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第十話 十輝将

 エルシーネは将軍だった。


 カリンが最大級の畏怖と賞賛を込めて、ザン将軍を「バケモノ」と呼んだが、エルシーネも「バケモノ」ひとりだったのだ。



「エルシーネ皇女殿下って、そんなにも強いのですか?」


 と星華に尋ねた瞬間、カリンはくだらないことを聞いたことを恥じた。

 そもそも圧倒的な強さがなければ、シャスターをたった一撃で倒せるはずがない。しかも、目にも止まらない速さでだ。


 そう、エルシーネは強いのだ。

 しかも、人間の領域を超えた強さだ。


 しかし、それでも不思議なことがある。

 星華の説明では、将軍は総合戦闘系と呼ばれるスキルが全て超上級以上のはずだ。

 しかし、あの細い腕で腕力が超上級以上だとは到底信じられない。


「エルシーネ様の戦闘力は、生まれながらの天性の素質と並々ならぬ鍛練の賜物です。もちろん、シャスター様の強さも……」


 星華がシャスターの自慢話を始めようとしたが、話が止まった。負けたシャスターが二人の前に現れたからだ。



「あーあ、疲れた」


 シャスターが観客席にどっと座り込む。

 エルシーネに吹き飛ばされただけで長時間戦ったわけではない。それでも、シャスターにとっては面倒な勝負だったし、疲れたのだろう。


「これで、シャスター様はエルシーネ様との勝負で三十八戦三十八敗です」


「ええっ!?」


「星華、余計なことは言わないの」


 シャスターはつまらなそうな顔をしている。戦う前もつまらなさそうだった。

 それは、最初から勝負の結果が分かっていたからだ。

 ザン将軍との勝負も結果は分かっていたのだが、戦いながら学ぶことができた。しかし、エルシーネとの戦いでは学ぶものが何もない。



「シャスターくん、そんなに気にすることないわよ。ザン将軍が言ったように前回よりも格段に強くなっているわ」


 エルシーネが後ろから現れた。勝者の余裕の発言だ。


「そりゃ、どうも」


「それに、シャスターくんが弱い訳じゃないわ。事実、レーシング王国の王領騎士団幹部なんて、あっという間に簡単に倒せたじゃない」


「……」


 どうしてそのことを知っている、とは尋ねなかった。

 カリンにも話したとおり、エースライン帝国の情報網の高さはずば抜けている。レーシング王国内に多くの間者を放っていても不思議ではない。


「まぁ、その時とは立場が逆転した感じかな」


 強烈な皮肉にシャスターの顔が引きつった。

 しかし、そんなシャスターにお構なしに、エルシーネの自慢が続く。


「私が強すぎるの。エースライン帝国の皇女でありながら、武術の腕前は帝国でも指折りの実力者。さらにはこの美貌の持ち主。このギャップが我ながらたまらないと思うの。はぁー、私の殿方になる人はさぞ……」


「苦労するだろうね」


 シャスターがボソッと呟くと、エルシーネの鋭い視線が襲いかかる。


「……何か言った?」


「何も」


「……そう、それならいいわ。カリンちゃん!」


「は、はい!」


 突然呼ばれたカリンは驚いて背筋を伸ばした。


「私の試合、どうだった?」


「凄い、凄すぎます! ビックリです! あんなにも簡単にシャスターを倒すなんて……」


「おい」


「あっ……」


 エルシーネの強さに驚嘆し、思ったままの感想を述べたカリンだったが、シャスターの気に障ってしまい、慌てて口を押さえた。


「カリンちゃんの率直な気持ちが聞けて嬉しいわ!」


 エルシーネは全く気にしていないようだが、シャスターはエルシーネと気まずい雰囲気だ。そこに無理矢理に巻き込まれてしまったカリンとしては何とかしなくてはならない。



「そういえば、エルシーネ皇女殿下は将軍だったのですね!」


 カリンは話題を変えた。


「そうよ。そこにいるザン将軍と同じ、十輝将(じゅうきしょう)のひとりよ」


 上手く話題を変えられた。カリンはひとまずホッとしたが、「十輝将(じゅうきしょう)」とは何だろう。そういえば、星華もエルシーネが十輝将のひとりだと話していたが。


「十輝将とは、エースライン帝国が誇る十人の将軍のことだ」


 カリンに聞かれてシャスターが仕方がなく答える。


「エースライン帝国には将軍が十人もいるの!?」


 カリンは驚いた。一人でも充分過ぎる戦力を持つ将軍が十人。

 さすがエースライン帝国というべきか。


「十人の将軍が各方面に分かれて広大な領土を守っているんだ。ここシャイドラのように」


 シャスターの説明では、エースライン帝国の南東部の国境を守る都市がシャイドラであり、シャイドラを含んだ南東部一帯を統治しているのがザン将軍だ。それと同じように、それぞれ将軍が帝国の各方面を守っているとのことだった。


 そんなシャスターの説明を聞いて、エルシーネが得意満面の表情を浮かべる。


「さて、カリンちゃんに私の凄さが分かったところで。ザン将軍!」


 呼ばれた当人は、エルシーネのやり取りには興味がないらしく、側近たちと話をしていたところだった。


「分かっておりますよ。ちょうど宴の準備が整ったとのことです。会場に行きましょう」


「やったー!」


 エルシーネは意気揚々と闘技場を後にした。

 その後をブスッとした表情のシャスターと、カリン、星華が続く。

 さらにその後ろから、ザン将軍が苦笑しながら宴の会場に向かった。



皆さま、いつも読んでいただき、ありがとうございます!


エルシーネは将軍でした。

これからの活躍に期待してくださいね。

そして、シャスターたちがエースライン帝国に来たので、これから他の十輝将たちも登場すると思います。

読んでいただいている皆さまに、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。


これからもよろしくお願いします!

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