第三十三話 冷たく輝く蒼氷色
シャスターがレーテル姫たちと一緒に王都に向かう際、カリンに「興味がある」と話したのはこのことだった。
シャスターは最初から、シーリス魔法学院の後継者を名乗っている魔法使いが偽者だと思っていた。
そして、偽者のシーリス魔法学院の後継者が暴れていることを知った本物の後継者がどう動くのか、シャスターとしては興味があったのだ。
そして案の定、本物の後継者が姿を現したというわけだ。
ヴァルレイン・シーリス……雪のような真っ白な髪に透き通るような肌、そして見る者に強い印象を与える蒼氷色の瞳。
誰が見ても美しいと見惚れてしまう程の容姿を持つ少年だが、今その蒼氷色の瞳は文字通り冷たく輝いていた。
「許すことはない」
ヴァルレインは声を荒げているわけではない。逆に静かな口調だ。
しかし、それがかえって激怒していると、誰もが理解した。ヴァルレインの言葉は偽者だったナザールにとって死刑宣告と同等だった。
「ひゃー!!」
叫び声を上げたナザールは走って逃げ出した。
だが、少年は追うことをしない。ただ手のひらをナザールに向けるだけだ。
しかし、それだけで充分だった。
走って逃げていたナザールが突然倒れた。
ナザールは立ち上がって再び走ろうとするが、足が動かない。
「な、なっ!?」
ナザールは焦りの声を上げた。
ナザールの足首が凍っていたからだ。さらに氷で地面と足裏が張り付いてしまい、足が動かない。
しかも足首だけではない。
徐々にナザールの身体全体が凍り始めている。
「ひ、ひぃー、たすけて!」
ナザールは絶叫を上げる。
しかし、そんな叫びも虚しく、太腿、腰、胸と凍りつき、遂には首から下が全て凍ってしまった。
「お、おたす……け……」
ナザールは最後まで言葉を発することが出来なかった。
頭も凍りついてしまったからだ。
その直後、氷漬けになったナザールの身体は粉々に砕け散った。
小さな氷の破片が宙に舞い、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。何も知らない者が見れば、美しい光景に見えたことだろう。
しかし、ここにいる全員は何が起きたのか、一部始終を見ていたのだ。
とてもではないが、キレイなどと呼べるはずもない。
これが本物のシーリス魔法学院後継者の実力なのだ。
レベル三十八の超上級クラス、しかも同じ水氷系魔法使いにも関わらず、ナザールは水氷の魔法でいとも容易く殺されてしまった。
ブレガは震え上がっていた。
知らぬとはいえ、偽者を後継者として使っていたからだ。
汗を滝のように流しながら、ブレガは地面にひざまずいた。殺されると思ったからだ。
しかし、そんなブレガを視野に入れることもなく、ヴァルレインは違う方向を振り向いた。
「シャスター」
静まり返っている中、決して大きくはないヴァルレインの呼び声が戦場に響く。
呼ばれた本人はため息をつくと、面倒臭そうにヴァルレインのいる場所に再び戻っていった。




