第四十三話 決着
ヴァルレインの魔法陣から、十本の青白い光線が放たれようとする。
まさにその時だった。
「幻炎界の閃熱光」
シャスターが、ヴァルレインの放った魔法と似たような詠唱をする。
すると、幻炎の竜が巨大魔法陣の中へ消えていき、魔法陣に複雑な幾何学模様が何層も現れ、強烈な光を発して輝き始めた。
「まさか、俺と同じ魔法!? シャスター、お前も編み出していたのか?」
これにはさすがのヴァルレインも驚いた。
炎と氷で系統は違うとはいえ、自分が考え出した魔法と同種の魔法をシャスターも考え出していたからだ。
しかし、驚いている暇はない。
次の瞬間、魔法陣から放たれた十本の炎の光線が、十本の氷の光線に衝突したからだ。
その直後、大爆発が起きた。
超特大の水蒸気爆発だ。
しかも、ただの水蒸気爆発ではない。高位炎界と高位氷界の氷炎がぶつかり合った大爆発だ。
その凄まじい衝撃で、大地は根こそぎ剥ぎ取られて空中に飛び散り、大空の雲までが遠くに吹き飛ばされる。
大気中の空気も荒れ狂っていた。嵐とは比べものにならない激しい暴風が縦横無尽に吹き荒れている。
遠く離れた森の奥深くに隠れているカリンたちには、シャスターとヴァルレインが何をしているのか全く分からない。
しかし、それでも最悪に危険な状況だとは否応なしに分かった。
なぜなら、森に隠れていたカリンたちにも大爆発の凄まじい音と余波が襲い掛かってきたからだ。森の中にいた彼女たちでさえ、飛ばされていきそうな突風が吹き荒れる。
全員が恐怖の中で必死で木々の幹にしがみつき、馬も飛ばされないように手綱をしっかりと掴んで爆風に耐えていた。
しかし、本当に恐怖で青ざめるのはこの後だった。
大爆発の影響で、森の木々が全て、地上から三、四メートルほどの高さでへし折られてしまったのだ。しかも、折られた上部の幹や枝は吹き飛ばされ、はるか上空へ飛んで行ってしまう。
根元付近の幹しか残っていない森……それは、あまりにも衝撃的で異様な光景だった。
もしも、大爆発の直撃が木々の上部ではなく、自分たちが立っていた根元だったらと思うと、誰もがゾッとする。
大爆発の影響は、遠く離れている森さえも丸ごと吹き飛ばしてしまったのだ。
それほどの大爆発の中心にいたヴァルレインだったが、とっさに防御魔法を張ったため無傷だった。
しばらくの間、暴風が暴れ続けていたが、それもやっと収まってきた。
しかし、大爆発の影響はまだ残り、辺り一面は濃い霧に包まれていて何も見えない。
ヴァルレインは大きくため息をついた。
「……今回も引き分けか」
二年前のシャスターとの親善試合から、ヴァルレインはさらに修行に励んでいた。
その中で編み出した今回の魔法にも自信があった。自分の方が魔法の修行を長く続けている自負があった。
魔法使いなのに、剣士のように武術の修行をしているような大バカ者には負けるはずがないと思っていた。
しかし、実際にはこの有り様だ。
(俺の方が大バカ者か……)
もう一度、ヴァルレインはため息をつく。
その時だった。
「引き分けじゃない」
霧の中から突然、シャスターが飛び出してきたのだ。
「なっ!?」
ヴァルレインはそれ以上言葉が続かなかった。
シャスターの強烈な肘打ちが、ヴァルレインのみぞおちに決まったからだ。
「ぐっ……」
ヴァルレインはそのまま倒れて気を失う。
この瞬間、勝敗は決した。
シャスターが勝ったのだ。




