第三十六話 魔法使いのレベル
「五芒星の後継者」の二人が本気で戦いを始めようとしている。
カリンやレーテル姫たちも戦場を離れるが、その時にレーテル姫がフォーゲンに尋ねた。
「先ほど、お二人が『レベル四十台の魔法ではお互いにダメージが無い』と仰っていましたが、本当にそのようなことがあるのですか?」
レーテル姫の顔は青ざめている。
姫の表情を見ただけで、カリンはレベル四十台の魔法がいかに凄いものかと分かった。
カリンはレベルについて詳しくは知らないが、先ほどまでの二人の戦いが、常識の範囲を遥かに超えていたことはよく分かる。
「『五芒星の後継者』様でしたら、レベル四十台の魔法でもダメージは受けないのかもしれません」
レーテル姫の質問に答えたフォーゲンだったが、レベル四十台とはフォーゲンにとっても未知の世界だ。自分の答えが正しいかどうかは自信がなかった。
「カリン様の方がお詳しいのでは?」
フォーゲンがそれとなく尋ねる。
シャスターと一緒に旅をしているのだ。「五芒星の後継者」について詳しいと思ったのだろう。
しかし、カリンは慌てて頭を横に振った。
「い、いえ。私は本当に何も知らなくて……、毎回シャスターの魔法に驚いてばかりなんです」
今まで何度もシャスターの魔法を見てきて、その度に驚かされてきたカリンだったが、後継者同士の戦いは、今まで見てきた以上の凄まじい魔法だった。
ただし、それでもカリンはただ凄いと思うだけだ。
魔法のレベルやクラスなどの意味は全く分かっていない。
「あのー、レベル四十台の魔法って何ですか?」
カリンは思い切って質問をしてみた。
確か、シャスターがレーシング王国でオイト国王に最後に使った魔法もレベル四十台だった。
それを聞いて、ラウスが勇者級の魔法使いと言っていた。
それに、先ほどもフォーゲンがシャスターのことを勇者級や英雄級と呟いていたが、魔法に詳しくないカリンは意味が分からないでいた。
そもそも魔法レベルというもの自体、あまり分かっていないのだが、今まで誰にも質問する機会もなかった。
しかし、魔法について、フォーゲンやレーテル姫の方が詳しいのなら、思い切って聞いてみるべきと思ったのだ。
「レベル四十台の魔法は、勇者が扱える階級の魔法といわれています」
二人の後継者からかなり離れた場所まで来たレーテル姫一行は馬を止めた。
それから、カリンの質問に対して、知識豊富なフォーゲンが話し始めた。
「まずは職業ごとのレベルについてお話ししましょう。これはカリン様も知っていることと思います。全ての職業にはレベルがあり、例えば騎士レベルや剣士レベル、盗賊レベル等々です」
職業レベルは何も戦闘系職業だけではない。大工や牧畜、鍛冶などの多種にわたる生産系職業でもそれぞれに職業レベルはある。
ここまでのことならカリンも常識として知っていた。
問題はここからだ。
「ただし、職業レベルとは就いている職業の大まかなレベルであり、各個人が持っている能力によって、同じ職業レベルでも個々の強さは変わってきます。その能力をスキルと呼びますが、個人が持っているスキルの中で一番レベルの高い値が、その職業レベルとなるのです」
だんだんと話が難しくなってきた。
つまり、持っているスキルのレベルによって、同じ職業レベルの場合でも強さは変わるということか。
「スキルの種類は数えきれない程たくさんありますが、例えば、そうですね……」
フォーゲンがカリンに分かりやすいように、例題を考えてくれた。
「騎士レベルが十の騎士、AとBの二人がいたとしましょう。Aは片手剣スキルのレベルが十、盾スキルが四、馬術スキルが八です。そして、Bは片手剣スキルのレベルが五、盾スキル十、馬術スキルが五だったとします。カリン様はどちらの騎士が強いと思いますか?」
難しい問題だった。
騎士レベルでいえば、二人ともレベル十だということは分かった。
フォーゲンの説明だと、スキルのレベルが一番高いのが職業レベルとなるからだ。
Aは片手剣スキルのレベルが十、Bは盾スキルのレベルが十だ。それで二人とも職業の騎士レベルが十ということだ。
しかし、それぞれのスキルのレベルで比べれば、かなりの違いがある。
カリンは暫し考える。
「強い騎士はAだと思います」
「理由は?」
「三つのスキルのレベルを合計すると、Aの騎士の方が高いからです」
自信はなく答えたカリンに、フォーゲンは優しく微笑んだ。
「正解と言えば正解です。というより、少し意地悪な質問をしてしまいました。カリン様のおっしゃるとおり、同じ職業レベル十であれば、合計スキルの高いAの方が基本的にはBよりも強いのです。ただし……」
フォーゲンは後ろに控えている護衛の騎士たちに、少しだけ視線を動かした。
「時と場合によって、AとBのどちらが強いかは変わってきます。例えば、Aの方が片手剣スキルも馬術スキルも高いので、敵に突撃する時は重宝するでしょう。しかし、一方で、守り重視の防衛戦になった場合は、盾スキルが高いBの方が活躍できます。そして戦闘で死ぬ確率もBの方が低いでしょう。つまり、攻守によってAとBの相対的な強さは変わるということです」
フォーゲンの説明はとても分かりやすかった。
というより、カリンでも分かるように話してくれているのだろう。
「戦場ではAとBのような騎士を的確に動かすことが、指揮官の実力と言えるでしょう。ちなみに、今回私が連れてきた百人の騎士は防衛系スキルが高い者を中心にして集めました。理由は、前線で戦うことが目的ではなく、レーテル姫を守ることが第一だからです」
なるほど、とカリンは納得した。
レーテル姫の安全を考えれば、それが一番だからだ。
「少し話が逸れてしまいましたが、騎士たちと同様に魔法使いにも職業レベルである魔法使いレベルがあります。一方、魔法使いが扱う魔法には系統ごとに魔法レベルがあります。系統というのは火炎系や水氷系のように分かれていて、先ほどお話ししたスキルのようなものと考えると分かりやすいでしょう」
「魔法系統がスキルですか?」
「はい。例えば、火炎系魔法レベル十で、水氷系魔法レベル五を扱える魔法使いの魔法使いレベルは十です」
「確かにスキルと同じ考え方ですね」
やっとカリンにも魔法使いレベルと、魔法レベルが分かってきた。
「ただし、スキルと違って魔法の系統は一系統しか覚えることができません。というより、何系統も覚える余裕はないのです。例題のような、火炎系魔法レベル十で、水氷系魔法レベル五の魔法使いは存在しないということです。それだけ魔法を覚えるのは難しいということでしょう」
戦闘系職業の中で魔法使いが少ない所以は、魔法を習得するのが難しいからだ。
確かに、レーシング王国のオイト国王は火炎系魔法しか使えなかったし、その部下たちも同様だった。
しかも、オイト国王はあの歳で魔法使いレベルが八だった。一つの系統を覚えることがどれほど大変なことなのかよく分かる。
そして、魔法使いは努力だけではなれない。
生まれ持っての資質が重要なのだ。
カリンは改めて、遠くに見える少年たちを細い目で見つめた。
その魔法使いの頂点に立つのが、あの二人なのだ。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回のお話では、二人の戦いを少しだけ小休止しまして、物語の世界の職業レベルの考え方を書かさせてもらいました。
次回もフォーゲンを教師役、カリンを生徒役(?)として、続きをお話していきますね。
二人の再戦は少しだけお待ちください。
それでは、これからもよろしくお願いします!




