第三十八話 悲しみの覚悟
獲物を目の前にして、四人は笑みを浮かべている。
勝者の余裕なのだろう。ルクが聞いてもいないことを話し出す。
「俺たちはエミリナ女王からも力を分けてもらっているのだ」
「エミリナ女王から力を?」
意味が分からないカリンが聞き直すと、ルクはさらに流暢に話し出した。
「そうだ。エミリナ女王は不思議な魔力を持っていて、俺たちにもその力を分けてくださったのだ」
「なるほど、そのためか」とカリンに肩を借りながら、シャスターは少しだけ理解した。
なぜなら、四人の身体から彼らとは違う異質の魔力を感じていたからだ。それが女王の魔力を分け与えられたものだとしたら納得がいく。
しかし、そうなるとさらに疑問が一つ出てくるのだ。なぜなら、その魔力は……。
「嘘よ!」
シャスターの考えを遮って、カリンが叫んだ。
カリンとしてはエミリナ女王が悪い人間だとは到底思えないからだ。
「何度も言っているだろう? アークス様とエミリナ女王は親密な関係なのさ。だからこそ、秘密の通路を教えてもらったことでガイムを待ち伏せすることもできた」
カリンを嘲笑しているルクの言葉には偽りがないとシャスターは感じ取った。
しかし、昨夜、月の光で映し出されたエミリナ女王の言葉にも偽りがないと思う。
どちらかが本当で、どちらかが嘘なのか。
「あるいは両方とも……」
そこで再びシャスターの思考が止まった。
突然ゴーストの一人、ビイトが魔法を放ったからだ。
慌ててカリンが防御壁を張って防ぐ。
「ビイト、勝手なことをするな!」
「ふん、俺の勝手だ。好きにさせてもらう」
「てめえ、いい加減にしろ!」
ゴーストたちは二人を殺すことで言い争っている。
つまり、シャスターとカリンが死ぬことは決定事項なのだ。
防御壁が、一時凌ぎなのはよく分かっている。本気を出したゴーストたちに敵うはずがない。
こうなればやる事は一つだ。
カリンは覚悟を決めた。
「体力回復!」
カリンはシャスターに回復呪文をかけた。これで少しは体力が回復して歩けるようになるはずだ。
さらにカリンは腰につけていた短剣を握りしめた。レーシング王国を出立する時、ラウスから貰った魔法の剣だ。
「この魔法の短剣なら、ゴーストにも大きなダメージを当えることができる。私が奴らを引きつけている間に、シャスターは逃げて」
シャスターだけに聞こえるように小声で伝えたカリンの手が震えている。
剣を持って戦うことなど初めての経験だからだ。
そして、最後の経験になることもカリンには分かっていた。
「絶対にアークスを倒して、エミリナ女王を救って! それと必ずフローレ姉さんを目覚めさせてね」
カリンは無理に笑顔を作った。
「希望の光はあなただけなの。あとは頼むわよ!」
カリンは防御壁を解くと、ゴーストたちに向かって一気に駆け出した。
「あなたたちは私が倒す!」
内輪揉めしていたゴーストたちはカリンの突然の行動に驚く。
しかし、それも少しの間だけだった。
突進してくるカリンの前に、ゴーストのひとりが立ちはだかる。
ルクだ。
当然ながら、ルクとカリンとでは比較にならないほどの剣技の実力差がある。
いくら魔法の剣を持っていても、当たらなければ意味がないのだ。
「死に急ぐとは、馬鹿な小娘だ」
ルクはカリンの突進を軽く避けると、横切る際に剣をカリンの頭上に振り落とす。
小娘が頭から血を流してあっけなく死ぬ……そう確信してニヤけたルクだった。
しかし、剣を振り落とした瞬間、頭蓋骨とは違う感触が手に伝わる。
「なんだ!?」
それは金属の感触だった。
小娘が偶然にも短剣で防いだ、そう思ったルクは振り向き驚愕した。
「貴様、いつの間に……」
短剣で防いでいたのはカリンではなく、シャスターだったからだ。




