第四十九話 新生アイヤール王国軍
ハルテやブレガを連行したペガサス騎士団はすぐに見えなくなった。
「さてと」
エルシーネがレーテルに微笑みかける。
「これであなたのお父上の意思は尊重されるわ。レーテル国王、即位おめでとう。そして、最初の命令を出してみてはいかがかしら?」
ハルテやブレガなら、エルシーネの真意が分からなかっただろう。しかし、レーテルは十二歳とは思えないほど頭の回転が速い聡明な少女だった。
エルシーネの意図を正確に読み取ったレーテルは、エルシーネが手渡した空に大きく映像を映すマジックアイテムを使い、ハルテ、ブレガ両陣営の全軍に対して宣言をする。
「私が新たにアイヤール王国の国王に即位したレーテルです。私の正統性は今までの話の流れから全員が理解しているはず。よって皆に命じます。今後、両陣営で争うことは止めてください。ここにいる全員が私の大切な国民です。もう争う必要はありません」
直後、兵士たちの間から歓声が湧き起こった。
兵士たちも同国人同士で好きで戦っていたわけではない。命令で無理やり戦っていたのだ。
だからこそ、レーテルの言葉は彼らにとって最高の命令だったのだ。
「そして、ここにいる皆をアイヤール王国軍と総称することにします。新生アイヤール王国の正規軍です」
再び歓声が起こった。ここにいる兵士たちはレーテルの宣言で、アイヤール王国の正規の国軍となったのだ。
「アイヤール王国軍として最初の命令は、至急負傷した兵士たちの手当に取り掛かってください」
兵士たちはすぐに動き出した。今までの敵味方関係なく、負傷者の手当を行なっている。
レーテルが命令をかけている間、フォーゲンも動いていた。しばらくするとフォーゲンが百名ほどの騎士を連れてきた。
「レーテル国王、旧ハルテ、ブレガ陣営で小隊長以上の者を連れて来ました」
彼らはレーテルの前にひざまずいた。
誰もが地面に額を擦り付けながら震えている。彼らは両陣営で戦いを指揮していた指揮官たちだ。
いくらレーテルの名の下で多くの兵士たちが許されたとしても、彼らは軍の指揮官という立場だった為、許されることはない。つまり、ここに呼ばれたのは処刑されるためだ。
しかし、そんな彼らにレーテルは優しく微笑みかけた。
「新生アイヤール王国軍に指揮官がいてくれないと困ります。これからも軍の中核として職務を全うしてください」
レーテルの意外な言葉に、彼らはさらに深く頭を擦り付けた。
しかし、今度は恐怖からではない。命を助けて貰えた感謝の気持ちからだった。中には泣いている者もいる。
「我ら一同、これからはレーテル国王のために働いていく所存でございます」
一番前でひざまずいているハルテ陣営の大隊長が代表で声を上げたが、誰もが同じ気持ちだった。
レーテル国王に永遠の忠誠を誓うと。
「ありがとう。皆の気持ちに感謝します。顔を上げてください」
レーテルの言葉に皆がゆっくりと顔を上げて新国王を見つめた。
「これからが本番です。ハルテ、ブレガ陣営の拠点都市ではまだ私の国王即位を知りません。知ったら、大小の抵抗も起きるでしょう。しかし、ここでまた大きな内乱を起こすわけにはいきません。そこで皆に命じます。旧陣営の拠点都市をすみやかに制圧してください」
「はっ!」
「制圧する際は民への略奪暴行は厳禁です。そして、私の即位に反対する者がいても殺してはいけません。軟禁してください」
十二歳の少女とは思えぬほどの毅然とした態度に、隊長たちは一瞬気を取られてしまったが、すぐに動き出した。
最後にハルテ陣営とブレガ陣営の大隊長の二人だけが残った。
「両陣営の拠点都市の制圧は両名に掛かっています。宜しくお願いします」
レーテルは頭を下げたが、慌てたのは両大隊長だった。
「あたまを下げるなど、お止めください。他の者たちに見られたら大変でございます」
「そうでございます。レーテル様は国王なのです。我らに命令さえすれば良いのです」
二人の提言にレーテルは少し照れながら従った。こういうところがまだ十二歳なのだろう。
「それと、お言葉ではございますが、レーテル国王の心配は杞憂に終わると思います」
ブレガ陣営の大隊長の言葉に、ハルテ陣営の大隊長も大きく頷いて肯定した。
「どういうことですか?」
レーテルは理由が分からない。そんな国王に対して大隊長は丁寧に答えた。
「民たちは内戦のため疲弊しきっておりました。はばかることなく申し上げれば、ハルテ様もブレガ様も戦うことに忙しく、その皺寄せが全て民に来ていたのです」
「そこに民に慕われていたレーテル様が国王になられたのです。民にとってこれほどの幸せはございません。反対するのは大貴族たちだけです。拠点都市の制圧には、それほど時間はかからないでしょう」
両隊長は微笑みながらもう一度頭を下げると、レーテルの前から退出した。




