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第三十二話 旅人の正体

「ぎゃー、助けて!」


 炎の花の中から聞こえてくる絶叫に、先ほどまで言い争いをしていたブレガは声が出ない。

 敵であるはずのハルテ国王でさえ、恐怖に顔が引きつっていた。

 人が巨大な炎の花に飲み込まれる、信じ難い恐ろしい光景が目の前に映っているからだ。


 このまま後継者の偽者は炎の花に包まれて死んでいくのだ。

 誰もがそう思っていた。



 しかし、その直後、さらに信じられないことが起きた。


 突然、燃えている花びらが凍りついたのだ。



 炎が凍るなんて有り得ない。

 しかし現実に、巨大な炎の花びらは六枚とも凍りつき、さらに無数の氷片となり砕け散った。


 花の中からは、重傷を負った偽者がよろめきながら出てきた。

 まだ辛うじて生きている。



「な、なにが起こったの?」


 カリンの問いに、誰も答えられる者はいない。皆が突然の出来事に驚いているのだ。


 しかし、ただひとりだけ驚いていない人物がいた。

 シャスターだ。



「現れるのが随分と遅いな。もう少しで俺が殺してしまうところだったけど」


 シャスターは瀕死の偽者に話し掛けているのではない。

 なぜか、空に向かって叫んでいる。


 そんな少年を見て、他の者たちはますます訳が分からなくなってしまった。

 しかも、訳の分からないことはさらに続く。



「ずっと見ていたが、相変わらずお前の戦いは無駄が多い」



 なんとシャスターの言葉を受ける形で、空から声が聞こえてきたのだ。

 そこにいる全員はさらに驚くが、そんなことを気にすることもなくシャスターと謎の声の応酬は続く。


「無駄が多いと思うなら、さっさと出てくればいいだろう?」


「お前の実力がどれほど上がったのか見たかったからだ。しかし、この程度の魔法使い(ウィザード)では実力を測れるはずもないか」


「まぁ、そういうこと。それじゃ、後は任せた」


 それだけ言うと、シャスターはカリンやレーテル姫のいる場所へのんびりと歩いて戻ってきた。




「どういうことか、説明して!」


 着いて早々、カリンがシャスターを問い詰める。

 それはそうだろう、何が起きているのか誰もが知りたい状況だ。


「何がと言われても、あいつが現れただけだよ」


「だから、そのあいつって誰なのよ!」


 要領を得ない答えにカリンが爆発した。

 シャスターが空からの声の主を差していることは分かる。だが、それが一体何者なのかをカリンたちは知りたいのだ。



「そもそも、声だけ聞こえてくるけど、その人はどこにいるのよ!」


「そこにいるよ」


 すると、シャスターが指差した場所、空の一点が突然崩れる。


「そ、そ、空が壊れた!?」


「光の屈折を応用した水氷魔法だよ」


 とシャスターが説明しても、カリンたちには理解できない。

 空の一部がまるで壁が壊れるように崩れるなんて見たこともないからだ。



 そして、崩れた空の壁の中から、ひとりの少年が姿を現した。


 その少年は足元に水の渦を纏いながら、ゆっくりと降下して地面に着地した。

 誰もが驚いている中、ひとりだけ違う意味で驚いている者がいた。


「あれは、旅人さま!」


 そう叫んだレーテル姫の目は輝いていた。


「もしかして、あの人が雨を降らせた旅人ですか?」


「そうです、あのお方です!」


 レーテル姫は今にも駆け出して行きそうだったが、さすがに気持ちを抑えてその場に留まる。

 今はまだ戦いの最中なのだ。

 ただ、その戦い自体がどうなっているのか分からない状況だった。内戦を起こしたハルテ国王とブレガでさえ、状況が分かっていない。



 シャスターが唱えた炎の花びらの魔法で、偽者が殺されそうになった時、謎の少年が現れて偽者を助けた。

 偽者を助けたということは、シャスターの敵なのかもしれない。

 しかし、その後シャスターと謎の少年は戦いを始めてはいない。それどころか、二人は知り合いのようだった。


 そして今、謎の少年は偽者の前に立っている。

 全ての視線が謎の少年に向けられる中、その少年の口がやっと開いた。



「久しいな、ナザール」


 その声を聞いた瞬間、大きく目を開いた偽者は慌てて上体を上げた。


「な、な、なぜ、あ、あなた様が……こ、ここに!?」


「そんなこと決まっているだろう」


 少年の冷たい視線で全てを悟った偽者は後退りを始めた。


「お、お、おゆるしを……」


「許すと思うか?」


「シ、シーリス魔法学院の後継者と名乗ったことは、ほ、ほんの出来心なのです。も、も、もう決して、あなた様の身分を語ることはいたしません!」


 ナザールと呼ばれた男が口にした事実に、周囲には大きなどよめきが起こる。



「まさか! あの少年がフローレ姉さんを氷の棺に入れて助けてくれた人なの!?」


 口を開けたままのカリンに、シャスターは頷いた。


「あぁ。忌々しいけど、その通りだよ」


 さらに興奮したレーテル姫が、シャスターに近づいてくる。


「それでは、やはりあの旅人様がシーリス魔法学院の本当の後継者様だったのですね!」


 嬉しそうなレーテル姫の表情を見ることなく、シャスターはつまらなそうに答えた。



「奴がシーリス魔法学院の後継者、ヴァルレイン・シーリスだ」




皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


第一章の最後に少しだけ出てきた。水氷魔法の最高峰シーリス魔法学院の後継者がついに登場しました。


次回以降、シャスターとどうなるのでしょうか?


楽しみに待っていてもらえたら嬉しいです。


これからもよろしくお願いします!


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