第三十九話 魔法使いの本分
シャスターとヴァルレインは二人ともマグマの中に立っていた。
唯一、ヴァルレインがシャスターと違うところは、ヴァルレインの周囲だけ青白く輝いていることだ。
カリンの場所からは到底見えないが、青白い光の正体は氷の結晶だった。無数の氷の結晶が身体を守っているのだ。
魔法の氷の結晶によって、ヴァルレインはマグマの中でも立っていられる。
「炎地獄……なるほど、氷地獄のお返しという訳か」
高熱のマグマの中でも、ヴァルレインは汗一つ流すことなく冷静に分析をした。
しかし、その後もマグマの勢いはさらに増していく。溢れ出したマグマが大きなうねりとなり、マグマの海が荒れ始めた。
そして、ついにマグマの流れが大きな波となって、ヴァルレインに襲いかかってきた。
巨大なマグマの波に飲み込まれれば、いくらヴァルレインでも無傷ではいられないはずだ。
しかし、ヴァルレインは表情を変えることなく、ゆっくりと口を開いた。
「冥氷河」
ヴァルレインの手から八面体の氷の塊が現れた。
直径十センチ程の小さな塊は、手から離れて静かにマグマの中に落ちていく。
そして、マグマの中に消えた瞬間、状況が一変した。
氷の塊が落ちた場所から、急速にマグマが固まり始めたのだ。真っ赤に燃えながらドロドロと流れていたマグマは、黒く色を変えて岩の塊になっていく。
それから瞬く間に、数百メートルに及んでいたマグマの海全てが固まった。
二人の周囲は、溶岩の大地に変わってしまったのだ。
「さすがにマグマを固まらせるのが限界か。凍らせるまでは無理のようだな。あるいは、もう少し密度を高くすれば……」
まるで実証実験でもしていたヴァルレインに対して、シャスターは苦笑した。
「相変わらず、魔法の研究がお好きのようで」
「それが魔法使いとしての本分だろう? お前のように剣技までも身に付けようとすると、このように魔法がいいかげんになる」
ヴァルレインは固まったマグマを足で突きながら、嫌味を放つ。
「そもそも本来の炎地獄はもっと熱度が高く、俺の放った冥氷河では、固まらせることまでは困難のはずだ。お前が魔法に対して手を抜いてきた証拠だ」
「手厳しいな」
「事実だろう?」
ヴァルレインは苦笑すると、改めてシャスターの前に対峙した。
「お前の実力はだいたい分かった。二年間修行を怠っていたこともだ」
「勝手に決めると後悔するよ」
「確かにそうだな。それでは、そろそろ終わりにしようか」
すると、お互いの遥か上空に巨大な魔法陣が現れた。
シャスターの真上には赤く輝く魔法陣、ヴァルレインの真上には青く輝く魔法陣が浮かぶ。不思議なことに、二つの魔法陣はとても似ている紋様だった。
「奇遇だな」
「まぁ、この魔法が六十台最強魔法だからね」
「幻氷の竜」
「幻炎の竜」
二人が同時に叫ぶ。
互いの魔法陣から、それぞれ異形の怪物が現れた。




