第二十二話 フローレの誓い
フローレはシャスターが「フェルドの真実」を話してくれて以来、星華を見てはいない。
星華は隠密にシャスターの身を守っているらしいが、騎士団の警護役というわけではないようだ。
旅人だったシャスターと長い間ずっと一緒に行動していたのだろうと想像はつくが。
フローレは星華のような美しい女性を見たことがなかった。
氷のように冷たい瞳に、流れるような漆黒の黒髪。あれほどの美貌の持ち主は、デニムの侍女にもいない。
それにあのスタイルだ。フローレも自分の身体に自信を持っていたが、星華も引けを取っていない。いや、鍛錬をしている分、フローレよりもさらに引き締まっている。
まさに完璧だった。
(まさか、星華さんがシャスター様の恋人!?)
いいやそれはない、とフローレは自分自身で否定した。二人の雰囲気は恋人同士ではなく主従関係だったからである。
(彼女は一体何者なのだろう?)
フローレは不思議に思っていたが、だからと言ってシャスターに無理に聞くようなまねはしない。
シャスターが話さないということは、フローレに話す必要がないと思っているからだ。
シャスターのことだ、話す時がきたら話してくれるだろう。その時が来るまで待っていればいいのだ。
もちろん星華の存在は誰にも話さない。
シャスターにとって星華の存在は隠しておきたいに違いない。星華を紹介してくれたのは、カリンのことで悲しんでいた自分を気の毒に思ったシャスターの計らいだったのだ。
だからこそ、シャスターの信頼を失うようなことは絶対しない。
シャスターの優しさに応えられる存在になる。
そう改めて心に誓ったフローレだった。
ちょうどその時、星華は騎士団の建物の屋上に立っていた。
屋上から空を眺めると、遥か遠くに小さな炎が燃えている光景が見える。
フェルドの町だ。
巨大な火柱に包まれて激しく燃えている町……しかし、本当は燃えていないことをシャスターと星華、そしてフローレだけが知っていた。
フェルドの炎上は、シャスターが持っていた炎の粉と呼ばれる黒い粉を町にばら撒いたからだと誰もが信じている。
しかし、炎の粉なんていう物は実在せず、粉もただその辺の砂を集めただけだ。
松明を投げるタイミングに合わせて、シャスターが嘘の炎を放っただけなのだ。
だが、誰もが本物の炎だと信じきっている。それほどまでに激しく燃え盛る炎は圧巻だった。
間近で見ていたマルバスたちでさえ、幻の炎だなんて微塵も思っていない。
「さすが、シャスター様です」
独り言を呟いた星華は、次の瞬間すでに屋根から消えていた。




