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愛でないならなんだと言うの【1:1】

作者: こたつ

木下/♂木下晴哉(きのしたはるや)。大学生。

二階堂/♀二階堂有紗(にかいどうありさ)。旧名、水本有紗(みなもとありさ)


________________________


<<木下の家。2人こたつに入りゲームをしている>>


木下:ぐ、ぐぬぬぬ…うおわああ!?


二階堂:ははは、弱くなったなハルくんや!


木下:まって、まって今のなし!二階堂さん今のずるくない!?


二階堂:はっはっは!勝負の世界に待ったもズルもないんだぜ少年!


木下:年下なんですけど!手加減してよ!


二階堂:手加減も勝負の世界にはないね!みかんをとってくるのは私、それを剥くのは君、つぎはどっちがたべるかよ!


木下:くそう負けねえぞ!!次の勝ったやつが一番えらいんだ!


二階堂:その通りだ!ハルとは長い付き合いだけどそれも今日までよ!ここで私に倒され──


<<木下、セリフの最中にゲームをスタート>>


木下:隙ありじゃぼけええ!!


二階堂:あっえっ!?まってまだコントローラーもってない!!


木下:はははは!勝負の世界には何がないんだっけかな〜!!


二階堂:うわ!まっ、まてまてま……ぎゃー!!


木下:勝った〜!ほらはやくみかんとってきなよ。


二階堂:クソガキ!ばか!こたつから出たくない!


木下:うるさいズル女!あんたが仕掛けてきた勝負でしょうが。ほらはやく。


二階堂:しょ〜が、ない、な〜!


木下:ちょ!ちょっと!こたつごと行かないで…いや力強いな!!


二階堂:主婦の腕力舐めんじゃないわよ!ハルが寒い思いしな!


木下:普段猫かぶってるくせに!はなせはなせ大人でしょ!旦那さんが悲しむぞ!


二階堂:そう言われると離すしかないじゃん!なんで年下なの君!ったくもー……。


<<二階堂、みかんをとりに行く>>


木下:水本さんが早く生まれすぎなんですー。


二階堂:もう水本じゃありませーん、二階堂でーす。


木下:あ……そうだったそうだった…。


<<二階堂、戻ってくる>>


二階堂:よっ、と。得意なゲームで卑怯なことして年上をパシリとかいい御身分だわ。


木下:もう大学生だからね。そりゃあ昔より良い御身分ですよ。


二階堂:こいつめ、皮半分くらいのこしてやろうかしら。


木下:絶妙に食べづらいからやめてくださーい。みかん半分こしてやんないよ。


二階堂:え、ごめんごめん!ハルは昔からいい子だねぇ!


木下:すぐ頭撫でようとするこの人は!まあいいけど。ゲームしよ。


二階堂:ねえハルぅ、このゲームほんとに好きなの〜?


木下:ん〜?バカなこと言うなよ。俺がこのゲームに何時間かけたと思ってんの。


二階堂:ふふ、自分を騙すのが上手いね少年。本当に好きなやつはね、嫌いになれない理由なんか出さないものよ。


木下:うげ、まさか旦那さんと喧嘩した?


二階堂:……なんでわかるの。


木下:攻撃がいつもよりするどい。ほらみかんだぞ〜機嫌なおして〜。


二階堂:えふへひははへはひ!(餌付けには負けない)


木下:はいはい食べてからしゃべろうね。


二階堂:おかわり!



<<場面転換>>


木下(M):水本有紗。飲んだくれで子供っぽくてやんちゃで、たまにゲームをしにくる歳の離れた幼馴染。彼女が二階堂有紗になったと知ったのは半年前のことだった。


二階堂:こんにちは〜。近くに越してきた二階堂で……え?え、え!?もしかしてハル!?


木下(M):小さい頃よく遊んでくれた近所のお姉さんは、俺の下宿の近くに越してきた。愛想笑いの上手い旦那さんも一緒に。


二階堂:ああ、あなた。紹介するわ、木下晴哉くん。昔住んでたところの近所の子なの。よく遊んでたんだけど……え?いやね、部屋でゲームとかよ、ただの友達。


木下(M):愛想笑いというのは伝染するものらしい。水本さんは、いや二階堂さんは、太陽のように快活な笑い方をしていたあの人とは思えないほど、たおやかに笑った。


二階堂:それじゃあね、木下くん。また今度遊びにくるわ。昔のことたくさん話そ。


木下(M):……ガラスのように綺麗だった。綺麗だったのが怖かった。怖かったと思ったことが気持ち悪かった。だから。


二階堂:はー!肩が凝るわ。よっすハル!このへんで昔の私知ってんの君だけなんだ。遊ぼうぜ!


木下(M):数日後、そう言って俺の家に押しかけてきた時なんだかホッとした。


二階堂:あ、旦那のことは心配しないでね。内緒できたし。


木下(M):そのときのことを、今でも考えている。


二階堂:今は、何も考えたくないの。



<<場面転換>>



二階堂:ハールーくん!あーけーて!


木下:……今何時だとおもってんの。


二階堂:夜の10時!


木下:まったく、俺予定あったかもで……え?


<<木下、ドアを開ける。二階堂、びしょ濡れで立っている>>


二階堂:へへ……。でも、いてくれた……。


木下:え、えっ!?二階堂さん!?びしょ濡れで……!まってタオル、いや風呂が先!ほら入って!


二階堂:ハルは良い子だねぇ……。



<<木下の家。こたつに並んで座る2人>>


二階堂:いやー、悪いねハル。その…お風呂とかさ、助かったよ。


木下:めちゃくちゃビビったからね言っとくけど。まあ急なのはいつものことだけどさ。はいみかん。


二階堂:へへ、ありがと。


木下:……。


二階堂:……。


木下:……ここ来たってことはさ、ゲーム、したくなったんでしょ。


二階堂:え……?


木下:ほら、やるよ。なにしたい?


二階堂:……ふふふ、気ぃ遣うの下手だね。


木下:うるせー!がんばってんのこれでも!


二階堂:ここに来た理由、聞かないんだ。


木下:それは……気になるけど、ここに来る時はそういうの聞いて欲しくなさそうだったから……。


二階堂:……そっかぁ。君、ずっと良い子にしてたんだ。えらいなぁ、いいこだなぁ……。


木下:うるせうるせ。


二階堂:今ね、うちでちょっと、困ったことになっててさ。嫌になって飛び出してきちゃった。


木下:えっ……?


二階堂:それでねー、この通りなーんにも持ってきてなかったからさ、泊まるとこもないし、近くの知り合いはみんな旦那に連絡するだろうし、すっごく困ってたんだー。


木下:旦那さんじゃだめ、だったの?


二階堂:ふふ、だめ。今はだめ。


木下:……。


二階堂:私さー……なんでなのかわかんないんだけどね、こんな困ってるのに……ハルの顔しか浮かばなくて……。


木下:……。


二階堂:なんでなのかなぁ。旦那だっていい人なんだ、ほんと。来週なんてデートの約束してんのよ、水族館。


木下:二階堂さん…水族館苦手じゃ……。


二階堂:覚えててくれたんだ、いいこだね。………ふふ、今は昔みたいに呼んで欲しいなぁ……。


木下:……水本、さん。


二階堂:ふふ…ごめんね、いまは、そっちがいいや。なんでかわかんないんだけど、ね。はは。


木下:……(言葉が出ない)


二階堂:そういうさ、好きなもの覚えててくれないんだよね、旦那。私が毎日ご飯作ってんのに当たり前みたいになにも言わず食べてさ…当たり前みたいに食器放置して……それが、ね。


木下:……。


二階堂:いままでずっとそうだったんだから明日もそうだよなって思いながら毎日眠るの。旦那の隣で。そういうのさぁ、なんか、疲れちゃって……。


木下:そんなの、もう別れちゃえば──


二階堂:大葉さんって人がさぁ。


木下:っ……。


二階堂:休憩中に、いっつも結婚指輪撫でててさ……。新しく入った人だし仲良くなろーって思って話しかけたの、そしたらずっと惚気てるんだよ。結婚して2年目なんだって。


木下:……?


二階堂:愛してるんだって。いいよね、憧れるよね。そう……そうだよ私、愛を信じてる。


木下:水本さん……。


二階堂:一生に一度の愛。結婚式でキスしたときに生まれるの。そしてそれは絶対に消えない。消えたりなんかしない。そういうの、信じてるんだ。今でも。


木下:……。


二階堂:私にとってはね、この愛が消えちゃうのは、死んだ方がマシなくらいなんだ。だって人間って、誰かを愛するために生きてるんだよ…?おかしいじゃない。おかしいじゃない。


木下:水本さん……もう……。


二階堂:(我に返る)……あ!今「こいつ大人のくせに夢見すぎだぞ!」って思ったでしょ〜!


木下:……水本さんをそんなふうに笑ったことなんてないよ。


二階堂:あ、あは………ちょっと……君、かっこいいこと言えるんだ……あれ、まって、わたし、泣くつもりなんか……。


<<場面転換>>



二階堂(M):私がはっきり覚えているのはここまでだ。あとは確か、なんとか理由をつけて、家に帰った。ハルには悪いことをした。でも、そうでもしないと私は……。


木下:あっ水本さん!新しいゲーム買ったんだ。水本さん好きそうなやつだよ、今度やろ!


二階堂(M):ちがう、ちがう。どうしてハルが思い浮かぶの。私はあの人を愛してる、だって、愛し合って、ベールをとって、キスをして──


木下:ほら!みてこれ、水本さん猫好きでしょ。ここ猫の集会所なんだよ。


二階堂(M):……そんなことより、ご飯の支度しなきゃ。ああ、その前に洗い物……あれ、なんでこんなこと……ああ、ああ。だめ、そんなこと思っちゃだめ。だめ……。


木下:あれ、水本さんそれ重くない?まあまあ、若いもんに任せなさいよ!


二階堂(M):愛が愚かでないことを、誰かどうか証明してよ。


木下:水本さんお腹空いてると思ってご飯用意したんだ。食べてって。


二階堂(M):愛が消えちゃわないことを、誰かどうか教えてよ。


木下:水本さん、見てよほら!月、すっげー綺麗!はは、一緒に見られてよかった。


二階堂(M):だれかどうか、だれかどうか。


木下:ねえ、水本さん。



<<場面転換>>

<<夜、二階堂、あてもなく歩いている。水本、行先に立っている>>


木下:ねえ、水本さんってば!


二階堂:……二階堂よ。


木下:水本さん。ほんとはあの人のこと好きじゃないんでしょ。


二階堂:あの人ともう5年になるんだよ?これが愛でないならなんだと言うの。


木下:(息をのむ)……なんで俺の嘘を見破るのが上手いんだろうって、不思議だった。でも、おんなじだったんだね。


二階堂:なんのこと。


木下:本当に好きなやつは、嫌いになれない理由なんか出さないんだよ。


二階堂:…………!


木下:おんなじなんだ。俺たち似てたんだ。好きなもの、だんだん愛せなくなって、それを認めたくないだけなんだ。


二階堂:あんたに何がわかるの……!!


木下:わかるよ。俺、俺さ!……水本さんのこと好きだったんだ。


二階堂:え……?


木下:でも水本さんは、ニコニコ笑ってる旦那さんの横で、俺の知らない笑い方してた。器用に、静かに、綺麗に、ガラスみたいな……。それがたまらなく怖かった。……怖かったことが受け入れられなかった。


二階堂:ハル……?


木下:でも今は違う。昔みたいに、笑いたい時笑って、泣きたい時でも笑って、無理して、そんな不器用なあなたが好きなんだ。


二階堂:でも、私は、私の心を捨てたくないよ……。


木下:愛が消えるくらいなら……。


二階堂:え……?


木下:愛が消えるくらいなら、死んだほうがマシって、言ってたよね。


二階堂:ハル?何考えてるの。


木下:俺もそう思う。だから、俺も一緒に死ぬよ。


二階堂:ハル、ハル!そんなバカなこと2度と言わないで。


木下:なんでだよ!バカじゃないだろ!


二階堂:バカだよ!バカ!まだお酒も飲めない子供なんだよ!これから先、もっと楽しいことがある。私より好きな人だってきっと見つかる!


木下:いやだよ!おれは、おれ、水本さん以外を好きになりたくない。


二階堂:っ……そう言ってくれるのは嬉しいけど、その感情は一時のものだよ。それにさ、死ななくたって良いじゃない。たまに家でゲームしたり、こたつでケンカしたりさ、そういうのでいいじゃない。


木下:でも、でもさ!それで俺は救われるかもしれないけど……水本さんは誰が救ってくれるの。


二階堂:…………良いんだよ、私のことなんて。


木下:良いわけない。良いわけないよ。


二階堂:……帰ってよ、帰って!どこかに、いって…………。


木下:俺が帰ったら、水本さんはどこに帰るの。一緒にいるよ。ね、だから……。


二階堂:……年下に、二回も、言い負かされた。


木下:……。


二階堂:ねえ、後悔するよ。


木下:しない。


二階堂:ふふ、即答とか、そう言うの若いって言うんだよ。


木下:絶対しない。


二階堂:そっか……。そっか。悪い子だね………。


<<場面転換>>



木下(M):暗い砂浜、海の上。今日は月がよく見える。


水本(M):海に歩みを進める2人は明かりもつけず、確かめるようにキスをした。


木下(M):水本有紗は静かに笑う。それは綺麗で、だけど、怖くなんかなかった。


水本(M):月夜に2人、砂浜で、私はこんなにも自由だった。今でなら、心から言える言葉がある


木下(M):いろんなことが頭の中を巡る。けれど手を握ってくれた。彼女も、俺も、震えていた。


水本(M):あの月に、私たちは歓迎されるだろうか。せめて彼だけでも。そう願ってから何を今更と不器用に笑う。


木下(M):それでももう決めたのなら。


水本(M):それでももう戻れないのなら。


木下(M):俺も心からの言葉を。


水本(M):ああ、これが、これこそが。


木下・水本:愛でないならなんだと言うの。







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