第六十二話 北へ &(登場人物紹介、MAP)
翌朝、シャスターたちはアイヤール王国第二の都市ロストンを出発しようとしていた。
ひっそりとロストンを出て行こうと思っていたのだが、そんなことはマイトラが許さない。
シャスターたちがロストンから外に出ると、大勢の騎士がすでに街道に並んでいて盛大な見送りとなっていた。
「シャスター様、本当にありがとうございました!」
近付いてきたマイトラが頭を下げて感謝の意を伝える。
シャスターとカリンは馬を止めた。星華は大勢の騎士がいるので、すでにシャスターの影の中に潜って身を隠している。
「いいよ、いいよ、気にしないで」
つまらなさそうにシャスターは軽く手を振った。
アイヤール王国に来てからの出来事が全てエルシーネの手の平で踊らされていたようで、釈然としていないのだ。
そんなシャスターの顔に突然笑みが浮かんだ。マイトラが重そうな皮袋を差し出したからだ。
「この度のシャスター様のご活躍に対して、あまりにも些少ではございますが、受け取って頂ければ幸いでございます」
「マイトラ大隊長は気がきくね。それじゃ、遠慮なく……」
「駄目よ!」
カリンの怒声が響いた。驚いたシャスターが皮袋をつま先に落としてしまう。
「痛っ!」
そんなシャスターを無視して、カリンはマイトラに目を向けた。
「とてもありがたい申し出ですが、これからアイヤール王国は復興しなくてはなりません。金貨はそのためにお使いください」
「しかし、これは私自身の財です。私の感謝の気持ちですので、ぜひ受け取って頂きたいのです」
「そうだぞ、カリン。マイトラ大隊長の好意を無にするのはよくないぞ」
シャスターはマイトラを応援したが、カリンに睨まれてそれ以上何も言えなくなってしまった。
「マイトラ大隊長の財産なら尚更受け取ることはできません。このお金は苦しんでいる人々のために使ってください」
カリンの言葉は、正論すぎるほど正論だった。
「分かりました。カリン様」
マイトラはカリンの言葉に感銘を受けた。さすがエルシーネ皇女殿下がお認めになるだけの人物だと、大きく頷きながら納得している。
その横でシャスターはふてくされた表情をしている。
それを見てカリンは笑った。
「さあ、エースライン帝国に向かいましょ!」
「……はいはい」
元気が良い少女と落ち込んでいる少年は馬に乗ると、エースライン帝国に延びる街道を進み始めた。
このまましばらく東に進んだ後、北へ進むことになる。
「皆さま、お元気で!」
何も遮るものがない街道では、徐々に小さくなっていく二人の姿が長い間消えない。
その後ろ姿をマイトラはいつまでも見送っていた。
面白いほどにお似合いのコンビだと、心の中で苦笑しながら。
♦♢♦♢♦♢♦ アイヤール王国 MAP ♦♢♦♢♦♢♦
第三章 主要登場人物
シャスター
主人公。
圧倒的な魔力を持つ魔法使い。
火炎系魔法の最高峰、伝説のイオ魔法学院の後継者であり、「五芒星の後継者」の一人。
金色の髪と真紅の瞳を持つ容姿端麗な少年だが、性格に少々難(?)あり。
カリン
レーシング王国西領土にあったフェルド町の町長の孫娘。
真っ直ぐな性格で、責任感が強い。
フローレの魂眠を治す方法を探す為、シャスターと共に旅をしている。
神官見習いの経験があり、神聖魔法の使い手でもある。
死者の森で、神官長アークスから「信力の核」を貰い受ける。
星華
シャスターと旅を続けている少女。
稀有な職業クラスである忍者、さらにその中でも「くノ一」の称号を持つ実力者であり、最上位マスター。
シャスターとは強い絆で結ばれた主従関係。基本、無口。
レーテル姫
アイヤール王国の王女。十二歳の若さだが、類稀な才能と年齢以上の思慮深さ持っている。
父王の死後、兄たちに疎まれ、辺境地に追いやられる。
その後、自ら国王になる決心をし、シャスターの援助もありアイヤール王国の新国王となる。
フォーゲン
レーテル姫の執事。元々は宰相だったが、ハルテ、ブレガに陥れられ、レーテル姫共々辺境地に追いやられる。
レーテル姫を国王にする為、シャスターたちと共に参戦する。
ハルテ国王
レーテル姫の母違いの長兄。父王の死後に国王を名乗ったが、それを認めない母違いの弟ブレガと内戦状態になる。
ブレガ
レーテル姫の母違いの次兄。長兄ハルテの国王を認めず、内戦を起こす。ナザールとは互いに利用し合う関係。
ナザール
ブレガ陣営の魔法使い。
超上級クラスの実力者であるが、自らを伝説のシーリス魔法学院の後継者と偽って名乗っていた為、本物の後継者ヴァルレインによって殺されてしまう。
ヴァルレイン
水氷系魔法の最高峰、伝説のシーリス魔法学院の本物の後継者。シャスターと同じく「五芒星の後継者」の一人。
自分の偽物が現れている噂を聞いて、アイヤール王国周辺を旅していた。
その道中で、レーシング王国に寄った際、魂眠に陥ってしまったフローレを氷の棺に閉じ込めて助けた。
また、困っているレーテル姫の為に、旱魃の土地に雨を降らせた。
エルシーネ
七大雄国の一角、エースライン帝国の第二皇女。ペガサス騎士団の騎士団長。
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皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
第三章「水と氷の旅人」編、これで終わりです。
読んで頂き、ありがとうございました。
第三章では「五芒星の後継者」のひとり、シーリス魔法学院の後継者ヴァルレインや、七大雄国のエースライン帝国、その皇女でペガサス騎士団長のエルシーネなど、これから主要になってくるキャラクターを出してみました。
また、魔法・スキルレベルの仕組みや、強さを表す階級制など、この物語の基本的となる考え方もお話しさせて貰いました。
章の最終話なので、アイヤール王国の地図も掲載しますね。
それでは、次回から第四章が始まります!
もし良ければ、これからも読んでくださいね。
よろしくお願いします!




