第十四話 責められる後継者
「ええー!?」
しばらくして、やっと正気に戻ったエルシーネが驚く。
「だって、魔法使いって魔物に関しての勉強も当然するのでしょ? イオ魔法学院ならゴブリン・ロードについて詳細に書かれた書物があるはずよね?」
「うん、あった。でも、ゴブリンなんて大して興味もないから軽く読んだだけ」
「それだけ?」
明らかにエルシーネは落胆している。
さらに軽蔑を込めた目で、シャスターを見据えている。
「シャスターくんにはガッカリだわ」
失望した表情を隠そうともしないエルシーネに、シャスターはムッとした。
「ゴブリン・ロードのことはあまり知らないけど、それの要因となる魔物の王化についてなら知っているよ」
「例えば?」
「魔物の王化は魔物の一個体が突然変異を起こし、知能も戦闘力も高くなる現象のことで、魔物の王になった魔物は同種族の大群を率いて周辺地域を襲い掛かること」
「……」
「魔物の王化は偶発的な環境要因が重なった場合に自然発生するため、起こるのは非常に珍しいこと」
「はぁ……」
エルシーネは頭を抱えた。ザン将軍も腕を組んで宙を見つめている。
その程度の知識なら、二人も知っているからだ。
「シャスターくんじゃなくて、ヴァルレインくんを連れて来ればよかった……」
エルシーネはアイヤール王国で姿を消したシーリス魔法学院の後継者の名前を出した。
「ヴァルレインくんなら、魔物の王化やゴブリン・ロードについても詳しく知っていたでしょうに。シャスターくんと違って」
当人を目の前にして大変失礼なことを言い放ったエルシーネだったが、罪悪感はないようだ。
それどころか、さらにシャスターを非難する。
「ほんと、シャスターくんって昔から適当よね。魔法使いにとって知識は何よりも必要なものでしょ? それを覚えていないなんて、信じられないわ!」
「イオ魔法学院には何千、何万もの膨大な本がある。それを全て読破なんてできるわけないだろう?」
「いいえ、断言できます。ヴァルレインくんなら全て読んでいると」
「うっ!」
反論したシャスターだったが、見事に切り返されて言葉を失ってしまった。
確かにヴァルレインなら読破していても不思議ではない。
「まぁまぁ、エルシーネ皇女殿下、良いではないですか。シャスター様にお会いできただけでも喜ばしいことなのです。それにゴブリン・ロードについて知識がなくとも、我々が負けることはありません」
「負けることはないけど、犠牲が出ることは確かよ」
ザン将軍が援護するが、エルシーネには通じない。さらにシャスターへの口撃は続く。
「この宴もそれを聞くために用意して、私も駆けつけて来たのに。あーあ、なんでヴァルレインくんじゃなくてシャスターくんだったのかなぁ……わざわざ来て無駄足だったわ」
「そんなことありません!」
エルシーネの度重なる嫌味に、ついに我慢の限界を超えてしまって大声で叫ぶ。
しかし、叫んだのはシャスターではない。
カリンだった。




