第四十七話 偽者と本物
エミリナ女王は横目でチラッとシャスターたちを見ると、玉座に座った。
「ほほぉ、この者たちは生命力がかなり高そうね。これなら、さらに私も長生きできそう」
「……」
アークスは無言だったが、代わりに女王に話しかけた者がいた。
「あなたは誰ですか?」
カリンだった。
不思議そうな表情をしながら、カリンが今度はアークスに顔を向ける。
「ねぇ、本物のエミリナ女王はどこにいるの?」
これには目の前にいる女王本人が激怒した。
「なんだ、この失礼な小娘は? 私がエミリナだ!」
「そんなの嘘よ!」
カリンは断言した。
なぜなら、昨日月夜の下で見たエミリナ女王とまるで違うからだ。いや、姿や声は昨日のエミリナ女王そのものだ。しかし、雰囲気が全く違っていたのだ。
今、カリンの前に座っているエミリアナ女王からは昨夜と違い、清らかさが感じられない。それどころか禍々しささえ感じる。
「昨夜会ったエミリナ女王は、もっと穏やかで優しい感じだった。貴女じゃない!」
カリンの言葉に驚いたのはアークスだった。
「昨夜、会っただと!?」
「別の場所から写している映像としてだけど。でも、それでも雰囲気は分かるわ」
「そうか、昨夜は満月だったか」
納得した表情のアークスに対し、女王はカリンを睨み続けたままだ。
「アークス、この娘を殺せ!」
「しかし……」
「私の命令が聞けないのか!」
「生命力が高い者たちです。それを奪わずに殺すことはもったいなく思います」
「……」
アークスの説明を聞いて女王は言葉を止めた。
どうやら女王は二人から生命力を奪いたいらしいが、殺すと奪えなくなってしまうらしい。
生命力を奪うことと、殺すことの二つを天秤にかけて葛藤しているのだろうと、カリンは推測した。
しかし、そんなことはカリンには関係がない。女王にさらに追い打ちをかける。
「さっきから生命力が高いとか、長生きとか、意味の分からないこと話しているけど、偽者の貴女に命を奪われるつもりなんてないわ。早く本物のエミリナ女王を解放しなさい!」
女王の天秤が一気に傾いた。どちらに傾いたかは明白だった。
「ここで死ぬがよい!」
その直後、王の間の床と天井が崩れた。突然、巨大な塊が現れたからだ。
シャスターはカリンを抱え込むと、崩壊していく王の間から離れる。
砂埃で視界が遮られる中、その塊はさらに大きくなっていき、王の間だけではなく王城全体を巻き込むほどの崩壊が始まっていた。
シャスターはさらに走り出し、城門近くまで避難した。
抱きかかえたカリンを下ろすと、王の間があった方角を見つめる。
「結局、城門まで戻って来てしまった」
「あ、ありがとう。それにしても、突然何が起きたの?」
まだ砂埃で全体像は掴めない。それでも、王城の半分近くが崩壊したのは確かだった。
「カリンが女王を怒らせて、王城が崩壊しただけさ」
「……それって、もしかして私のせい?」
「それ以外に聞こえた?」
シャスターが意地悪く笑った。
しかし、この少年が本気で文句を言っていないこと、それどころかあの時のカリンと女王の言い合いを楽しんでさえいたことも、今までの付き合いからカリンは分かっていた。
「……ほんと、嫌なやつ」
「えっ、何か言った?」
「ううん、嫌になるほど砂埃が凄いなって」
「そうだね。でも、あの巨大な塊の正体は分かったよ、ほら!」
シェスターの指差した方向をカリンが目で追う。
そして、その塊の姿を見た瞬間、カリンの顔から血の気が引いた。
半壊した王城の中心に巨大な魔物がいたからだ。




