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第六十九話 魔女の行為

 カリンは呆然としていた。

 魔女ディネスの話が事実ならば、悪いのはシュトラ王国の方ではないか。


「歴史なんて、勝者の都合の良いようにつくられるものさ。たとえ敗者に正当性があったとしても、それが勝者に不利なことであれば消されてしまう」


 シャスターは達観者のように話すが、カリンとしては納得できない。それが事実であれば、魔女ディネスがあまりにも可哀そうだからだ。


 誰も知らない事実、きっとガイムもアークスも、そしてエミリナ女王さえも知らないことをずっと一人で魔女ディネスは抱えてきたのだ。

 その苦しみや悲しみは想像を絶するものだったに違いないのだが。


「だからといって、その事実が魔女ディネスを許す免罪符にはならない」


 シャスターが冷たく言い放つ。


「恨むのなら、シュトラ王家の者だけにすべきだった。それなのに無関係な百万以上の国民を犠牲にさせた」


「無関係のはずがない! 奴らはシュトラの民だ、私の愛する夫や子供たちを殺した奴らの子孫だ!」


「あなたが殺した百万人のなかにも、愛する夫や子供がいた者が数え切れないほどいたはずだ。その者たちの無念さはどうする?」


「それは……」


「あなたはジギスの卑劣な行為に対して怒っているが、殺された百万の国民にしてみれば、あなたの行為はジギスと同じだよ」


「なっ!?」


 魔女ディネスは言い返せなかった。

 シャスターの言う通り、シュトラの国民たちも愛すべき人々がいたのだ。それを一瞬で奪い去ってしまったのは自分なのだ。

 自分が受けた苦しみや悲しみと同じことをさせてしまったのだ。


「それでも私は自分がしたことを後悔していない。しかし、どうやらここが潮時のようだな」



 魔女ディネスは自嘲気味に笑った。

 切り札だったボーンドラゴンがあっけなく倒されたのだ。全力で戦っても、イオ魔法学院の後継者には到底敵わない。


「全て終わった。さあ、私を殺すがいい」


 これで愛する夫や子供たちの元に行けるのだ。

 魔女ディネスは殺されることを覚悟した。


 しかし、シャスターはそんな魔女ディネスに対して首を横に振る。


「それを決めるのは俺たちじゃない」


 シャスターはガイムから預かっていたペンダントを空高く投げた。すると地面に落ちたペンダントが割れたのと同時に霧がたち込める。


「なによ、これ?」


 視界が悪くなりカリンは驚いたが、それも束の間のことだった。

 すぐに霧が晴れて視界が戻る。

 そしてカリンが本当に驚くのはこれからだった。



 目の前に自分たち以外の人物が立っている。

 誰だろうと思ったカリンは、その顔を見た瞬間、驚きとともに笑顔になった。


「ガイムさん!」


 そこには消滅したはずのガイムが立っていた。


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