第四十二話 勝利の確信
炎と氷はぶつかり合いながらも、激しい勢で互いに押し合っている。
互いのドラゴンと魔法陣の真下ではシャスターとヴァルレインは片手を天に向けていた。魔力を放出しているのだ。
炎と氷は拮抗しているが、もしもどちらかの魔力が弱まった途端、一気にもう片方に押されてしまうだろう。
「なかなかやるじゃないか」
「褒められても嬉しくないね」
「そういうな。せっかくだ、最後にとっておきを見せてあげよう」
「別に見たくないけど」
本気で嫌そうな顔をしているシャスターにヴァルレインは苦笑した。
「これから高位氷界の閃光の魔法陣の中に、幻氷の竜を投入する。どういうことか分かるか?」
「どういうこと?」
質問を質問で返したシャスターに、ヴァルレインは説明を始めた。
「幻氷の竜のエネルギーを使い、高位氷界の閃光を幻氷界に繋げる。すると、何倍にも威力を増した高位氷界の閃光を撃つことができる」
そもそも幻氷の竜も高位氷界の閃光も聖人級の最上位魔法だ。
そんなとてつもない魔法同士を掛け合わせることが、いかに難しいことであるのかは容易に想像がつく。
「その魔法、ヴァルレインが考えたの?」
「そうだ。この魔法は聖人級の水氷系最上位の魔法を掛け合わせた魔法だ。その分、威力は桁違いに凄まじい。直撃を受ければ、お前でも無事では済まないだろう。だから避けろ」
「いやだね」
「なんだと!?」
ヴァルレインはシャスターを殺したいわけではない。だから忠告したのだが、本人が「いやだ」と言うのなら仕方がない。
「まぁ、お前なら大怪我をする程度で死ぬことはないか。幻氷界の閃冷光!」
ヴァルレインが叫ぶと、幻氷の竜が巨大な魔法陣に入っていき、消えた。
直後、巨大魔法陣にさらに複雑な幾何学模様が何層も現れ、強烈な光を発して輝き始めた。
そして、魔法陣からは細い一条の青白い光線が、地上にいるシャスターに向けて放たれた。
見た目だけでいえば、ただの細い光線だ。今までの魔法に比べたら、派手さもないし迫力もない。
しかし、その威力は今までの魔法攻撃の比ではなかった。
危険を察知したシャスターは、間一髪で十数メートル後方に跳び避けたが、光線が当たった地面は瞬時に凍りついた。
しかも、地面だけではない。空気までもが凍りついた。周辺一帯が巨大な氷の塊と化する。遥か上空まで空気が凍っている光景は、まるで天高くそびえる氷の塔のようだ。
「……さすがに直撃を受けたら危ないな」
高密度の氷のエネルギーだ。シャスターといえども、この光に当たればただでは済まない。
しかし、青白い光線はシャスターにさらに攻撃を続ける。
体技にも優れているシャスターは避けてはいるが、このままだといつかは体力がなくなり直撃を受けてしまうだろう。
「避けるだけで精一杯のようだな。そろそろ負けを認める気になったか?」
「いやだね」
「まぁ、そうだろうな」
光線が三本に増えた。ヴァルレインとしては一気に勝敗を決めるつもりだ。それを避けているシャスターの表情にも疲れが出始めてきた。
「最後だ」
光線がさらに十本に増えた。
これではシャスターといえども避けきれない。
ヴァルレインは勝利を確信し、冷たく微笑んだ。




