第四十五話 再会の喜び
「カリン様て、なんて凄いのでしょう!」
レーテル姫が唖然としている。
それはそうだろう。
カリンは、アスト大陸の七大雄国の皇帝たちと同格である「五芒星の後継者」の二人に対して、気をつけるようにと注意しているのだ。
大陸広しといえども、彼らに正面切って注意喚起できる人物はそう多くはない。
しかも、カリンの注意を二人とも素直に受け入れて、頭を下げるなんて。
レーテル姫と同じく、フォーゲンも驚きを隠せないでいた。しかしながら、年の功というべきか、幼き少女よりも早く状況整理ができた。
シャスターとカリンは旅をしているという話だったが、二人は侍従関係ではなく、対等の立場なのだ。
「五芒星の後継者」と町娘。
普通に考えれば、それこそ天と地ほどもある身分差なのだが、お互いにそんなことを全く気にしないで気兼ねなく話している。
きっと信頼し合えているのだろう。
良い旅仲間だと、フォーゲンは微笑んだ。
対照的にレーテル姫の二人の兄、ハルテとブレガは顔が真っ青だ。
王族の二人は魔法を何度も見たことがある。だからこそ、シャスターとヴァルレインの戦いを見て、「五芒星の後継者」の魔法が常識外の威力だということが、嫌というほど分かってしまったのだ。
「五芒星の後継者」の噂は知ってはいたが、まさかここまで圧倒的な強さだとは思ってもいなかった。
恐怖と畏敬の念に駆られたハルテとブレガたちは、地面に膝をついて頭を下げたまま動くことができないでいた。
しかし、動けない兄たちの横を通って、シャスターとヴァルレインに近づく者がいる。
レーテル姫だ。
レーテル姫はヴァルレインの前に立つと、深々と頭を下げた。
「旅人様……、いえ、ヴァルレイン・シーリス様。以前、私の領地が旱魃で困っていた時、雨を降らせて頂きありがとうございました。ヴァルレイン様の恵の雨のおかげで、大勢の領民が助かりました」
レーテル姫の瞳は輝いていた。やっと雨を降らせてくれた旅人に会えたからだ。
「レーテル姫はお前に礼を言うために、わざわざこの戦場に来たんだよ」
「そうなのか?」
「そうだ!」
シャスターの断言に、ヴァルレインは少し驚いた表情をした。
「あの時は身分を告げずに去ってしまい、申し訳なかった。ただ、領民たちが喜んでくれたのなら良かった」
「雨のおかげで今年の作物も豊作になりそうです。ヴァルレイン様のおかげです! ヴァルレイン様は私たちの恩人です! 本当に、本当に……」
一歩前に進み出たレーテル姫の瞳がますます輝きを増す。
その斜め後ろで一緒に頭を下げているフォーゲンが、やんわりとレーテル姫の手を取った。そこで初めてレーテル姫はハッとして我に返った。
ヴァルレインに会えた嬉しさのあまり、少し取り乱してしまったことに気付いて、顔が真っ赤になる。
「カリンといいます。ヴァルレインさん、私からもお礼を言わせてください。レーシング王国でフローレ姉さんに氷の魔法をかけてくれてありがとうございます!」
レーテル姫にとっては良いタイミングでカリンが話に加わってきた。
「キミはあの少女の妹だったのか。シャスターがかなり気に掛けている様子だったからな。あの氷の棺の中に入れば、大丈夫だろう」
先ほどシャスターの巻き添えを食らって、一緒に謝ることになってしまったヴァルレインだったが、そんなことは微塵にも出さない。
「カリンは妹じゃない。お前が氷の棺に入れた少女、フローレのことを本当の姉のように慕っているんだ。そこで、魂眠を解く方法を探して一緒に旅をしているんだ」
シャスターの説明を受けてヴァルレインは納得した。
「そうか。早く解決策が見つかるといいな」
「ヴァルレインは魂眠について何か知らない?」
「魂眠か……残念だが、俺も詳しくは知らない。こいつは人間性に多少問題があるが、気長に付き合ってやってくれ」
後半はカリンに向けた言葉だったが、カリンは「私だけが思っているわけじゃなかった」と妙に安心し納得した。
「さてと、それじゃ始めようとするか」
強引に話を変えたシャスターが、レーテル姫の後ろに視線を向ける。
「ん、何をするの?」
カリンが尋ねるが、シャスターは答えることなく視線を動かさない。
「いつでもいい。お前に任せる」
ヴァルレインもシャスターの視線の先に目を向ける。
その瞳には、先ほどから地面に跪いたままのハルテとブレガが映っていた。




