第四十話 炎と氷のドラゴン &(魔法使い階級、レベル等解説)
「あれは……ドラゴン?」
カリンの言葉に、全ての者の表情が恐怖に青ざめた。
カリンはつい先日、ドラゴンを見たばかりだった。だからこそ耐性があったが、他は生まれて初めて見る者がほとんどだ。
「あわわわぁ……」
近くでは、ハルテ国王が声にならない喘ぎ声を上げて尻もちをついている。離れたところに見えるブレガも似たような状況だった。兵士の中には震えながら手を合わせて祈っている者も多い。
それほどまでに、ドラゴンとは絶大な力を持ち畏怖される存在なのだ。
そのドラゴンをシャスターとヴァルレインは呼び出したということなのか。
「五芒星の後継者」は、それほどの巨大な魔力を持っているのか。
「あっ! でも、ドラゴンとはちょっと違う」
カリンは死者の森で見たボーンドラゴンを思い出していた。
ボールドラゴンは骨だけのドラゴンであり、実際の生きているドラゴンとは違った。しかし、ボーンドラゴンはその場に実体として存在していたのだ。
しかし、シャスターの魔法陣から出てきたドラゴンは実体が炎のように見えるし、同様にヴァルレインのドラゴンは氷のように見える。
「やはり、何か違うわ」
二体のドラゴンは動いているし咆哮も上げている。
しかし、実体がないようにカリンには見えるのだ。
「その通りだ」
突然、ヴァルレインの声がカリンたちの頭上で響き渡った。
シャスターとヴァルレインは、遠くにいるカリンたちの声を魔法で聞いていた。そして、カリンの認識に答えたのだ。
上空から聞こえてくる声に驚く者も多かったが、カリンは死者の森でアークスが使った離れた場所で会話ができるマジックアイテムを知っていたのでそれほど驚かない。
「それじゃ、ニセモノのドラゴンなの?」
二人の場所とはかなり離れているが、会話が成り立つことが分かった。しかし、周りの者たちにも聞こえるように、カリンはあえて大声で叫んだ。
「このドラゴンは氷の魔法でつくれたもの。シャスターのドラゴンも同様に炎の魔法でつくられたものだ」
「ただの炎と氷じゃないけどね」
シャスターが言葉を続ける。
「魔法陣から炎地獄を繋いで、全てのものを燃やし尽くす炎でつくり出したドラゴン」
「魔法陣から氷地獄を繋いで、全てのものを凍結させる氷でつくり出したドラゴン」
「ということで、カリン!」
「なに?」
「さらに遠くまで離れてくれない? 俺たちの姿が完全に見えなくなる、いやもっともっと遠くまで離れて」
シャスターがドラゴンを見上げる。
「この魔法はさ、レベル六十台の中でも最強の魔法で、かなり広範囲まで危険が及んでしまうんだ。そこにいたら、みんな死んでしまう」
その直後、全兵士が一目散に逃げ出した。見物どころではなくなったからだ。
カリンたちもさらに遠くへ下がった。
距離が離れすぎた為、シャスターとヴァルレインの姿は全く見えなくなる。しかし、二体のドラゴンの大きさは変わらない。それだけ巨大だということだ。
「今、シャスター様は『レベル六十台の中でも最強の魔法』と仰っていませんでしたか?」
逃げ出しながら、レーテル姫は自分の一言ひと言を確認するようにフォーゲンに尋ねる。
フォーゲンの説明では、六十台の魔法の存在は噂程度のものだったはずだ。しかし、実際にはシャスターが六十台の魔法だと話している。
それは、つまり……。
「神の領域の魔法が存在するということです」
フォーゲンは緊張の為か、顔から汗が溢れていた。
勇者級、英雄級でさえ、人間の領域を超えた常識外のレベルなのに、さらにそれ以上のレベルが本当に存在するとは。
先ほど、カリンが引っかかっていたヴァルレインの「これでは五十台でも同じだろうな」という言葉の意味は、やはりその上のクラスが存在することだったのだ。
実は、シャスターもヴァルレインもすでにレベル六十台の魔法を使っていたのだが、遠くにいたカリンたちには二人のやり取りの会話は聞こえていなかった。
しかし、シャスターの声が全員に響き渡ったことで、二人が六十台の魔法を使っていたことが分かったのだ。
「レベル六十台の神の魔法が使える……これが『五芒星の後継者』の実力なのか」
フォーゲンは独り言を呟いた。しかし、その直後、意外なことが起きた。
「フォーゲン、六十台の魔法はまだまだ神の領域じゃないよ」
空に響いたシャスターの声に、名前を呼ばれた当人は跳び上がるほどに驚いた。まさか独り言が聞こえていたとは思わなかったからだ。
「シャスター様……」
しかし、フォーゲンが驚いたのは、独り言がシャスターに聞こえていたことだけではない。
それ以上に驚いた事実があるからだ。
シャスターの言葉の意味すること、それはつまり……。
「レベル六十台は聖人級と呼ばれているんだ」
戦っているにも関わらず、気楽に話し掛けてくるシャスターにフォーゲンは絶句するが、問題はそこではない。
下級、中級、上級、超上級、勇者級、英雄級。
そして、さらにその上には聖人級がある……。
その存在を知っただけでも驚愕すべき事実なのに、シャスターの話では「六十台の魔法はまだまだ神の領域じゃない」ということだ。
「『五芒星の後継者』様とは一体……」
ここで、フォーゲンの言葉は遮られてしまった。
二体のドラゴンが同時に大きな咆哮を上げ、息を放ったからだった。
「五芒星の後継者」
魔法使い階級とレベル、そして今まで登場した魔法一覧です。
(火炎系魔法と水氷系魔法だけを記載しています)
初級(レベル1〜9)
一般的な階級、ほとんどの魔法使いはこの階級
レーシング王国オイト国王(レベル8)など
・火炎球
中級(レベル10〜19)
初級の次に多い階級
ハルテ国王軍の魔法使いなど
・火炎の竜巻
(第1章魔法部隊、第2章一万のアンデッド)
・火炎の嵐
(第2章最初の町のアンデッド)
・火炎針
(第2章ボーンドラゴンの核)
・火炎の壁
・火炎球+1
・凍氷の剣
・凍氷の壁
・流水の竜巻
上級(レベル20〜29)
ここから先はごく少数しかいない上位階級
・火炎球+2
超上級(レベル30〜39)
小さな戦争なら戦況を左右できる程
偽者ナザールなど
・火炎球+3
・火炎の螺旋
・火炎の波
・凍氷の硬壁
・暴れる吹雪
・水気流
勇者級(レベル40〜49)
大陸中に点在する高難易のダンジョンの攻略や、レアクラスの魔物を討伐するほどの実力
・火炎球+4
・月光の波動
(第1章オイト国王)
・地獄の業火
(第2章10万のアンデッド)
・燃える花びら
(第3章偽者ナザール)
・火炎の光線
・炎の流星群
・火圧弾
・氷柱の牢獄
・凍氷の結晶
・水圧弾
英雄級(レベル50〜59)
勇者級以上の高難易攻略や討伐ができる実力
一個人の力が一国の戦力と同等
・火炎球+5
・火神の恵
・冥府の大河
聖人級(レベル60〜69)
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・炎地獄
・幻炎の竜
・氷地獄
・冥氷河
・幻氷の竜




