第七十話 ペンダントの秘密
そこにはゴーストのガイムがいた。
「ガイムさんー-!!」
カリンは泣きじゃくりながら、もう一度声を上げた。
目の前に本物のガイムがいるのだ。でも、当然ながらこれはありえないことであった。
「ガイムさんはあの時、裏切り者の部下に殺されたはず……」
カリンの頭は混乱する。二人の目の前で、ガイムは倒されて消え去ったのだ。
「答えはガイムのペンダントさ」
シャスターが理由を話す。
「ペンダントはマジックアイテムだった。あのペンダントは所持していた者が死んだ時、その魂を一時的にペンダントに封じ込める。そしてペンダントが割れた時、その魂は解放されて現世に蘇る」
カリンからペンダントを受け取った時、シャスターはこのペンダントに違和感を覚えたが、それはこれがマジックアイテムだったからだ。
「おそらくシュトラ王家に伝わる秘宝なのだろう。俺もこんな珍しいマジックアイテムは初めてだったので、効力に気付くのに少し時間が掛かったけど、分かった時には驚いたよ」
それをずっと黙っていたシャスターに対してカリンは文句を言いたいが、今はそれについて怒っている時ではない。
「それじゃ、ガイムさんは!」
本当に蘇ったとカリンは喜んだが、シャスターは頭を横に振る。
「ただ、現世にはほんの少しの時間しか魂を繋ぎ留められない。そして時が来たら今度こそ本当に消えてしまう」
「……そういうことでしたか」
初めてガイムが口を開いた。
少し嬉しくて、でも悲しそうな声にカリンには聞こえた。
「このペンダントの効力を知らないで、ガイムはエミリナ女王から受け取ったのでしょ?」
「はい。私は王家の者が生きている限り、輝き続けるマジックアイテムだと聞いておりました」
実際に、ガイムは二人にもペンダントの効力をそのように話していた。ガイム自身も本当の使い方を知らなかったのだ。
「もちろん、王家の者が生きている間、輝き続ける効力も付与している。しかし、それは表向きなものだったのさ」
「表向き?」
「うん。そして本来のマジックアイテムの効力こそが、魂を一時的に封じ込めることができることなんだ」
シャスターは割れたペンダントを拾い上げて見つめた。
「エミリナ女王は万が一ガイムが死んでしまった場合を考えて、ペンダントをガイムに渡したのさ。ガイムが死ねば、所有者であるガイムの魂はペンダントに封印される。そして、いつか女王の元にペンダントが戻ってきた時、魔女に奪われた自分を殺してもらおうと考えていたのかもしない。満月の夜だったら、一時的にエミリナ女王に戻れる。その時にペンダントを割って」
「そんな……」
あまりにも悲しすぎるエミリア女王の判断にカリンは言葉を失う。
しかし、それが事実であるとガイムにも分かっていた。
そして、それが今なのだ。
ガイムはアークスの短剣をシャスターから受け取ると、魔女ディネスの胸に短剣を当てる。
「待って、ガイムさん! 魔女ディネスは……」
「知っています!」
カリンの話しを遮ってガイムは叫んだ。
ガイムはペンダントに封印されている間も、シャスターたちの会話を聞いていたからだ。
「知っているからこそ、私が引導を渡さなくてはならないのです」
「そうだ、それでいい。早く私を殺すがいい」
「五芒星の後継者」の桁の違う強さを見せつけられて、すでに魔女ディネスは全てを諦めていた。
それに、もう失うものは何もない。いや、五百年前から失うものなど何もなかったのだ。
ディネスは目を閉じて死ぬ瞬間を待った。
ガイムが握っている短剣が女王の胸の上に軽く当たる。
ついに殺される時がきた。
しかし、ディネスは最初にチクリとした痛みを感じたのみで、それからいくら待っていても鋭い痛みが襲ってこない。
「どうした? 早く殺せ」
「うっ、うぅぅ……」
目を開けたディネスの視界に映ったのは、ガイムが泣いている姿だった。
短剣を胸に当てたまま、ガイムは悲しそうな目で短剣を見ている。
「見た目に惑わされるな。お前の憎き敵を殺せるのだぞ」
「違う、違うのだ、魔女よ」
ガイムの視線が短剣からディネスに移ると、さらに悲しみの表情が強くなった。
「ジギス国王はあなたとの間に和平を望んでいたのだ」
「なっ!?」
ディネスは驚いたとの同時に怒りが込み上げる。
「貴様、嘘をつくな! ジギスは私の大切な家族を殺したのだ。当時生まれてもいない、貴様に何が分かる!」
「分かるのだ。代々騎士団長だけに口伝で建国時の真実が伝えられてきたのだ。それを私はあなたに話さなければならない」
そう言うと、ガイムは静かに語り始めた。




