国に攻め込む方が簡単だと思っているのよ」


 だからこそ、十五年前もアイヤール王国に攻め込んだのだ。実際、今回もエルシーネがペガサスに乗ってゴブリンの大軍を確認した場所は、山脈のアイヤール王国側付近だった。


「私が見てきたゴブリンの進軍の速さだと、あと四、五日で山の麓に辿り着くわ」


 このまま十五年前のように対応が遅れれば、四、五日後にはゴブリンの大軍がアイヤール王国を侵略し始めるだろう。



「そこで、私が二万の軍隊を率いてアイヤール王国側の山麓に向かい、そこでゴブリン軍を撃退します」


 ザン将軍が戦略を説明する。


「でも、それ自体が罠だったら?」


 シャスターの質問もっともだった。

 そこまで知恵のある魔物なら、アイヤール王国に攻め込むことが陽動の可能性もある。十五年前は夜襲を仕掛けてきたのに、今回一万もの大軍をわざわざ見つかるように進軍しているのも怪しい。


 それでは本命は何処か。


「……ここか」


 シャスターは自問自答した。

 アイヤール王国ではなくエースライン帝国への急襲、つまりこの国境都市であるシャイドラに攻め込むことがゴブリン・ロードの本命の可能性が高い。


「シャスター様の予想通り、その可能性が高いでしょう」


 ザン将軍は微笑んだ。シャスターの頭の回転が速くて話すのが楽だからだ。


「それで、俺にシャイドラの防衛に当たれと?」


「いえいえ、それには及びません。この国境都市シャイドラは要塞都市としての機能も備えております。残存兵力を残しておけば、数万の軍勢にも耐えることができるでしょう」


「ふーん、それじゃ俺は?」


 と質問した直後、シャスターは後悔した。ザン将軍の考えが分かってしまったからだ。

 シャスターの表情の変化を見て、ザン将軍はもう一度笑った。


「シャスター様には少数のみで、ここから敵の本拠地に攻め込んで頂きます」



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