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第二十一話 火炎の壁

 中央前列部隊の惨状は、ますます酷くなっていった。

 すでに防御魔法を展開している魔法使い(ウィザード)も数人だけだ。


 その彼らにも限界がきていた。



「ここまでか……」


 年長の魔法使い(ウィザード)が膝を曲げた。

 彼の魔力もここまでだった。魔力が枯渇して、動くことさえできない。


 死を覚悟した彼が静かに目を閉じようとした。


 まさにその時だった。


 突然、目の前が真っ赤に燃え出したのだ。



「な、なにが、起きたのだ!?」


 彼には全く理解出来なかった。

 いや、その場にいる誰もが理解できておらず、全員がただ呆然とその光景を眺めている。


 しばらくして、年長の魔法使い(ウィザード)がやっと口を開いた。


「これは……まさか……火炎の壁(ファイア・ウォール)!?」


 しかし、年長の魔法使い(ウィザード)も自分が発した言葉を信じることができない。

 なぜなら、彼も火炎系魔法使い(ウィザード)なので、先ほどまで火炎の壁(ファイア・ウォール)を放っていたが、目の前の火炎の壁(ファイア・ウォール)は全く規模が違い過ぎるのだ。


「お、俺の火炎の壁(ファイア・ウォール)はやっと五メートル程度の高さなのに……」


 それでも彼は魔法使い(ウィザード)レベル十六であり、三十人の中ではトップクラスの規模の防御魔法だった。

 そんな彼の火炎の壁(ファイア・ウォール)に多くの騎士たちが助けられていた。


 しかし、目の前に広がっている火炎の壁(ファイア・ウォール)は規模が桁違いだ。

 しかも中央前列の前に広がっているだけではなく、右翼、左翼まで長く延びている。


 ゆうに幅三百メートルはあるだろう、高さも見上げるほどもある巨大な炎の壁が氷の刃の攻撃をすべて防いでいる。



「あり得ない……」


 年長の魔法使い(ウィザード)は呆然とした。

 目の前の光景は非常識そのものだったからだ。

仮に自分と同じレベルの火炎系魔法使い(ウィザード)が百人いたとしても、これ程の火炎の壁(ファイア・ウォール)はつくることはできない。


「こ、こんなものが存在するはずがない。俺は夢でも見ているんじゃ……」


 しかし、目の前で激しく燃えている火炎の壁(ファイア・ウォール)で、命が助かったのも事実だ。



「だから、魔力を抑えながら防御魔法を長く展開するように言ったのに」


 いつの間にか、年長の魔法使い(ウィザード)の前に少年が立っていた。

 シャスターだ。


「ま、まさか、この火炎の壁(ファイア・ウォール)は、き、きさまが……」


「そうだよ」


 それを聞いた瞬間、年長の魔法使い(ウィザード)は頭を地面につけて謝罪した。


「あなた様が高レベルな魔法使い(ウィザード)とは知らずに、大変失礼な発言をしてしまいました。どうかお許しください!」


 先ほどまでの横柄な態度から一変した魔法使い(ウィザード)を見て、シャスターは苦笑した。


「気にしなくていいよ。それより負傷者を助けてあげて」



 そもそもシャスターはハルテ国王軍を助けるつもりはなかった。

 しかし、予想以上に相手の魔法攻撃が強かったため、これ以上続けば、ハルテ国王本隊の隣に移動したレーテル姫たちにも被害が出かねないと思い介入したのだ。


「しばらくはこれで大丈夫」


 氷の刃の攻撃はいつの間にか止んでいた。相手もこれ以上続けても無意味だと分かったのだろう。


「さてと、それじゃ国王のところに戻るから。あとはよろしく」


「はい!」


 年長の魔法使い(ウィザード)は頭を下げたが、その時驚くべき事実に気付いた。


 少年は後方の中列部隊に去って行くが、巨大な火炎の壁(ファイア・ウォール)はそのまま消えることなく燃え続けているのだ。


 術者が魔法を止めれば魔法も消える、それが常識だ。それなのに火炎の壁(ファイア・ウォール)は燃え続けている。

 しかも、これほどの巨大な火炎の壁(ファイア・ウォール)を長時間展開し続けることができる魔力とは。


「あの少年は……神なのか……」


 去って行く後ろ姿を見ながら、畏怖の念に駆られた魔法使い(ウィザード)は、しばらくその場から動くことが出来なかった。







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