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第五十四話 東へ  &(登場人物紹介)

 シャスター、カリン、そして星華の三人は街道を東に向かって進んでいた。


 戦場となったキノス平原から東方面は、弟のブレガが支配していた地域だ。そのため、レーテル新国王の命を受けて制圧に向かう旧ブレガ陣営だった兵士たちを多く見かけた。


 彼らは百人単位の集団ごと進んでいたが、シャスターを見るなり畏怖の表情で慌てて地面にひざまずく。あれだけの凄まじい魔法を見せられたのだ、当然と言えば当然だった。

 シャスターが馬で通り過ぎる間、ずっとひざまずいている兵士たちを見て、最初のうちはシャスターも立つように促していたが、毎回同じことを繰り返すのが億劫になり、すぐにやめた。



 シャスターたちが馬で進み始めて二時間が経った頃、前方に大勢の兵士たちの大集団が東に向かっているのが見えた。

 数千人はいそうだが、一糸乱れることなく平然と隊列を組んで行軍しているのが遠くからでもよく分かる。

 有能な指揮官が束ねていることは想像に難しくなかった。しかし、大軍のため進みはあまり速くはない。そのためシャスターたちとの距離が徐々に縮んでいく。


 面倒なことに巻き込まれるのが嫌なシャスターは馬のスピードを落としたが、すでに大軍にシャスターたちの姿が見つかった後だった。

 数騎が砂ぼこりを上げながら、猛スピードでこちらに向かってくる。


「シャスター様!」


 騎士のひとりが大声と共に馬から飛び降り、地面にひざまずいた。後から来た者たちもそれに倣う。

 すでに星華は彼らに存在がバレないようにシャスターの影に入っていた。


「再び、そのご尊顔を拝謁できるとは至極の喜びでございます!」


 騎士が蒸気した顔を上げる。

 シャスターはその顔になんとなく見覚えがあった。レーテルがハルテとブレガ両陣営の拠点都市を制圧するよう命じた時にいた、確かブレガ軍の大隊長だ。


「あぁ、あの時の……」


「マイトラと申します。覚えて頂いたとは光栄の極みにございます!」


 大隊長は大袈裟に礼を述べた。

 彼らはレーテルの命令を実行するため、ブレガが支配していた拠点都市を制圧しに向かっている途中だった。


「ところで、シャスター様はどうしてこのようなところに?」


 マイトラは不思議に思った。

 シャスターたちは今頃王都に戻って祝賀会でも開いていると思っていたからだ。


「エースライン帝国に向かうためさ」


 シャスターは事実を話した。

 しかし、全てを話したわけではない。ゴブリン襲来の可能性があるため、祝賀会がなくなったことは話さなかった。

 それに、ゴブリン襲来のことは勝手に話してよい案件ではないからだ。ゴブリン襲来の話はいずれマイトラにも伝わるだろうが、それはレーテルからの言葉でなければならない。

 もちろんシャスターが今伝えたところで、レーテルは怒るはずもなく、それどころか早く伝えてくれたことに感謝するだろう。

 しかし、レーテルを飛び越えてシャスターが伝えてしまうことは、王権軽視に繋がりかねない。後々のレーテルのアイヤール王国運営を考えれば、この場では伝えない方が良いのだ。


 そんな生真面目なことを考えているシャスターを表情から読み取ったカリンはクスッと笑った。

 それがシャスターの良いところなのだ。

 普段は意地悪で最悪の行動ばかりが目立つ少年だが、芯はしっかりと持っている。

 シャスターと出会ってからまだ日は浅いが、カリンにはそのことがよく分かっていた。

 しかし、笑われた本人は至って真剣だった。マイトラに気付かれないように話を付け加える。


「帝国に急ぐ用事があってね」


「なるほど、そうでございましたか」


 マイトラは当然シャスターの言葉を信じた。エースライン帝国のエルシーネ皇女殿下がペガサスに乗って現れたのもそのためか、と勝手に整合性をとってくれる。



「帝国はこの街道を真っ直ぐに進めばいいんだよね?」


「はい。真っ直ぐに進んだ後、北の街道に向かえば、エースライン帝国との国境に着きます。我々もこの先にある拠点都市ロストンに向かっておりますので、道中よろしければ護衛を務めさせて頂きます」


 シャスターは断ろうとしてやめた。

 どのみち同じ街道を進んでいるのだ。それにマイトラと一緒にいれば寝る場所には困らないとの打算もあったからだ。


 案の定、その後すぐに街道沿いの町で宿泊することになったのだが、マイトラがその町の宿屋を一棟丸ごとシャスターたちのために押さえてくれた。

 その宿屋は百人ほどが泊まれる大きさだ。本来であれば、マイトラたち指揮官が泊まるのであろうが、それをシャスターたちだけで泊まるのは申し訳ない。

 シャスターがマイトラたちも休むように提案したが、彼は頑固として固辞した。


「同じ宿屋で寝るなんて滅相もございません。どうか我々のことは気にせずゆっくりとお休みください。外には屈強な騎士たちを配備しておきます。どうぞご安心を」


 マイトラにそう言われれば、それ以上何も言えない。

 シャスターたちはそのまま宿屋で休むことにした。





第三章

これまでの主要な登場人物



シャスター

伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者。

シャスター・イオ。

魂眠(こんみん)に陥ってしまったフローレを治す可能性があるエースライン帝国に向かう途中、アイヤール王国の辺境地を治めていた領主のレーテル姫と出会い、彼女を新たな国王にすべく、姫の二人の兄が争っている戦場に向かう。

偽者のシーリス魔法学院の後継者ナザールを倒した後、本物のシーリス魔法学院の後継者であるヴァルレインが現れ、二人は魔法の勝負をすることになる。

勝負の後、シャスターとヴァルレインは、レーテル姫をアイヤール王国の新国王にするよう、その場にいる全員に命じた。

その後、シャスターはカリンと星華とエースライン帝国に向かう。



カリン

神聖魔法の使い手(ホーリーユーザー)であり、簡単な神聖魔法を使うことができる。

魂眠(こんみん)に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。

フローレを氷の棺で助けてくれたシーリス魔法学院の後継者ヴァルレインに会い、感謝を伝えることができた。

レーテルが新国王に決まった後は、シャスターと共にエースライン帝国に向かう。



星華

シャスターの守護者(ガーディアン)

稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。

シャスター、ヴァルレインの二人の後継者の戦いの時、カリンたちが巻き込まれない様、的確に指示を出した。



レーテル姫

アイヤール王国、前国王の子供三兄弟の妹。

十二歳とは思えぬほどの利発で、冷静さと思慮深さを持った少女。

自領地の旱魃を雨を降らせて救ってくれたシーリスの後継者、ヴァルレインに好意を持っている。

シャスター、ヴァルレイン両名の「五芒星の後継者」により、アイヤール王国の新国王に命じられる。

しかし、その後突然現れたエースライン帝国の第二皇女エルシーネから、十五年前に起きたゴブリン軍の襲来が再び起きようとしていることを聞き、すぐに王国再建に取り掛かることになる。



フォーゲン

レーテル姫の執事。アイヤール王国の前宰相。

沈着冷静であり、豊富な知識を持っている人物。

新国王のレーテルから再び宰相に任じられ、アイヤール王国を早く再建させる為に動き出した。



ハルテ

父の前国王の後を継いだ国王。冷酷な性格。

前国王が亡くなった時、「レーテルを国王に」という遺言書があったにも関わらず、自らが国王となった。

しかし、遺言書はエースライン帝国の皇帝にも同じものが送られており、その事実がバレてしまい重罪人としてエースライン帝国に連行されてしまった。



ブレガ

ハルテ国王の弟であり、性格は兄同様に冷酷。

前国王が亡くなった時、「レーテルを国王に」という遺言書を無かったことにし、兄ハルテと国王争いをしていた。

しかし、遺言書はエースライン帝国の皇帝にも同じものが送られており、その事実がバレてしまい重罪人としてエースライン帝国に連行されてしまった。



ヴァルレイン

水氷系魔法の総本山、シーリス魔法学院の後継者。

ヴァルレイン・シーリス。

偽者が現れていることを知り、数ヶ月前から周辺国を周り探していた。

その探索途中で、レーテル姫の願いを叶えて雨を降らせたり、レーシング王国ではシャスターの動向を知り、フローレのために氷の棺をつくった。

偽者ナザールを殺し、シャスターとの勝負の後、シャスターと共にレーテル姫を新国王として命じた。

その後、エースライン帝国の第二皇女エルシーネが現れると、忽然と消えてしまった。



エルシーネ

七大雄国(セフティマ・グラン)の一角、エースライン帝国の第二皇女であり、帝国の有するペガサス騎士団の騎士団長。

シャスター、ヴァルレインとは以前からの知り合い。

突然、空から現れたエルシーネは皇帝の勅令を伝え、ハルテとブレガを前国王への背任罪として帝都へ連行した。



マイトラ

アイヤール王国の大隊長であり、旧ブレガ陣営に所属していた。

新国王レーテルの命により、ブレガ陣営の拠点都市を制圧する為に東に向かっているところをシャスターと出会い、同行を申し出た。


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