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第四十六話 王の間

 今度こそ、開いた先は廊下ではなく、豪華な部屋が広がっていた。


 ここが王の間なのであろう。

 そして、玉座には先ほど映像で見た男が座っていた。



「城に入ってから色々と大変だったよ、アークス」


「それは申し訳ございませんでした。侵入者用の罠を外しておくのを忘れておりました」


 アークスと呼ばれた男は立ち上がると、シャスターに深々と頭を下げた。


「改めまして、イオ魔法学院の後継者様。私はシュトラ王国で神官長を拝命しておりましたアークス・ヴァニルでございます。「五芒星の後継者」様にこのような田舎に来て頂き、光栄でございます」


 丁寧な挨拶であったが、シャスターは大した感銘を受けることなく、部屋の隅にカリンを降ろしていた。

 王の間全体に柔らかな絨毯が敷かれているので、カリンは気持ち良さそうに寝ている。


「あっ、そうだ。事後報告になるけど、側近のゴーストたちを倒した。知っているとは思うけど」


「部下たちが勝手にしたことです。私の方こそ、命令が行き届かなく申し訳ございません」


 アークスは再び頭を下げる。

 しばらくして頭を上げた時には、片手にうっすらと光る霧状の球を浮かせていた。


「それにしましても、その少女の成長ぶりは凄まじいものがありますね」



 アークスは王都エアトに入ってからの二人の行動をずっと見ていた。そして、カリンが短期間で大幅にレベルアップしていることに驚きを禁じ得なかったのだ。


「当然さ、俺の旅の同行者だからね」


「不手際のお詫びというわけではございませんが、その少女に私の信力を少し分け与えましょう」


 霧状の球はアークスの手から離れると、静かにカリンの胸の中に消えていく。

 すると、柔らかい絨毯の上でスヤスヤと寝ていたカリンが寝息が止まった。


「うーん」


 カリンがゆっくりと目を開ける。

 信力が回復した為、意識が戻ったのだ。


「カリン、大丈夫?」


「うん、大丈夫……」


 カリンは身体を起こすと、周囲を見渡す。まだ少しボォーとしたままだ。


「ここはどこ……あっ!」


 突然、カリンは勢いよく立ち上がった。



「アークス、見つけたわよ! 早くエミリナ女王を解放しなさい!」


 アークスに詰め寄ろうとする。そんな少女にアークスは申し訳なさそうに詫びた。


「少女よ、迷惑をかけてしまい申し訳なかった。しかし、女王を解放することはできないのだ」


「なぜよ?」


「……」


 カリンの詰問にアークスは答えず、再びシャスターに向き合う。


「シャスター様、お願いします。私たちはこれからも死者の森を出ることは致しませんし、今までどおり静かに暮らしていきます。ですから、お二人には森から出て行って頂きたいのです」


「なにを勝手なことを!」


 カリンがアークスに詰め寄るが、シャスターがそれを止める


「勝手なことじゃないよ、カリン」


「えっ!?」


 そもそもこの森はシュトラ王国であり、アークスたちの国なのだ。内紛で色々とあったとしても、それは彼らの問題であり、部外者であるシャスターたちが干渉して良い問題ではない。


「ただし、俺たちはガイムに託されて……エミリナ女王を助けるためにここに来た。全くの部外者というわけでもない。だから、もう少し詳しく理由を話してもらえないかな?」


「……分かりました。ただ、私はすぐに瞑想に戻らなくてはなりません。あまり時間は取れませんが」


 手下のゴーストたちが、「アークス様は瞑想しているのでなかなか会えない」と話していたことをカリンは思い出した。

 この状況で瞑想なんてと思ったが、何か理由があるのかもしれない。


 そんなカリンの怪訝そうな表情に気付いてか、アークスは静かに微笑んだ。


「少女よ、生まれた国はどこだ?」


「隣のレーシング王国よ」


「それでは、私の瞑想はレーシング王国のためだ。だからこそ、この森から出て行って頂きたいのだ」


 アークスは頭を下げたが、カリンはますます意味が分からない。なぜ瞑想がレーシング王国のためなのか。

 そして、それ以上にカリンにはアークスに対して不思議に感じていることがあった。

 アークスはエミリナ女王を拐ってシュトラ王国を滅ぼした極悪人のはずだ。

 しかし、話をしているとどうしてもアークスが極悪人には思えないのだ。

 もちろん、ガイムの話を疑っているわけではない。

 ただ、そこにはまだ語られていない、もしかしたらガイムさえも知らない、何かがあるのかもしれない。


 そんな印象を持ったカリンは、チラッとシャスターを見た。おそらくシャスターも同じ印象を持ったに違いない。だから、話し合いで真実を聞き出そうとしているのだろう。

 もちろん、用心に越したことはない。カリンはいつでも防御壁プロテクション・バリアを張れる準備をした。


「それじゃ、もう一つ聞きたいことがあるけど?」


「何でしょうか」


魂眠(こんみん)を治す方法を知っている?」


 シャスターはフローレの魂眠の解決方法について尋ねた。元々、死者の森に入ったのは、魂眠について知る者を探すためだ。

 そして、魂眠を知っている可能性が高い者が、目の前にいるアークスなのだ。


「魂眠ですか」


 シャスターの質問にアークスは軽く目を閉じて記憶を探す。


「そういえば……」


「お前が城に人間を招き入れるとはの。アークス」


 突然、アークスの言葉を遮って女性の声が響き渡った。途端にアークスの表情に緊張が走る。


「お目覚めとは知らずに、申し訳ございません」


 目の前に現れた女性に向かって、アークスが片膝を折って頭を下げる。

 アークスにそんなことをさせられる女性は、ただ一人しかいない。

 そして、この女性をカリンもシャスターも昨夜見ている。


 現れた女性、それはエミリナ女王だった。



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