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第三話 国境都市シャイドラ

「何よ……これ……」


 カリンには眼下に広がる光景が信じられない。

 山脈の峠にこれほど巨大な都市があるなんて、考えられないからだ。


「エースライン帝国の国境都市シャイドラ」


 シャスターの説明を聞いても、カリンはただ唖然とするだけだ。

 シャイドラの都市は峠を下ったずっと先にあるのだが、それでもカリンの視界いっぱいに広がるほど大きい。


「……なぜ、山奥の国境に、こんな立派な都市があるの?」


 峠から見下ろしているので、シャイドラの全容がよく見える。

 山脈の地形を上手く利用した造りは、都市そのものが要塞のようだ。高くそびえる崖が防壁の代わりとなっていて、その高さはゆうに三十メートルは超えているだろう。

 その防壁の中には街が広がっていた。

 山奥の辺境の地にレーシング王国の王都よりも大きな都市があるのだ。カリンが驚愕するのも当然のことだった。



「別にシャイドラが特別な訳じゃない。エースライン帝国の国境には全て巨大都市が置かれているのさ」


「そうなんだ……」


 さすがは七大雄国(セフティマ・グラン)だ。カリンの暮らしていたレーシング王国とは、国力が何桁も違うのだ。

 改めてエースライン帝国の凄さにカリンは圧倒された。


「この程度で驚いては、帝都を見た時は倒れるよ」


 シャスターが冗談混じりで笑ったが、カリンとしては本当にそうなってしまいそうで、笑うことが出来なかった。



 そのまま三人は馬で山道を下り、一時間後に国境都市シャイドラにたどり着いた。

 国境ということもあり、防御上、アイヤール王国側からのシャイドラへの入口は一つしかない。そこには商人や旅人の列ができていた。エースライン帝国に入国するための検問があるのだ。


「時間がかかりそうね」


 この様子だと中に入れるのは夜遅くになってしまうだろう。

 だが、最後尾に並ぼうとするシャスターたちの前に突如数人の騎士たちが現れた。


「よくお越しくださいました。騒ぎにならぬよう馬上での挨拶の非礼、お許しください」


 先頭の騎士が頭を下げると、他の者たちもそれに倣う。


「このまま我々について来てください」


 シャスターたちを囲むように騎士たちは行列の横を通り過ぎ、優先的にシャスターたちを入口に向かわせる。列に並んでいる者たちからすれば納得がいかないだろうが、騎士たちが通したのだ。誰も文句は言えなかった。


「いやー、役得、役得」


 並んでいる人々を横目に、笑顔で通り過ぎるシャスターとは対照的にカリンは顔を伏せて縮こまっている。さらにその後ろから表情を変えることなく星華が通り過ぎる。



 入口で三人は検問を受けることなく、そのまま騎士たちとともに防壁を超える。

 すると、一気に視界が広がった。


「わぁ、凄い!」


 カリンは声を上げた。

 そこには広大な街並みが広がっていたからだ。

 山の上から見下ろした光景も凄かったが、目の前に映る街並みは圧倒的な存在感だった。左右はずっと先まで続いているし、前方にいたってはどこまで続いているのかさえも見えない。そして、その街中を大勢の人々が行き交っている。

 ここが辺境の山の中とは思えないほど、活気づいた光景だった。


 その中をシャスターたちは騎士たちに先導されてついていく。



「こちらへどうぞ」


 都市の中心まで馬を進めた騎士たちは、目の前にそびえ立つ建物の前で馬を降りた。

 周りの建物よりもひときわ高くそびえる頑丈そうな巨大な建物。ここがこの都市の行政を司る場所なのは明白だ。


 シャスターたちも馬を降りて建物の中に入る。

 建物の入口を警備している騎士たちは敬礼をしながら一行を通した。

 建物の中には長い廊下が延びている。

 そして、その先にある大きな扉を開けると、そこは広い円形状のホールになっていた。



「お待ちしておりました、シャスター様」


 ホールに男の大きな声が響き渡る。


 中央には多くの騎士と共に、ひとりの男がひざまずいていた。

 ひざまずいているとはいえ、巨大な体躯から一目で偉丈夫だと分かる。

 それよりなにより、その男から発せられる威圧感は、戦闘の素人であるカリンにもヒシヒシと伝わってきていた。


 間違いない。

 この都市の頂点に君臨するのはこの男だ。


 カリンは緊張した表情でその男を見つめた。



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