表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/810

第三十七話 四人の実力

 魔法使い(ウィザード)のゴーストが放った風の魔法がシャスターを切り刻もうとする。

 その直前。


防御壁プロテクション・バリア!」


 シャスターの前に半透明の膜が現れると、ゴーストが放った疾風の刃(ウィンド・カッター)は砕け散ってしまった。


 唱えたのはカリンだった。

 シャスターは自分が助かったことよりも、カリンの神聖魔法に驚く。


「カリン、信力は使い果たしたはずじゃ?」


「うん。そう思っていたけど、とっさに信力を振り絞ったらバリアが張れちゃった。しかも、身体中から新たな信力がみなぎっている感じがする」


 シャスター以上に当の本人が驚いている。

 ここにきて、カリンは自分の限界を超えたのだ。

 先ほどまで絶体絶命の中、必死になって強度の違う防御壁プロテクション・バリアを何重にも張り、信力を最大限に使っていた結果、カリンは神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)としてレベルアップしたのだ。



「クソ、忌々しい小娘め!」


 ビイトは悔しがるが、もう一人の魔法使い(ウィザード)のゴーストは苦笑した。


「こいつらを過小評価するからだ。俺は全力でいくぞ。疾風の嵐(ウィンド・ストーム)!」


 今度は暴風が二人に襲い掛かった。風の威力は先程の疾風の刃(ウィンド・カッター)の比ではなかった。

 まるで疾風の刃(ウィンド・カッター)が束になって襲い掛かってくるような魔法に、しばらく耐えていたカリンの防御壁プロテクション・バリアだったが、さすがに限界だった。

 バリアに亀裂が入り始めると、徐々に亀裂が大きくなり、ついにバリアは粉々に砕け散った。

 その勢いでシャスターとカリンも後方に吹き飛ばされる。


「きゃー!」


 高く飛ばされたカリンは地面に叩き落とされる、と思ったが、ちょうどシャスターがカリンの真後ろにいたお陰で全くの無傷だった。しかし、代わりにシャスターは地面とカリンに挟まれた格好となってしまった。



「シャスター!」


 しかし、返答はない。気を失ってしまったようだ。


「あははは。お前たちもここまでのようだな。あの世でガイムの馬鹿者に謝罪するがよい」


「馬鹿者とは何よ! ガイムさんは立派な騎士よ。裏切り者はあなたたちでしょ!」


 カリンが怒って言い返すが、ルクは話しを続けた。


「もう一度言うが、ガイムは馬鹿者だ。ゴーストとなって得られた永遠の命を楽しめば良いものを。本当に馬鹿な奴だ」


「あなたたちは身体だけじゃなく、心の底から腐っているのね」


 これには冷笑していたルクの顔色が変わった。


「言わせておけば、小娘! 生意気にも程があるぞ!」


 剣を抜いたルクがカリンに襲い掛かろうとする。


 その時、突然カリンの後ろから人影が動いた。


火炎の竜巻(ファイア・トルネード)


 目の前に巨大な炎の竜巻が現れる。それを見たルクの攻撃が止まった。

 シャスターが魔法を放ったのだ。


「シャスター! 意識が戻ったのね」


「ああ。なんとかね」


「それに魔力も!」


「いいや、これは俺の最後の魔力だ。これで駄目なら終わりだ」


 しかし、心配する必要はなかった。

 突然の炎に、カリンに襲い掛かろうとしていたルクはもちろん、他の三人も逃げることができずに、そのまま炎の中に飲み込まれたからだ。



「やったわね!」


 カリンが喜びの声を上げる。

 一万ものアンデッドを消し去った炎の竜巻だ。いくらスケルトンよりも強いとはいえ、たった四人のゴーストを消すことなど造作も無いだろう。

 これで、ガイムの敵討ちができた。

 カリンはシャスターに肩を貸しながら笑顔を向けた。


「あとは城に乗り込むだけね」


 しかし、シャスターの表情は曇っている。

 魔力が無くなり疲れ切っているのだと思ったが、そうではなかった。


「いや、まだだ」


「ん、どうしたの?」


「四人は無傷だ」


「まさか!?」


 カリンはシャスターの言葉が信じられなかった。あの炎の中で生きていけるはずがない。

 しかし、まだ燃えている炎の竜巻の中から四つの影が現れると、シャスターの言葉を信じるしかなかった。


「な、なんで、無事なの?」


 カリンは驚きのあまり、声が上ずっている。


「やはり、この魔法は魔法レベル十から習得できる火炎の竜巻(ファイア・トルネード)だな。扱える者に出会えるのは久しぶりだ」


「だからといって、先ほど一万ものスケルトンを消滅させた火炎の竜巻(ファイア・トルネード)のあの数はあり得ない。おそらくは予め魔法を貯めておくことができるマジックアイテムでも使ったのだろう」


「ああ、確かにそれしか方法はない」


 二人の魔法使い(ウィザード)の会話を聞いて、カリンは愕然とした。

 炎の中で、ゴーストたちはシャスターの実力を冷静に分析していた。つまり余裕がある証拠だ。


 四人は炎の中から出てきた。それと同時に炎の竜巻も消えた。



「見事な火炎の竜巻(ファイア・トルネード)だ。しかし、我々のような上級アンデッドには痛くも痒くもないな」


 再び嘲笑が響き渡る。

 カリンがゴーストたちを睨み付けるが、彼らの言葉が事実だから何も言い返せない。

 シャスターの魔法はスケルトンやゾンビを倒すことはできても、上級アンデッドには効かなかったのだ。しかも、シャスターは魔力を完全に使い果たしたようで動くこともままならない。


 そんな状況の中、カリンの肩に寄りかかっていたシャスターが口を開いた。


「俺の火炎の竜巻(ファイア・トルネード)が効かないとは……強い」


「わははは。やっと俺たちの強さが分かったか。俺たちはこの百年の間、ずっと鍛錬していたのだ」


 気を良くしたルクが高笑いする。

 人間とは違い、彼らは歳を取ることがない。しかも死んだのは一番体力のある青年期から壮年期にかけての時だ。

 さらに彼らはシュトラ王国で騎士や魔法使い(ウィザード)として実力者だった。だからこそ、自我を保ったままアンデッドになれたのだ。


 そんな四人が不死になったのだ。実力は当時よりも格段に上がっていて当然だ。

 いくらシャスターが強いとはいえ、たかがまだ十年ちょっとしか魔法の修行をしていない。百年以上鍛錬している彼らに敵うはずがないのは明白だった。


「強すぎる……」


 いつの間にか、カリンの額からは滝の様に汗が流れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ