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第六十一話 鈍感な二人(カリンの時間旅9)

(えっ、え、え、え!? えっーーー!!)



 なんとか、我に返ったカリンだったが、頭の中がまだ整理できていない。


(ちょ、ちょっと待って! エミリナ女王が好きなのは、アークスだったんじゃないの!?)



 アークス有力説は、アークスの部下だった裏切り者ゴースト四人が言っていたはずだ。


(チッ、ガセだったか)


 カリンは四人に対して頭にきたが、今さら文句を言っても始まらない。

 それよりも、エミリアの好きな相手がガイムだったことは、かなり意外過ぎることだった。


(このことをガイムさんは知っているのかな……知っているはずないか)


 アークスが言い放ったとおり、ガイムはこの手に関しては鈍感なのだろう。

 カリンたちに、ガイムがエミリナ女王の話をした時も、完全に主従関係の話し方だったからだ。



「私は女王よ。こんな気持ちを伝えられるはずないわ。ガイムを困らせてしまうだけ」


 女王という立場は、人の好き嫌いで結婚はできない。だからこそ気持ちを伝えたところで、ガイムに迷惑を掛けてしまうのだ。

 それにあのガイムのことだ、エミリナの気持ちを知ってしまったら、生涯独身を貫くかもしれない。


「数年後、私は他国から夫を迎え入れることになるでしょう。その時までには、この気持ちを忘れられるようにしなくてはならないの」


「王族では、形式上の夫婦などいくらでもいらっしゃいます。エミリナ様には好きな人と歩んで貰いたいのです」


 アークスは一般的な事例を挙げてみたが、エミリナは苦笑するだけだった。


「もし、私がガイムに『形式上の夫婦関係だから、ガイムが私の愛人になって』と頼んだら、ガイムは何て言うと思う?」


 ガイムを引き合いに出されて、意表を突かれたアークスは答えることができなかった。

 真面目で頑固なガイムなら、そんな申し出はいくら女王であっても、速攻で断ることが分かりきっているからだ。


「それに、私はガイムに嫌われることは我慢できても、軽蔑されるのは絶対に嫌なの」


 エミリナの真剣な表情を見て、アークスは自分自身の浅はかさを悔やんだ。


「そこまでお考えであれば、私がとやかく言うことはありません。非礼をお許しください」


 アークスは頭を下げて謝罪した。もちろん、エミリナは怒っていない。



「長居し過ぎました。私もそろそろ会場に行かなくてはなりません」


 アークスは席を立った。


「色々と心配してくれてありがとう。戴冠式、頼みましたよ」


「お任せください。それでは失礼します」


 アークスの口調が少し機械的だったのだが、エミリナは気付かない。

 気付いたのはカリンだった。


(あー、なるほどね! アークスもエミリナ女王のことを……)



 要は、エミリナもガイム同様、自分が誰かに想われているということに気が付いていない。色恋に関しては、彼女も鈍感ということだ。

 カリンは初めてアークスに同情した。


 しかし、そんなことを知らないエミリナは、二人と話して緊張が解けたせいか、少し眠くなっていた。


「まだ、あと一時間以上あるから、少し休もうかしら」


 独り言を呟いたエミリナは椅子に座ったまま、目を閉じる。


 数分後エミリナは眠りにつき、それとともにカリンの意識も落ちていった。



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