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第二十七話 約束のペンダント

「ガイムさん!」


 カリンが悲痛な声を上げる。

 するとガイムの目が少しだけ開いた。

 意識が戻ったのだ。



「ガイムさん! しっかりして!」


 カリンの必死な声にガイムは微笑んだ。


「カリンさん……どうやら私はここでお別れのようです」


「ガイムさん、大丈夫だから! だから意識をしっかり持って!」


 しかし、カリンにもガイムとの別れは分かっていた。

 身体も意識も消えかかっているガイムには、気力回復(エナジー・リカバー)も効かない。

 もうガイムを助ける方法はないのだ。



「シャスター様、勝手なお願いだとは重々承知していますが、エミリナ女王をお救いください。お願いします」


 自分のことは顧みずに、シャスターに頭を下げる。


「どうかエミリナ女王を……そしてシュトラ王国の民に安寧を」


 ガイムは必死になって懇願する。



「分かった。約束は守る」


 シャスターの言葉を聞いて、ガイムは安堵したようだった。二人に向けて笑顔を見せる。


「最後にこれを……」


 ガイムは自分の胸から何かを取り出すと、消えかけている右手で思いっきり投げた。

 それは、塞いでいる岩石の隙間を通り抜け、カリンの足元に落ちた。


「これは!」


「エミリナ女王から……預かったペンダントを……女王にお返しして欲しいの……です」


 以前、ガイムに見せてもらったシュトラ王家に代々伝わるペンダントだった。王家の者が生きている限り、輝き続けるマジックアイテムだ。

 そして、ガイムの記録映像で見た、エミリナ女王がガイムに託したペンダントでもあった。


 青く透明な石がはめられたペンダントは、今も薄く光り輝いている。



「きっと返すわ!」


「ありがとう……ござい……ます」


 ガイムの身体は消えかかっている。もう別れの時間だ。


「どうか……エミリナ……女王を……」


 安堵した表情を残してガイムは消え去った。




「ガイムさん! ガイムさん! ガイムさん!!」



 消えたガイムを見届けてカリンは泣きじゃくる。


 カリンのような少女にも優しく接してくれたガイムは、とても気持ちがいい騎士だった。

 そして、エミリナ女王を助け出すために百年間もずっと頑張ってきた忠義の騎士でもあった。


 だからこそ、こんなところで消えてしまっていいはずがなかった。




 倒れ込むように長い時間泣いていたカリンだったが、しばらく経つとその泣き声も止んだ。

 そして立ち上がった時、彼女の表情には強い意志がみなぎっていた。


「アークス、絶対に許さないから! ガイムさんの意志を継いで、私たちが必ずエミリナ女王を助けてみせる!」


 大声で宣戦布告をしたカリンはすぐに行動に移す。


「シャスター、まずは洞窟を戻って王城エアトに向かおう!」


 涙を拭いたカリンは強い決意でシャスターを見つめた。



 そんなカリンをシャスターもまた深紅の瞳で見つめていた。

 カリンは良くも悪くも、正義感と責任感が人一倍強い少女なのだ。そのことはカリンと出会った時から感じていた。


 フェルドの町を守り抜いた正義感と責任感。

 オイト王国に磔にされた時でも自分の信念を曲げなかった。

 滅んだフェルドの人々の弔いを願い出た時もそうだ。

 そして、この旅に一緒に出掛ける理由もだ。


 そもそもカリンは旅についてくる必要などないのだ。フローレの魂眠(こんみん)を治す方法を見つける旅はシャスターに任して、自分はラウス国王の保護の下で悠々暮らすこともできたのだ。

 しかし、カリンの正義感と責任感はそれを許さなかった。

 自らを犠牲にして助けてくれたフローレをシャスターだけに任せることは、フローレにもシャスターにも失礼なことだと思っていたからだ。

 だからこそ、死者の森にシャスターだけで入ろうとした時も、同行を願い出た。

 森を迂回してアイヤール王国で待ち合わせする方が安全なのに、カリンは森に入る危険な方を選択したのだ。


 そして、今回のガイムとの約束も同じだ。

 正義のためなら、責任を果たすためなら、危険を顧みない。それがカリンなのだ。


 しかし、だからといってシャスターはそれが嫌だとは思っていなかった。

 むしろ自分が持っていないからなのか、自分の気持ちのままに行動できるカリンの向こう見ずな性格が、清々しいほどに心地良く感じていた。



「そうだな、ガイムの仇を取らないと」


 シャスターも、女王の身を案じていたガイムとの約束は果たすと決めていた。


「そうだ、これシャスターが預かっておいて」


 形見のペンダントをカリンから渡されたシャスターは、手に取った瞬間ペンダントに違和感を覚えた。


「これは?」


「どうしたの?」


 不思議そうに見つめるカリンに、シャスターは笑った。


「あ、いや……高価そうなペンダントだなって思って」


「エミリアナ女王に返すのだから取っちゃ駄目よ」


「もちろん、エミリナ女王にしっかりと返すよ。それがガイムの願いだからね」



「ガイムさん必ず約束は守るから」


 二人は消えたガイムに向かって手を合わせると、約束を果たすことを誓ってその場を後にした。



皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


第一章から、この回で百話となりました。

読んで頂いている皆さまのおかげです。ありがとうございます!


そして、この回でついにガイムが消えてしまいました。

ガイムとカリンはガイムの仇がとれるのでしょうか。

第二章はまだまだ続きます。

楽しみにして頂ければ、嬉しいです。


これからも宜しくお願いします!

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