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クラウドナイン

作者: 高槻馨

SVB用にパパッと書いたやつです。


ひたすらに意味分かんない文章が書きたかったので。


ベガは美しかった。


決して、美人というわけではない。


さして鼻も高くない。二重ではあるが、目も取り立てて大きくはない。


そばかすだってある。くすんだミルクのような肌に、ざわざわと座るように張り付いている。


身長だってそこまで大きくないし、かと言って小さいわけでもない。


スタイルだって良いわけじゃない。


でもベガは美しいのだ。


ベガは酒飲みだ。


俗に言う、呑兵衛だ。


飲まない人間から見たら、多分アル中だ。


僕から見れば、ベガは美しかった。


酒飲みは皆、美しいのだ。


日々の鬱屈、ストレス、愚痴、暗鬱。全て酒と煙草で飲み下し、常連客とどうでもいい無駄なお喋りをする。


周りから理解されない苦悩と不安の中で、宙ぶらりんのまま、生きている。


宙ぶらりんのまま、揺れている。


宙ぶらりんのまま、死んだ目をして、それでも歓びを求め、生きている。


そんな酒飲みは、美しいのだ。


そんなベガは、美しいのだ。


酒は、法律に触れない。酔って暴れでもしない限り、触れない。


国は呑兵衛には無関心だ。それどころか、国の責任者は皆呑兵衛だ。


自分の首を絞めることになりかねないので、法律は酒に触れようとしないのだ。


禁酒法など、意味は無い。


それで犯罪が減るなど、暴力が減るなど、勘違いも甚だしい。


ベガが酒を飲む姿が好きだ。


日本酒。ビール。ハイボール。


ベガは男らしい酒を飲む。朝、コテで巻いた黒髪は夜になって潰れて崩れ、その日の疲労を表しているように見える。


その日によってベガは飲む酒を変える。


ベガは滅多に洋酒は飲まない。ベガは一気に酔うのを嫌う。


「じっくりじんわり、じりじり」酔いたいんだ、と、いつか呂律の回らない口で熱く語っていた。


酔えば酔うほど、ベガの美しさは増した。


頬はべにいろに染まり、舌は回転数を落とし、それでもお喋りは止まらない。


カッターシャツの胸元がはだけ、黒のスーツには酒が飛び散り、それでもベガは酒を浴びるように飲んだ。


不安と鬱屈が溜まれば溜まるほど、ベガは酒を浴びるように飲んだ。


酒を浴びるように飲んだベガは、美しかった。


じっくりじんわり、じりじり酔ったら、僕は頃合いを見て連れ帰る。


子供のように丸くなったベガを背中に背負い、腕に鞄をかけ、ポケットに財布とスマホを無理矢理押し込む。


家に帰ったら、ベガはシャワーを浴びて、湯船に浸かって、また飲んで、寝る。


オフィスレディの疲労困憊は、僕には分からない。


家に居て、ただ座って、無機質なキーボードをひたすら叩いて、戯言を打ちこんで、たったそれだけで金をもらっている僕には、絶対に分からない。


この先もずっと、分からない。


それでいい。


酔ったベガを介抱するのが、僕の役目だ。


自分の仕事以外に初めて僕が得た、無給料の仕事だ。


僕の本職よりも、過去のバイトよりも、副業よりも、兼業よりも、やりがいがあって、楽しくて、幸せな、僕だけの仕事だ。


お金はもらえないし、ベガ以外の人間から感謝されることはなくても、僕はこの仕事が好きだった。


とにかくとにかく、好きだった。


呂律の回っていない舌を一生懸命に動かし、今日の分の愚痴を耳に擦り込む。


小さな口が耳に繰り返しぶつかるのは、いくらかくすぐったかった。


自分の耳が赤く染まる様を思い浮かべながら、ベガの話に不定期に相槌を打つ。


ベガの服はよく滑る。


道中何度も背負い直さなければならないほど、ベガの服はよく滑る。


安物だからか知らないが、とにかく滑る。


ベガはスカートが嫌いだ。


柔らかい色の服も嫌いだ。


「舐められるから」嫌いだ。


ベガはいつも、黒のパンツスーツを履く。


寸胴な身体には不釣り合いだったが、やはり、美しかった。


黄金比なんてものを超越した、僕のベガだ。


一時的でしかない、僕の、僕のベガだ。


ベガを連れ帰ってソファに寝させると、30秒後には寝息を立ててしまう。


だから僕は30秒以内に手を洗い、うがいをし、荷物を置いてベガを抱き上げる。


帰りとは違って、ベガの顔をよく見られる、所謂お姫様抱っこだ。


右手で首を支え、左手は膝裏に滑り込ませて抱え上げる。


そうすると必ずベガは、何かよく分からない事を吐き出しながら僕の胸に顔を擦り付ける。


すんすん、と小さく鼻を鳴らして僕の匂いをかぐ。


ベガのそんな姿が、愛おしかった。


ひたすらに、愛おしかった。


ベガは風呂に入ると酔いが覚める。目が覚める。意識がはっきりする。酔いが覚めると、お喋りの数は減る。


お喋りの数が減ると、僕を見つめる回数が増える。


2秒以上見つめ合ったら、僕はベガにキスを落とす。


それだけだ。


僕が飴を口に入れると、ベガは「頂戴」とねだる。


僕がもうひとつ袋から出してやると、不服そうな顔をする。


僕は口を開け、舌の上に飴を乗せ、そのままベガに突き出す。


するとベガは満足そうに、飴を舌で受け止め、舐め始める。


それはそれは幸せそうな笑顔で、にっこり笑って、見せつけるようにねっとり舐める。


粘ついたグレープが舌に残った。


今まで食べてきたどんなものの後味よりも、甘くて、ほろ苦くて、癖が残る味だった。


ある夜、ベガは僕との真っ当な関係を迫った。


僕は断った。


当たり前だった。


須く断った。


ベガはただの、ただの友達だった。


同じ屋根の下で暮らし、温もりを求められれば身体を重ね、何の価値もない愛の言葉を囁き合う、ただの友達だった。


ベガは真実の愛を知らない。


真実の愛を知らない者は、安安と真実の愛を誓うべきではない。


ベガは真実の愛を見つけるべきなのだ。


所詮友達の間にそんなものを求めては、いけないのだ。


泣きながら必死に迫ってくるベガは、変わらず美しかった。


大粒の涙を堪え、えずきながら、しゃくり上げながら話すベガは、美しかった。


僕が断りの返事を入れた後、ベガは大量に酒を買ってきた。


コンビニとスーパーと酒屋を巡り、大量に酒を買ってきた。それを全部一晩で、一人で、何本も、浴びるように飲んだ。


日本酒に、ワンカップに、鬼殺しに、缶ビールに、瓶ビールに、珍しく洋酒も買って来た。


ウォッカ、バーボン、ジン、ラム。


絶対に飲み切らないであろう量を、腕いっぱいに抱えて、帰って来た。


狂ったように酒を飲むベガは、美しかった。


泣きながらひたすらにコップを口に運ぶベガは、美しかった。


ベガは僕と一緒に風呂に入るのを好んだ。


背中を流し合い、お湯を掛け合い、たまに水を出して悪戯に精を出した。


風呂場に大量の子供向けおもちゃを持ち込み、小一時間一緒に遊んだ。


浴室の壁はクレヨンの落書きで埋め尽くされた。


一面は虹色に染まり、一面は文字で埋め尽くされ、また一面は、もはや何があったか分からなくなった。


子供のような字でお互いの名前を書き合い、くだらない冗談を言い合い、小学生レベルの下ネタで盛り上がった。


やがてシャンプーは大量のおもちゃに囲まれ、居場所を失った。


僕が頭を洗ってやると、ベガは気持ちよさそうに目を細めた。


僕が頭上から美容師の真似をすると、ベガは決まって「ない」と答えた。


ベガは風呂場でも、美味しそうに日本酒を飲んだ。


湯船に徳利とお猪口が乗った御盆を浮かべ、僕と会話を交わしながらお猪口を口に運んだ。


それはそれは美味しそうに、幸せそうに飲んだ。


濡れた髪を頭の天辺でまとめていた。


百均のワニクリップには収まり切らず、あちこちから濡れた毛束がはみ出している。


そんなだらしない姿も、愛おしかった。


次の日が休日の夜は、ベガは必ず僕の温もりを求めた。


でも、僕である必要はなかった。


ベガが他の人間を求めたわけではない。それを見てしまったわけでもない。


ただ、僕がベガの為に技術を磨いたところで、ベガの為に体力をつけたところで、ベガは僕と言うフィルターを通して、プリンス・チャーミングを見つめているだけなのだ。


僕のくすんだ、陰った汚い目を通して、見つめているだけなのだ。


ベガの半導体である事が、僕の快楽だった。肉体的には満たされなくとも、心は満たされていた。


社会的には満たされなくとも、感情は満たされていた。


理屈では測れなくとも、己の欲望は悦んだ。


ベガは僕を依代に、必死に己のプリンス・チャーミングを求めた。


僕とは月と鼈の、巨像とアリの、美しく、優しく、親切で、家族想いで、芸術的で、野心的で、自信に溢れ、自分の命を捨てても、社会的に死を受けても、ベガを愛し続けると神に誓った、素敵な、それはそれは素敵な、王子様だ。


それはそれは素敵な、僕では絶対に力不足な、王子様だ。


ベガは肉欲のままに身体を動かし、艶かしく、色っぽく欲望に絡みついた。しがみついた。


ゼリーみたいに潤んだ瞳を僕に向け、何度も何度も僕を求めようとした。


そんなベガが、美しかった。


でも己の欲望のまま行動するわけにはいかなかった。


僕はベガの、ベガのプラネタリウムに過ぎない。


少しの間だけ一緒にいて、少しの間だけ艶っぽい愛を囁いて、少しの間だけ甘い夢を見させる、お粗末なプラネタリウムに、過ぎない。


天井に向けて映し出す、お粗末な、プロジェクター型のプラネタリウムに過ぎない。


それでも僕は、ベガを愛していた。


どんなに苦しくても、どんなに気持ちが昂っても、僕はベガを愛していた。


狂おしいほど、愛していた。


長期休みの夜は、決まって2人で繁華街に出かけた。


決まって同じ居酒屋に行き、決まって同じバーに行き、決まって同じ酒を飲みながら、決まって同じ道を帰った。


必ずその道では同じ黒猫が眠りに付き、通り過ぎて行く駅前の広場には日替わりのアーティストが路上ライブを繰り広げている。


僕は通りすがりに歌声、演奏を聴き、気に入ったら500円だけ入れてベガの元に戻る。


「お待たせ」と言って歩き出すと、ベガは幸せそうに目を細め、僕の肩に頭を預ける。


長い黒髪の束がかけられた窮屈そうな耳からは、ロクシタンの練り香水がほのかに香った。


色気づいた唇を放り出しながら、ベガは決まって口づけをねだる。何も言わずとも、熱っぽい瞳は静かな無線を送信していた。


そうだ。ベガは決まって23時、同じ交差点で、同じ位置で、同じようにキスをせがむ。


僕は冷静を装いながら、もう何百回と見せてきた甘い夢を公演する。観客はベガ、たった1人。演じる俳優も、僕1人。


古く寂れた劇場で、もうすぐ潰れる劇場で、いつか崩れる劇場で、僕はベガに甘い夢を見せる。


僕の公演を見たあとは、ベガは決まって涙を流した。


スイカみたいに丸い、アニメに出てきそうな、綺麗な、澄んだ涙だ。


人魚の涙のように、冷たく、でも温かく、少ししょっぱい、宝石のような涙だ。


一度飲んでしまった僕は、もう死ぬことは許されないらしい。


今の僕には、いや、将来の僕には、不死なんて要らないのに。不死があったところでどうにもならないのに。


それでもベガは、人魚の涙をぼろぼろ零す。


僕が「悲しいのか」と尋ねても、必ずベガは首を横に振る。目を伏せたまま、視線を外して、首を振る。


その後困ったような微笑を浮かべるベガは、何度見ても美しかった。


眉を八の字に曲げて口角を上げるベガは、何度見ても美しかった。


だから僕は、いつも苦しくなって、辛くなって、神様に責められて、持っている酒の瓶を道路で叩き割る。


感情に任せて、身体が動くままに、片手で振り上げて、力一杯振り下ろして、道路で、地面で、ガードレールで、叩き割る。


理由を聞かれても答えようがなかった。


自分でも、分からなかった。


ただ、ベガの少し困ったような、ほんのり赤く色づいた微笑が、僕の涙腺をきつく刺激する。それだけ。それだけだ。それだけ、なんだ。


ただ罪悪感に襲われ、ただ悲しくなって、口はoと、eと、nの、その3つの動きだけを強制してくる。


口角もその矯正を易々と受け入れる。


胸の内がひたすら苦しくなって、


吐き出したくなって、


気持ち悪くなって、


ただただ胃がむかついて、


この兎に角不思議な関係を終わらせたくなる。


この関係を壊したくなる。


全部全部、壊してしまいたくなる。


あの五文字を、あの絶対に言ってはいけない五文字を、自分から言ってしまわないため、僕は無理矢理感情を押し込めて、瓶に詰め込んで、そのまま叩き割る。


僕はベガを愛している。


ひたすらに、愛している。


兎にも角にも、おかしくなるほど、愛している。


苦しい。


辛い。


もうやめたい。


ベガを僕のものにしたい。


でも世界がそれを認めてくれない。


国が、家族が、法律が、世間が、認めてくれない。


ベガは僕の物にならない。


ベガは僕のものになれない。


デネブはきっと、きっと、アルタイルにはなれない。


ベガを愛したくても、僕のものにしたくても、僕の本能がブレーキをかける。


僕の全ての皮膚が、臓器が、筋肉が、細胞が、脳髄が、足の爪先から頭の天辺まで、全力で、当然の如く全力で叫び出す。


僕は本能に従うべくベガを愛さない。


ベガを愛さない。


ベガを愛したい。


ベガには、いや、誰に対しても、僕は素の自分を出せずにいた。


何度頑張っても、建前しか築けずにいた。


世間が素直に生きろと勧めても、ベガに「素直になって」とせかされても、僕に安直な生き方は許されない。


真っ直ぐな一本道は許されない。


焼け残った東京に下町のように、僕は複雑で、こんがらがって、本音と建前が混在した混沌とした世界で共鳴していくことしか許されない。


いつかの生き地獄に囚われたまま、煮えたぎる血の風呂釜から抜け出せないまま、僕はいつまでも、遠回しな生き方しかできずにいる。


こう生きられたなら。こう生活を送れたのなら。こう思えたのなら。


そんな理想像を並べ上げて、力任せにキーボードを叩く。


指が動くままに、頭が転がるままに、キーボードを叩く。


短期間で覚えたブラインドタッチも、今ではただの、1日のうちのたった一つの動作にすぎない。


自分の理想を積み上げて、崩れないように上手いこと調整しながら、キーボードを叩く。


ベガはその音が好きだと言った。軽やかなキーボードのタイプ音が、好きだと言った。


落ち着く、眠くなる音だと言った。


ベガは僕の横でいつも眠りに落ちた。僕が叩くキーボードのタイプ音を聞きながら、僕の横で眠りに落ちた。


ベガのためなら、何時間でも打っていられた。


同じ姿勢のまま腰が痛くなっても、手首が痛くなって、腱鞘炎になっても、僕はひたすらにキーを叩き続けた。


アイデアが浮かばない時は、同じ文を何度も打っては消し、打っては消しを繰り返した。


ベガが横にいる時は、音が大きく出るように、いつもより少し強めに叩いた。


画面とキーボードをよく見て、打ち間違えがないよう、誤字脱字の無いよう、できるだけ軽やかに、リズミカルに打てるよう意識した。


安心した子供のような表情でゆったりと眠りにつくベガは、いつにも増して、美しかった。


この瞬間がいつまでも続けば良いと、心の底から願った。


ベガがアルタイルを見つけなければ良いと。


僕は悪い予感しか当たらないのだ。


ベガはアルタイルを見つけた。


何にも変わらない、いつもと同じ、夏の、東京の夜の事だった。


同じ変わらない居酒屋に、同じ変わらない酒の席の中に、同じ変わらない連中の中に、一人余所者が紛れ込んでいた。


一人、たった一人、変な後光を差して入り込んできた、余所者が居た。


ベガはアルタイルを見つけた。


アルタイルはベガを見つけた。


アルタイルはベガを愛した。


ベガはアルタイルを愛した。


僕はもう必要なかった。


僕はベガを愛していた。


辛くなっても、苦しくなっても、悲しくなっても、胸が割れそうになっても、愛していた。


だから、僕は合鍵を壊した。


誰にも何も言わず、遠くへ引っ越した。


知り合いも友達もいない、誰も知らないところへ、引っ越した。


都会でも田舎でもない、人が多いわけでも少ないわけでもないところへ、引っ越した。


いつかベガは僕を見つけようとした。


ベガは必死の思いで、僕の家を探し当てた。


異常なほどの執着力と、情報収集力と、集中力で、探し当てた。


僕はベガからひたすらに逃げ回った。


上がってくるのが見えたらベランダから下に飛び降り、漫画喫茶で時間を潰した。


外から見てベガがいたら迂回して元来た道に戻り、ベガを避けた。


ベガはまだ、美しかった。


僕を見つけようと奮闘する、かつては僕のものだったベガ。


僕を見つけたい、でもアルタイルには知られたくない。


そんな不安と希望と罪悪感の中で揺れているベガは、美しかった。


相変わらず宙ぶらりんのままだった。


きっとまだ酒だって飲んでいた。


でも宙ぶらりんになっている、ベガが捕まっている鉄棒は、明らかに地面に近づいていた。


いつか楽しそうに地面を歩くベガの未来が見えた。


ベガはまだ、美しかった。


ある日ベガは諦めた。


ベガは僕を諦めた。


一輪の花と小さな手紙を残して、ベガは僕を諦めた。


嬉しいはずなのに、笑い声は乾いていた。


虚ろな目で天を仰ぐしか無かった。


虚ろな顔で、ひたすらに、笑うしかなかった。


ベガは結婚した。


招待状が届いた。


行かなかった。


ベガは結婚した。


報告が届いた。


しばらく見なかった。


見たくなかった。


見れなかった。


それでも本能の誘惑には勝てず、ゴミ箱から引き摺り出した。


直視はできなかった。


視界の端に、ベガの真っ白いウェディングドレス姿が映った。


よく似合っていた。


去年の初詣で僕が願ったベガの未来だ。


たった一つ違うのは、横の黒のリバーシが僕じゃないことだった。


写真のベガは笑っていた。


ベガは、笑っていた。


幸せそうに、笑っていた。


タキシードを来たアルタイルと並び、笑っていた。


僕に決して見せたことのない、満面の笑顔だった。


この世の煩悩を全て後にした、曇りのない晴れ空のような、爽やかな笑顔だった。


ベガは笑っていた。


ベガはもう、美しくなかった。


きっと酒も煙草も、ベガはやめた。


何も心配要らない、毎日毎日、多福な生活をベガは送っているのだ。


僕と言うデネブから、アルタイルに解放してもらったのだ。


デネブという束縛だらけの、支配欲と独占欲に塗れた汚い鳥籠から、解放してもらったのだ。


それで良かった。


ベガはもう、呑兵衛をやめた。


ベガはもう美しくなかった。


ベガはもう、美しくなかった。

微妙な出来栄えで( ˊ̱˂˃ˋ̱ )

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