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第四十一話 最後の戦い

 ドラゴンたちの炎の息(ファイア・ブレス)氷の息(アイス・ブレス)がぶつかり合い、その影響で辺り一面に水蒸気が舞い上がり、大雨が降り始める。


 ドラゴンたちの力は拮抗していた。



「そろそろ決めさせてもらうぞ」


「こっちも飽きてきた」


 二人が両手を上げると、それぞれのドラゴン前に巨大な魔法陣が、そして魔法陣の周りを囲むようにいくつもの小さな魔法陣が現れた。

 ただし、小さいといっても巨大な魔法陣の大きさと相対的に比べてだ。

 実際には一つひとつの小さな魔法陣は、人間の身長の数倍は大きい。



氷界の閃光(ディネース・ヴェガス)


 先に唱えたのはヴァルレインだった。

 小さな魔法陣から、無数の青白い氷の閃光が発射される。閃光は直線上にいるシャスターのドラゴンを目掛けて襲い掛かろうとするが、その前にシャスターが動いた。


炎界の閃光ディネース・エクシズン


 今度はシャスターの小さな魔法陣から、無数の赤い炎の閃光が発射された。


 炎の閃光は攻撃してきた氷の閃光とぶつかり合い、爆発を起こす。その余波で、炎と氷の波がまるで猛り狂う大蛇のように、辺り一面の大空を暴れ回っている。

 さらに、そこから発生した凄まじい暴風雨は、遠く離れているカリンたちにも容赦なく襲いかかってきた。



 そんな中でも、シャスターとヴァルレインは微動だにしない。

 彼らにも炎や氷の波が襲い掛かるが、その直前に全て消え去ってしまうからだ。

 炎界(エクシズン)の魔炎も氷界(ヴェガス)の魔氷も、二人の前では意味がなかった。

 そして、当然ながら意味のないことを二人とも分かりきっている。

 ドラゴンの(ブレス)も、いくつもの魔法陣からの発射された無数の閃光も、これから行う最終魔法への序章に過ぎなかったからだ。

 本番はこれからだ。ドラゴンの前には巨大な魔法陣が控えている。



「行くぞ」


 ヴァルレインの掛け声に合わせて、ついに巨大な魔法陣が動き始めた。

 何層にも及ぶ複雑な幾何学模様が、ゆっくりと回転し始める。すると、それに呼応するかのように、空気が振動を起こし始めた。

 空も大地も揺れているのだ。



「何が起こるというの?」


 カリンの問いかけに誰も答えられない。

 しかし唯一、星華だけが知っていた。だからこそ、カリンたちに至急指示をする。


「急いで森の中に避難してください」


 その言葉を聞いて、カリンやレーテル姫たちはすぐに従った。

 カリンたちは平原の端まで離れて、両者のドラゴンたちの戦いを見ていた。そして、平原の奥には森が広がっている。

 当然、森の中に入れば、いかに巨大なドラゴンたちも視界から見えなくなる。戦いの行方は分からなってしまうだろう。

 しかし、そんなことよりも星華の指示の方がよほど重要だった。

 冷静な星華が「急いで」ということは、この場にいたら死んでしまうということだ。


 そして、星華の指示は伝言としてすぐに全軍に伝わり、全兵士たちは森の奥深くに隠れるように消えた。



 その直後だった。


高位炎界の閃光ディネース・ハイ・エクシズン


高位氷界の閃光ディネース・ハイ・ヴェガス


 シャスターの魔法陣からは魔法陣と同じ大きさの巨大な炎の閃光が、そしてヴァルレインの魔法陣からは巨大な氷の閃光が発射された。


 そして、炎と氷は衝突した。


 次の瞬間、森の中に隠れたカリンたちを嵐のような突風の熱波と寒波が襲い掛かった。

 灼熱と極寒が同時に牙を剥いたのだ。

 森の中で木々に隠れていても、身体中が突き刺さるように痛い。もし、平原にいたままだったら、どうなっていたのか考えるだけでも恐ろしかった。


「星華さん、ありがとう」


 カリンは頭を下げたが、星華は笑みを浮かべることもなく、ただ平原の方角をずっと見つめている。

 星華は最上位職種のひとつである忍者の中でも、さらに「くノ一」の称号を持つ最強の忍者だ。彼女の視界には、ここからは見えない光景が見えているのだろうか。


「最後の戦いが始まります」


 星華の言葉で、カリンたちも見えるはずもない平原の方角に目を向けた。



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