表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/810

第四十話 三つの真実  &(登場人物紹介)

 シャスターは何事もなかったかのように緊張感なく話しかける。


「いやー、それにしても、あんたたちがペラペラと話してくれたおかげで、かなり色々なことが分かったよ。ありがとう。お礼に俺も三つのことを教えてあげるよ」


「……なんのことだ?」


 ムントが重い口を開く。


「一つ目、一万ものスケルトンを火炎の竜巻(ファイア・トルネード)で倒した後、あんたたちが現れることは想定内だったということ」


「なんだと!?」


「当初、あんたたちは俺の実力を測りかねていた。村で二百体ものアンデッドを倒した魔法使い(ウィザード)の実力は危険だと思っていたはずだ。だから、王都に到着した俺と直接戦おうとはせずに、一万のスケルトンを放った。さすがに強い魔法使い(ウィザード)でも、一万のスケルトンの前では敵わないと考えて」


「……」


「しかし、予想に反して、俺が一万ものスケルトンを全て倒してしまった。あんたたちは慌てたが、俺が魔力を使い果たしたことを知ると、今度は余裕で倒せると思って俺たちの前に現れた。どう、だいたい当たっているでしょ?」


 シャスターの問い掛けに、四人は答えない。

 答えられない。



「つまり、当たっているということだね」


「……それがどうした。人海戦術で戦うことは兵法の常識だ。別に卑怯なことはしていない」


 やっとムントが反撃したが、シャスターは冷静だった。


「別に卑怯なんて思っていないけど。でも、自分から言うっていうことは、心の中でそう思っているんじゃない?」


「くっ……」


「まぁ、いいや。それじゃ二つ目」


 返答に詰まったムントを無視して、シャスターは話を続ける。


「あんたたちは自分たちを上級アンデッドと思っているようだけど、あんたたちはゴーストの中でも下位(レッサー)ゴーストという種族だ。残念ながら上級アンデッドじゃないよ」


「なんだと!?」


 突然のことにゴーストたちは驚く。


「もう少し詳しく説明すると、アンデッドの系譜の中では、スケルトンもゾンビも下位(レッサー)ゴーストも全て下級のアンデッド。その中で、あんたたち下位(レッサー)ゴーストがわずかに上位に位置しているだけ」


「馬鹿な! 我々ゴーストはスケルトンなどよりもはるかに上だ」


「もちろん、ゴーストでも上位(グレーター)ゴーストなどはアンデッドの中でも上級アンデッドだ。でも、あんたたちは違う」


「……」


「そもそも、あんたたちはゴーストなのに、壁や岩石も通り抜けできないし、疲れも感じる。人間の特徴を多く残したままだ。下位(レッサー)ゴーストそのものだよ」


 話しながらシャスターはガイムを思い出していた。

 自分たちが下位(レッサー)ゴーストだと、ガイムは知っていたようだった。

 洞窟の秘密通路が落石で塞がれた時、カリンに「なぜ通り抜けできないのか」と質問されたガイムは、その事実を二人に話そうとしていた。

 しかし、その直後、ルクとムントの裏切り者たちが現れた為、話すことができなかったのだ。



「しかし、我々は自我がある!」


 ムントは自分たちが下位(レッサー)ゴーストであることを全力で否定するかのように叫んだ。

 しかし、シャスターは苦笑するだけだ。


「自我があるかどうかなんて大した問題じゃない。強さなんだよ」


「何を言っている! 我々は強い。現に貴様の魔法さえも効かな……」


「三つ目、その魔法の件だけどさ」


 ムントの話しを遮って、シャスターは続けた。


「あんたたちに放った火炎の竜巻(ファイア・トルネード)はさ、ワザとあんたたちに効かない程度に魔力をギリギリに抑えたんだよね」


「なんだと……」


「それに、本当は俺、魔力も全然使い切っていないんだ」


「なっ!?」


 あまりにも衝撃な発言が続き、ムントはそれ以上言葉が出ない。



「貴様の火炎の竜巻(ファイア・トルネード)が我々に効かなかったからといって、適当な嘘をつくな!」


 ムントの代わりに、魔法使い(ウィザード)のビイトが叫ぶ。


「それに、一万ものアンデッドに火炎の竜巻(ファイア・トルネード)を放っておきながら、魔力を使い果たしていないはずがない。ほとんどの火炎の竜巻(ファイア・トルネード)はマジックアイテムを使ってストックしていたものだろうが、最初の二発は貴様自身が放ったもののはずだ!」


 ビイトとしては、この少年が自分よりも魔法使い(ウィザード)としての実力があると認めたくなかったのだ。


 そんなビイトに、シャスターはワザとらしくため息を吐く。


「だから、さっきも言ったけど、全て俺が放った魔法なんだけど」


「そんなことがあり得るはずがない! 火炎の竜巻(ファイア・トルネード)を何十も連続して放つことなどできるはずがない」


 何十もの火炎の竜巻(ファイア・トルネード)を放ち、魔力も残っている、そんな人間がいるはずがない。

 万が一、それが本当なら、この少年は化け物だ。



「ビイトが言う通り、貴様の話は嘘だ。なぜなら、もし貴様が本当にまだ魔力が残っているのなら、わざわざ我々に魔力を使い切ったなどと、嘘をつく必要はないからだ。それに我々に効かない火炎の竜巻(ファイア・トルネード)だって放つ意味がない。すぐに我々を消滅させれば、それで済んだはずだ」


 冷静にムントが推測した。

 確かにそのとおりだ。ビイトも他の二人もムントの推測に納得し安堵したが、それもすぐに崩れ去った。


「魔力を使い切ったって嘘をついた理由……それは敵の情報を得るにはその敵から話を聞くのが一番手っ取り早いからさ」


「!?」


 意味が分からない四人にもう少し丁寧に説明する。


「魔力を使い切った俺を見て、あんたたちは気が緩んだ。だから口も軽くなる。案の定、アークスのいる場所を教えてくれた。大広間の二階の通路先にある王の間にいるんだっけ? 城の中を探す手間が省けたよ」


「あっ!」


 自分たちの迂闊さに気付いたムントが手で口を押さえる。しかし、もう遅い。


「さらに、火炎の竜巻(ファイア・トルネード)が自分たちに効かないことが分かると、口の軽さがエスカレートした。女王が魔力を分け与えてくれたって話、それって話しちゃいけない秘密なんじゃない?」


 ゴーストたちは自分たちの失敗にやっと気付いた。

 青白い表情がさらに青くなる。

 無能ならいざ知らず、アークスに有害だと思われてしまったら、消されてしまうのは明白だからだ。



「まぁ、一つ残念だったことといえば、この場に現れたのが格下のあんたたちだけで、肝心のアークス自身が現れなかったということぐらいかな。魔力を使い果たして動けなくなった演技までしていたのに」


「魔力がなくなったって、演技だったの?」


 ずっと黙って四人とのやりとりを聞いていたカリンだったが、ついに我慢できなくなって話に割り込んできた。

 カリンの突然の不意打ちに、シャスターは慌てた。

 しかも、その表情を見るとかなり怒っていることが一目瞭然だ。


「あ、うん……あの程度の魔法じゃ、俺の魔力は無くならないから安心して」


 シャスターが愛想笑いをする。


 一万のアンデッドを消し去った魔法を「あの程度」と言いのけてしまうことに驚きを禁じ得なかったが、今は話題が違う。


「そういう問題じゃないでしょ! 私だけにも教えておいてくれればいいじゃない!」


 本気で心配したから、自らを犠牲にしてまでシャスターを助けようとしたのだ。

 しかも、その後「勇気と無謀は違うから」などと、シャスターは偉そうに説教までしていたのだ。


 カリンが怒る気持ちはもっともだ。



「それについては本当にごめん。カリンを信じていなかったわけじゃないけど、ただ……」


「ただ?」


「カリンって演技が下手そうだからさ。嘘だとバレてしまったら元も子もないし」


「あんたね!」


 カリンがさらに詰め寄るが、その光景を見ていたゴーストたちはチャンスだと思ったのだろう。

 一斉に城に向かって駆け出した。

 逃げ出したのだ。



「あっ、待て!」


 カリンはシャスターとの一方的な言い争いをしていたせいで、彼らが逃げることに気付くのが遅れた。

 慌てて追いかけようとしたが、駆け出す前にシャスターがカリンの腕を掴む。


「シャスター、止めないで! はやく追いかけないと!」


 手を振りほどこうとするカリンの腕をさらにシャスターは強く握りしめた。


「もう遅い」


「え、なにが?」


 その直後だった。


 二人の周辺からガヤガヤとした騒音が聞こえてくる。


 その音は徐々に大きくなっていったが、二人が立っている広場の前でパタリと止まった。


 その光景にカリンは息を呑む。



「な、な、何よ、これ……」


 それ以上、言葉が続かなかった。


 広場の周りに数えきれないほどのアンデッドが現れたからだった。

 広場は先ほどの火炎の竜巻(ファイア・トルネード)が暴れ回ったせいで、はるか先の建物まで崩れ落ちていて見渡しが良い。

 しかし、だからこそアンデッドの数も良く分かる。広場を囲むようにして、びっしりとアンデッドがひしめき合ってるのだ。


 先ほどの一万のアンデッドも桁違いの数だと思っていたが、今回はそれさえも軽く凌駕している。


 見渡す限りのアンデッドの大群。


 その光景をカリンは呆然と眺めていた。


第二章

これまでの主要な登場人物


シャスター

伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者。

魂眠(こんみん)に陥ってしまったフローレを治す方法を探すため、カリンと一緒に「死者の森」に赴いた。

ゴーストのガイムを失った後はカリンと二人で王都エアトに向かったが、ガイムを裏切ったルクやムントのゴーストたちに襲われる。



カリン

神聖魔法の使い手(ホーリーユーザー)であり、簡単な神聖魔法を使うことができる。

魂眠(こんみん)に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。

ゴーストのガイムを失った後はシャスターと二人で王都エアトに向かったが、ガイムを裏切ったルクやムントのゴーストたちに襲われる。



星華

シャスターの守護者(ガーディアン)

稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。

「死者の森」では、シャスターたちと別行動をして探索をしていた。

一旦合流したが、「死者の森」が急速に拡大する原因となったマジックアイテム「魔力の木」を切り倒す為に、再び単独行動をしている。



ガイム

「死者の森」に以前あったシュトラ王国の騎士団長。

百年前、神官長アークスが反逆を起こし、エミリナ女王を監禁したが、その時アークスが王国全土にばら撒いた「アンデッドになる薬」により、ゴーストになってしまった。

百年もの間、エミリナ女王を助けるべく模索していた。

シャスターと共に女王を助けるべく王都へ向かう途中、エミリナ女王とガイムしか知らないはずの秘密の洞窟通路で、裏切り者のルク、ムントたちの襲撃に会い、志半ばで消滅してしまった。



アークス

シュトラ王国神官長。若くして神官長になった天才。

百年前、単独で反乱を起こしてエミリナ女王を監禁し、王国全土をアンデッドの徘徊する「死者の森」へと変貌させた張本人。



エミリナ女王

シュトラ王国の若き女王。

百年前、神官長アークスの裏切りによって監禁される。

現在の状況は不明だが、満月の夜にシャスターとカリンの前に映像として現れ、二人に助けを求めた。



ルク、ムント

シュトラ王国騎士団の分団長。

百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動していたが、ガイムのやり方に反論し、ナバスの弟子の魔法使い(ウィザード)二人と共に四人で離反。

その後アークスの部下となり、卑劣な奇襲でガイム以外のゴーストたちを消滅させた。

さらに、ガイムがシャスターたちと共にエミリナ女王を助けに向かう道中、秘密の洞窟通路でガイムを襲い消滅させた。

王都エアトでもシャスターとカリンを襲うが……。



●過去編


レアス

シュトラ王国騎士団の副騎士団長。ガイムの腹心。

百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動するが、部下だったルク、ムントたちの裏切りにあい消滅。



ナバス

シュトラ王国の宮廷魔術師。

百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動するが、部下の裏切りにあい消滅。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ