表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/810

第六話 村人たちの嘘

 しばらくすると、宿屋の店主が再び店内から現れた。


「どうだい、料理は堪能したかい?」


「うん、大満足だったよ!」


「そいつは良かった。食事の最後はデザートだ」


 店主が持ってきたデザートは、この湖の周りで採れた数種類のベリーをふんだんに使ったタルトだった。夏の時期らしいデザートだ。



「このベリーの甘酸っぱさと、生クリームの甘さのハーモニーが絶品だね!」


 シャスターは店主が切り分けたタルトをすぐに平らげると、おかわりを求めた。


「そんなに喜んでもらえると料理人冥利に尽きるな。ありがとうよ」


「いやいや、本当に美味しいから。いやー、この宿屋に来て良かったよ」


「あははは。夜の湖畔も美しいだろう? 残りのタルトは俺の奢りだ。テラスでゆっくりしていきな」


 そう言うと、店主はタルトをホールごと置いて戻っていった。


「ありがとうー!」


 無邪気に喜ぶシャスターを見ながら、カリンはため息をついた。



「よくもまぁ、何事もなかったかのように話せるわね」


「ん、なにが?」


「宿屋の店主が嘘をついていたことよ」


 カリンとしては、自分たちに隠し事をしている店主を気にもせず、普通に話しているシャスターが信じられなかったのだ。


「嘘をついていようが隠し事をしていようが、このタルトが美味しいこととは関係ないよ」


「それはそうだけど……」


「それに、店主の嘘からは悪意を感じられない。必死に何かを守ろうとしている嘘だ。つまり、店主は悪い人間じゃない。むしろ逆で、良い人だと思うよ」


 確かに、店主は気さくでとても感じが良かった。それはカリンにも分かっていた。


「だから、カリンも食べたほうがいいよ。タルトはまだまだあるから」


 この少年が凄いところはこういうところだと、カリンは改めて思った。

 何事にも動じず飄々としながらも、肝心な所だけはしっかりと押さえているのだ。



「よし、私も食べよう!」


 カリンはフォークを刺すと、タルトを口に運ぶ。


「うん、美味しい!」


 その日、三人は夜遅くまで湖畔の風景と食事を楽しんでいた。




 翌日、シャスターたちは宿屋を出ると、村人たちに大雨のことを聞き歩いた。

 しかし、宿屋の主人と同様、誰も旅人の少年のことを話さない。理由は分からないが、やはり村の人々は旅人の少年の話を無かったことにしたいらしい。



「こうなったら、直接レーテル姫に話を聞くしかないかな」


 とはいえ、見ず知らずのシャスターたちが城に行ったところで、追い返されるだけだ。

 どうしようかと考えながら湖畔を歩いていると、宿屋の主人が後ろから声を上げて呼び止めてきた。


「おーい、あんたたち!」


 宿屋の店主は、何処かに寄ってきた帰りのようだ。


「どうしたのですか?」


 カリンが足を止めると、店主は息を切らせながら話し始めた。


「今、城に行って、あんたたちのことを話してきたところだ。あんたたちさえ良ければ、レーテル姫に旅の話をしてくれないか?」


 レーテル姫は、旅人や商人たちから他の国の話を聞くことが大好きだった。そこで店主は他国からの宿泊者がいる時は、城にそのことを伝えていたのだ。


「レーテル姫は、是非ともあんたたちの旅の話を聞きたいらしい。お茶を用意して待っているとのことなので行ってくれないか?」


 店主の言葉は渡りに船だった。

 これで堂々と城に行くことができる。しかも、レーテル姫に直接会えるのだ。

 少し渋った感じの演技をしながら、最後には店主の頼みなら断れないということにして、シャスターたちは城に向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ