第二十話 魔法使い同士の戦い &(登場人物紹介)
「貴様か、生意気なガキというのは?」
魔法使い部隊に現れたシャスターに冷たい視線が突き刺さる。
三十人の魔法使いの敵意丸出しの態度は、シャスターを全く歓迎していないことが明白だった。
しかし、そんな視線を気にすることなく、シャスターは魔法使い部隊を見渡した。
「へえ、面白いことをするね」
シャスターが面白いと言ったのは、一人ひとりの魔法使いに複数の騎士の護衛が付いていたからだ。
通常、魔法使いは体力もあまりなく、直接攻撃に弱い。
そのため主に後方からの魔法攻撃が多いのだが、今回は敵からの魔法攻撃を防ぐために、最前線に展開している。
そこで、魔法使いの弱点を補うため、騎士たちが護衛として守っているのだろう。
「貴様に護衛はない。我々を弱いとほざいた貴様には、護衛など必要ないだろうからな」
「うん、いらない。あんたたちみたいに弱くないから」
「なんだと!」
嫌味を速攻で返されてしまった魔法使いは我慢の限界を超えた。
「魔法使いレベル十二の俺が弱いだと? 貴様、俺と勝負しろ!」
ひとりの魔法使いがシャスターの前に立つが、すぐに他の魔法使いがそれを止めた。
「まあ待て。戦いが始まれば、このガキはすぐに殺される。その方が俺たちの溜飲も下がるだろ」
最初の敵からの魔法攻撃、あるいはそれを辛うじて防げたとしても、その後の直接攻撃で護衛のいないシャスターは殺されると、魔法使いたちは確信していた。
「そうだな、このガキが殺されるところを見てやるとするか」
勝負を挑もうとした魔法使いも残忍な笑みを浮かべた。
ここにいる魔法使い全員がシャスターの敵なのだ。
そして、ハルテ国王をはじめとする貴族たちも同様だ。
これほど敵が多いとかえって清々しいと思ったが、この場にカリンがいれば「生意気なあなたの態度が原因よ!」と言い放つに違いない。
しかし、シャスターだけに非があるわけではない。
そもそもハルテ国王や貴族たちは、レーテル姫を嫌っており、姫が連れて来た魔法使いが戦死するように仕組んでいる。
その意を汲んだ魔法使いたちである。最初からシャスターに好意的ではないのは当然だったし、シャスターだけに護衛を付けなかったのもそのためだ。
「そうだ、質問があるんだけど?」
「なんだ?」
四十歳ぐらいだろうか、この中で一番最年長の魔法使いがつまらなさそうに声を上げた。
「敵からの最初の魔法攻撃を防いだ後はどうするの?」
「逃げるに決まっているだろ」
そんなことも分からんのかと、馬鹿にしたように笑う。
「そのために護衛がいるのだ。護衛に守られながら我々は後方に下がる」
「でも、二撃目の魔法が来たら?」
「馬鹿か、貴様は!」
今度は周りの魔法使いからも失笑が聞こえてきた。しかし、なぜ笑われているのかシャスターには理解できない。
答えたのは、同じく年長の魔法使いだった。
「敵の水氷の魔法使いがいかに強いといっても、広範囲攻撃の魔法を連続して放ってくることなど出来ぬ」
広範囲魔法とは何十発もの魔法を一度に放つようなものだ。一撃だけでも魔力は底をついてしまうだろう。
「なるほどね」
「ふん、貴様は一撃さえも防御出来ずに死ぬのだから、二撃目など考えずともよい」
再び笑いが起こった。嘲る笑いだ。
しかし、当の本人は全く気にしていないどころか、哀れみの視線を魔法使いたちに送った。
「かわいそうに……」
「ん、何がだ?」
「あんたたちが生き残りたいのなら、防御魔法の魔力を抑えながら、できるだけ魔法が長く続くように防御魔法を張り続けるといいよ」
「なんだと、貴様! 命令するなど……」
「敵陣が動きはじめました!」
魔法使いの言葉を遮って、偵察兵が大声で叫ぶのが聞こえてきた。
一気に緊張感が高まる。
次の瞬間、前方から無数の氷の刃が飛んできた。
水氷の魔法使いの魔法だ。
魔法部隊がいる中央前列の部隊に放たれた氷の刃によって、多くの兵が命を落としていく。
「火炎の壁」
「気流の壁」
「大地の壁」
魔法部隊の魔法使いたちが慌てて防御系魔法を放つと、彼らの前には巨大な炎や風や土の壁が出来上がる。
それらの壁に氷の刃が衝突すると、氷の刃は消えていった。
「よし、ここからが正念場だ! これほどの広範囲魔法だ、すぐに敵の魔力は潰える」
年長の魔法使いの激励に、皆が余裕そうに笑った。
「思っていたよりはラクそうだな」
「いや、俺たちが強いだけさ。ここにいる全員が中級クラスの魔法使いだ。もし敵が本当にシーリス魔法学院の後継者だとしても、さすがにこれだけの人数の中級クラスの魔法使いには敵わないということさ」
「そのとおりだ。もう少し防ぎきれば、俺たちの勝利だ!」
全員が勢いついたが、それからしばらくしても、一向に氷の刃の攻撃が止む気配がない。
徐々に魔法使いたちの表情に焦りが浮かび上がる。
「お、俺の魔力はもう半分を切ったぞ」
「俺も半分以下だ……」
「慌てるな! もう少しで終わるはずだ」
しかし、それからさらに時間が経っても、魔法攻撃は止まない。
「もう、駄目だ……」
ついに魔力が切れた魔法使いが出始めた。するとその場所の防御魔法は消え去り、容赦なく氷の刃が襲い掛かる。
「ぐわぁ!」
氷の刃に刺された騎士たちが、叫びを上げながら倒れる。
しかも、魔力が切れた魔法使いの人数に比例してその数は急激に増えていき、中央前列部隊は大混乱に陥り始めた。
前列部隊の後ろ、中列部隊にいるハルテ国王たちにも、その光景ははっきりと見えていた。
「何をやっているのだ、魔法使い部隊は!」
「おそらくは魔力が切れたのでしょう」
おそるおそる答えたタジサルだったが、ハルテ国王は更に大声を上げる。
「そんなのは見れば分かる! なぜ敵の魔法攻撃は途切れないのだ?」
それについては、誰も答えることは出来なかった。
いや、答えられなかったのだ。
もしかして、本物の「五芒星の後継者」なのかもしれない。
しかし、敵の魔法使いが本物のシーリス魔法学院の後継者なのではと答えでもしたら、その場で国王に斬り殺されてしまうであろう。
国王周辺にいる貴族たちは絶望的な表情で前列部隊を見つめるしかなかった。
第三章「水と氷の旅人」編
これまでの主要な登場人物
シャスター
伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者。
魂眠に陥ってしまったフローレを治す可能性がエースライン帝国にあることを「死者の森」のアークスから聞き、エースライン帝国に向かおうとしていた。
しかし、途中のアイヤール王国で、フローレを氷の棺で助けたシーリス魔法学院の後継者の噂を聞いたカリンの強引な決定により、噂の出所のシューロン地方に向かうことになり、そこでレーテル姫と出会う。
アイヤール王国の内情を聞いたシャスターは、二人の兄の国王争いを憂いでいたレーテル姫を新たな国王にすべく、戦場に向かう。
カリン
神聖魔法の使い手であり、簡単な神聖魔法を使うことができる。
魂眠に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。
アイヤール王国でフローレを氷の棺で助けてくれたシーリス魔法学院の後継者の噂を聞き、噂の出所のシューロン地方に向かい、領主のレーテル姫と出会う。
レーテル姫の雨を降らせてくれた旅人への淡い願いを叶えようと、シャスターと共に戦場に向かう。
星華
シャスターの守護者。
稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。
レーテル姫
アイヤール王国、前国王の子供三兄弟の妹であり、僻地であるシューロン地方の領主。
十二歳とは思えぬほどの利発で、冷静さと思慮深さを持った少女。
父の前国王が急に亡くなった為、長男ハルテが国王になったが、それを認めない次男ブレガとの間で内戦が起きており、そのことを憂いていた。
また、自領地の旱魃を雨を降らせて救ってくれた魔法使いの旅人を探していて、その旅人の正体がシーリス魔法学院の後継者ではないかと思っている。
そして、次兄ブレガ陣営に味方している水氷系魔法使いが、旅人と同一人物ではないかとも推測している。
旅人、そして二人の兄たちに会うため、シャスターたちと共にハルテとブレガが争っている戦場に向かう。
フォーゲン
レーテル姫の執事。アイヤール王国の前宰相。
沈着冷静であり、豊富な知識を持っている人物。
前国王から、次の国王をレーテル姫と遺言書を預かっていたが、そんなことを許すはずがない長兄ハルテと次兄ブレガの謀りごとにあい失脚。
レーテル姫共々、僻地のシューロン地方に追い出されてしまった。
シャスターに発破を掛けられて、レーテル姫を国王にするべく、シャスターたちと共にレーテル姫を連れて長兄ハルテ国王の陣営へと赴く。
ハルテ国王
父の前国王の後を継いだ国王。冷酷な性格であり、レーテル姫の参陣もたった百騎と馬鹿にした。
生意気なシャスターを最前線に送り込み、さっさと殺させようとしている。
タジサル
現、宰相。ハルテや貴族への媚びで成り上がってきた人物。
前宰相のフォーゲンを馬鹿にし、レーテル姫たちを軽く見ている。




