表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/810

第四十五話 再会の喜び

「カリン様て、なんて凄いのでしょう!」


 レーテル姫が唖然としている。

 それはそうだろう。

 カリンは、アスト大陸の七大雄国(セフティマ・グラン)の皇帝たちと同格である「五芒星の後継者」の二人に対して、気をつけるようにと注意しているのだ。

 大陸広しといえども、彼らに正面切って注意喚起できる人物はそう多くはない。

 しかも、カリンの注意を二人とも素直に受け入れて、頭を下げるなんて。



 レーテル姫と同じく、フォーゲンも驚きを隠せないでいた。しかしながら、年の功というべきか、幼き少女よりも早く状況整理ができた。

 シャスターとカリンは旅をしているという話だったが、二人は侍従関係ではなく、対等の立場なのだ。


「五芒星の後継者」と町娘。

 普通に考えれば、それこそ天と地ほどもある身分差なのだが、お互いにそんなことを全く気にしないで気兼ねなく話している。

 きっと信頼し合えているのだろう。

 良い旅仲間だと、フォーゲンは微笑んだ。



 対照的にレーテル姫の二人の兄、ハルテとブレガは顔が真っ青だ。

 王族の二人は魔法を何度も見たことがある。だからこそ、シャスターとヴァルレインの戦いを見て、「五芒星の後継者」の魔法が常識外の威力だということが、嫌というほど分かってしまったのだ。

「五芒星の後継者」の噂は知ってはいたが、まさかここまで圧倒的な強さだとは思ってもいなかった。

 恐怖と畏敬の念に駆られたハルテとブレガたちは、地面に膝をついて頭を下げたまま動くことができないでいた。


 しかし、動けない兄たちの横を通って、シャスターとヴァルレインに近づく者がいる。


 レーテル姫だ。



 レーテル姫はヴァルレインの前に立つと、深々と頭を下げた。


「旅人様……、いえ、ヴァルレイン・シーリス様。以前、私の領地が旱魃(かんばつ)で困っていた時、雨を降らせて頂きありがとうございました。ヴァルレイン様の恵の雨のおかげで、大勢の領民が助かりました」


 レーテル姫の瞳は輝いていた。やっと雨を降らせてくれた旅人に会えたからだ。


「レーテル姫はお前に礼を言うために、わざわざこの戦場に来たんだよ」


「そうなのか?」


「そうだ!」


 シャスターの断言に、ヴァルレインは少し驚いた表情をした。


「あの時は身分を告げずに去ってしまい、申し訳なかった。ただ、領民たちが喜んでくれたのなら良かった」


「雨のおかげで今年の作物も豊作になりそうです。ヴァルレイン様のおかげです! ヴァルレイン様は私たちの恩人です! 本当に、本当に……」


 一歩前に進み出たレーテル姫の瞳がますます輝きを増す。

 その斜め後ろで一緒に頭を下げているフォーゲンが、やんわりとレーテル姫の手を取った。そこで初めてレーテル姫はハッとして我に返った。

 ヴァルレインに会えた嬉しさのあまり、少し取り乱してしまったことに気付いて、顔が真っ赤になる。



「カリンといいます。ヴァルレインさん、私からもお礼を言わせてください。レーシング王国でフローレ姉さんに氷の魔法をかけてくれてありがとうございます!」


 レーテル姫にとっては良いタイミングでカリンが話に加わってきた。


「キミはあの少女の妹だったのか。シャスターがかなり気に掛けている様子だったからな。あの氷の棺の中に入れば、大丈夫だろう」


 先ほどシャスターの巻き添えを食らって、一緒に謝ることになってしまったヴァルレインだったが、そんなことは微塵にも出さない。


「カリンは妹じゃない。お前が氷の棺に入れた少女、フローレのことを本当の姉のように慕っているんだ。そこで、魂眠(こんみん)を解く方法を探して一緒に旅をしているんだ」


 シャスターの説明を受けてヴァルレインは納得した。


「そうか。早く解決策が見つかるといいな」


「ヴァルレインは魂眠について何か知らない?」


「魂眠か……残念だが、俺も詳しくは知らない。こいつは人間性に多少問題があるが、気長に付き合ってやってくれ」


 後半はカリンに向けた言葉だったが、カリンは「私だけが思っているわけじゃなかった」と妙に安心し納得した。




「さてと、それじゃ始めようとするか」


 強引に話を変えたシャスターが、レーテル姫の後ろに視線を向ける。


「ん、何をするの?」


 カリンが尋ねるが、シャスターは答えることなく視線を動かさない。


「いつでもいい。お前に任せる」


 ヴァルレインもシャスターの視線の先に目を向ける。


 その瞳には、先ほどから地面に跪いたままのハルテとブレガが映っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ