第二十五話 似ている二人
後継者は前線に着くと、味方の騎士たちの中に紛れた。
魔法使いは防御力と体力が低い。これは彼も例外ではなかった。
だからこそ、敵から集中して狙われないように、騎士たちの中へ紛れたのだ。
そして、ここから水氷系魔法の凍氷の剣を放つ。敵はこちらを見つけることができぬまま、右往左往して氷の刃に倒される。
それがいつものやり方であった。
「さて、魔力が切れた魔法使いたちはどこだ?」
後継者は敵前方を見渡す。
先に邪魔な魔法使いたちを殺そうと思ったからだ。
しかし、それらしき集団は見えない。
「ちっ! すでに後方に撤退したか。だがまぁ、しばらくは魔力もなく魔法は使えないから構わぬか」
これで敵の兵士たちは殺し放題だ。後継者の瞳に残虐な炎が灯る。
「凍氷の剣!」
彼が両手をあげると、左右の手のひらから氷の刃が現れた。それが敵陣営に向かって放物線上に放たれ続け、敵の兵士に突き刺さっていく。
刃の数は何十、何百とどんどん増えていった。
「あははは、見ろ、俺の力を! 俺に敵う者などいないのだ。俺は偉大なる魔法使いだ!」
後継者は高笑いした。自分の力の誇示と残虐さを満たすことができる戦場は、彼にとって最高の舞台なのだ。
この時、ハルテ国王陣営は大混乱を起こしていた。
シーリスの後継者の魔法攻撃を受けているせいもあるが、ハルテ国王がカリンたちに連れ去られ、命令系統が統一できていないことが大きかった。
しかし、ブレガ陣営はそのような事情を知らない。
「シーリスの後継者様のおかげで、余裕で勝ちそうですな」
後継者の隣にブレガが現れた。敵の大混乱を見て、前線に来ても安全だと判断したのだ。
「ふん、最初から余裕だ。巨大な火炎の壁でも、俺が本気を出せば簡単に破壊することはできた。ただ効率を考えて、敵の魔法使いたちの魔力が切れるのを待っていただけだ」
「それは、それは……」
ブレガは相槌を打ちながらニヤけた。
後継者の言葉が本当なのか強がっているだけなのか、ブレガには分からないが、要は最後に勝てば良いのだ。
「ハルテ陣営はもう巨大な炎の壁は作れないということですか。後はハルテ陣営の兵を殺し尽くすだけですな」
「そのとおりだ」
後継者とブレガは大笑いした。
互いに利用し合っている二人だが、残虐性に関してはかなり似ていた。
敵は一人残らず全滅させる、二人の認識は一致していた。
「凍氷の剣!」
「全軍突撃!」
二人の大声が重なり合う。
これでハルテは終わりだ。
後継者もブレガも、そう確信したその時。
突然それは起こった。
彼らの前に再び巨大な炎の壁が現れたのだ。




