第五十話 不穏な動き
「見事なお手並みでした。レーテル国王」
エルシーネがレーテルを称賛する。
兵士たちの忠誠心を完全に掴んだ手腕を見て、エルシーネはレーテルの評価をさらに一段高くした。
「これで、辣腕のフォーゲン殿が宰相に就けば、内政面でも安泰でしょう」
フォーゲンが深く頭を下げたことを横目で見ながら、エルシーネはペガサスにまたがった。
「これで私は戻りますが、レーテル国王」
「はい!」
「できるだけ早くアイヤール王国の建て直しを行ってください」
急に硬い表情になったエルシーネに、レーテルは違和感を覚えた。
「至急国力の回復に努めていきますが……何かあるのでしょうか?」
「東のフェルノン山脈に不穏な動きがあります」
「……まさか!?」
急にレーテルの顔から血の気が引いた。フォーゲンも同様だ。
二人にはエルシーネが何を伝えたいのか、すぐに理解できたからだ。
だからこそ、嘘だと信じたい。しかし、エルシーネがあやふやな情報を伝えるはずがないことも分かっていた。
「……あの時と同じことが、起きようとしているのでしょうか?」
「間違いありません」
断言したエルシーネに、レーテルもフォーゲンも項垂れた。二人にとって、それほどまでに大きな衝撃なのだ。
「幸い、アイヤール王国の南に隣接するカナザル王国は平和的友好国ですし、西に広がる死者の森はそこにいるシャスターくんがつい先日解決してくれました。アイヤール王国軍は、フェルノン山脈付近にだけ戦力を集めておいてください」
「……分かりました」
レーテルはゆっくりと頷いた。
「さてと、シャスターくんはこれからどうするの?」
レーテルに進言した深刻さとは全く真逆の明るさで、エルシーネが声を掛ける。
「まだ何も決めていない」
「またまた、隠さなくてもいいのに」
エルシーネはからかうように笑う。
「エースライン帝国に来るしかないじゃない」
「……」
「氷の棺の彼女を助けるためには」
そう告げると、ペガサスは天高く舞い上がった。
「できるだけ早くきてね。待っているから!」
声を響きかせながら、エルシーネはそのまま遠くの空に消えていった。




