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第十二話 十五年前の出来事2

 当時、ザン将軍はまだ将軍ではない。隊長として千名の兵士を束ねる指揮官だった。


「我々がアイヤール王国に到着した時、すでにゴブリン軍は王都アルを包囲しており陥落寸前でした。そこで、我々は王都を包囲しているゴブリン軍を逆手に取り、さらにその後方からゴブリン軍を包囲し、王都城壁の弓箭隊と連携して挟み撃ちにしたのです」


 ゴブリン軍を前後から挟撃するのだ。しかも、エースライン帝国兵士の個々の戦力はアイヤール王国軍と比較にならないほど高い。

 ゴブリン軍は総崩れになった。


「当時、私は包囲する前線の主翼を任されていました。そのため、最も多く奴らと戦ったのですが……」


 ザン将軍の表情が苦虫を噛み潰した表情になる。


「最も多くの兵士を殺されてしまいました」


「ザン将軍……」


 カリンには適切な言葉が浮かばない。代わりに声を掛けたのはエルシーネだった。


「何言っているの! ザン将軍の活躍があったからこそ、ゴブリンたちは総崩れになったのよ。逆に言えば、ザン将軍だったからこそ、最小限の被害で済んだのよ!」


 先ほどまでザン将軍に嫌味を言っていたエルシーネだったが、それは茶化しているだけであって、本当は歴戦の強者であるザン将軍を尊敬しているのだ。



「エルシーネ皇女殿下が誉めてくれるとは珍しい。無論、我々軍人は国を守るために戦っているのです。だからこそ戦いに死はつきもの。ただ……」


 ザン将軍はシャスターたちを見つめた。


「先ほども申しましたように、奴らは今まで戦ったことのあるゴブリンとは全く違いました。通常、ゴブリンは組織だった行動をすることをしません」


 ゴブリンは僻地に小さな集団で暮らしていることが多い。

 ゴブリンの村のようなものだ。しかし、同じゴブリン同士でも他のゴブリンの村との交流はほとんどない。そのため、人間を襲うゴブリンは一つの村の集団であって、他の村との合同ということは普通ないのだ。

 それが一万ものゴブリンが襲ってきていた。つまり、多くの村のゴブリンが徒党を組んで襲って来たことになる。



「さらにゴブリンは戦闘でも組織的な行動をしてきました。ゴブリンたちにも司令官らしき者たちが何匹もいて、彼らがゴブリンの部隊を動かしていたのです。その連携した戦術は敵ながら見事なものでした。だからこそ、我々も多くの犠牲を出してしまったのです」


 ザン将軍の話はフォーゲンが話していたことと同じだった。二人が揃って同じことを言っているのだ、それが正しいのだろう。


 そして、ゴブリンのことを知らないカリンでさえ、十五年前に起きたゴブリンの襲撃が異常だということは分かる。

 知能が低い魔物が高度な戦略の下、戦術を駆使して戦うとは、一体何が起きたというのか。



 しかし、どうやらカリン以外の全員は、その理由が分かっているようだ。


「つまり、十五年前にアレが現れたということ?」


 シャスターがフォークを戻しながら確認をする。

 すると、ザン将軍は頷いて肯定した。


「そうです。ゴブリンの王、ゴブリン・ロードが現れたのです」



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