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僕が自ら死を選ぶまで  作者: 木詩摩
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始まり。

これは僕が自殺という道を選ぶまでの物語



誰もいない海岸。海岸を一望できる駐車場に車を停め、煙草に火を着ける。

9月。まだ残暑が厳しく、夜になっても暑い。しかし、海風の心地よさが肌を撫でる。雲一つ無い夜空。月が煌々と海面を照らしている。


さて、やるか。


そう誰もいない駐車場で一人呟き、作業を始める。車からガムテープと練炭、七輪を取り出す。車のガラス、ドア、全てのドアをガムテープで目張りする。そして七輪の中の練炭に火を着ける。


本当にクソみたいな人生だったな。


最後に呟く。後は睡眠薬を飲んで寝るだけだ。

何でこうなったんだろうな。


そう、あれは3ヶ月前の事だった………




僕の名前は飯近拓真。専門学校を卒業し、社会に出てから7年経った。

6月初旬。僕には恋人がいて、結婚を約束していた。本当に幸せだった。

後はお互いの両親に挨拶を済ませ、顔合わせをしたらいよいよ新婚生活だと心を踊らせていた。そんな矢先だった。僕の親が急にこんなことを言うのだ。


最初から二世帯で暮らさないか?


あまりに突然の言葉だった。僕は唖然とした。

もちろん、僕には姉がいるが結婚して嫁いでいるのでいずれは親の面倒を看ようと心に決めていたのだが、何故今言うのだろうか。本当に驚いた。


それが全ての始まりだった。




あまりに急なその提案。勿論、僕一人では決められず、恋人の愛に相談した。


ねえ、愛。話があるんだけど。

ん?なーに?


普段と変わらないように心がけたつもりだった。だけど、どうやら僕の表情から愛は何かを感じたのだろうか、僕の目を見て話を聞こうとする。


親がね。最初から二世帯で暮らさないかって言い出したんだけど。

え?何で急に?

だよね。僕のうちの事情は知ってるでしょ?だから、前に話したけどいずれはって思っているんだけど、まさかね。最初からと言われるとは。

う、うん。そんな急に言われてもって感じだけど。

因みにさ、愛は二世帯に対してどう思う?

うーん。どうだろ、今思うのは最初からじゃなくてもって思う。少しだけで良いから二人で居させてほしいな。拓真は?

俺も同じ。だから、親には伝えたのよ。一年くらい二人でって。

そしたら?

ダメってさ。笑えないよね。

そ、そんなぁ。

ごめんね。それにね二世帯じゃないと結婚も認めないって言われた。

えっ


愛はそこで言葉を失う。それはそうだろう。誰でも驚きと落胆で言葉を失うと思う。僕もその言葉を聞いたときは言葉を失ったものだ。

僕の家は父親の実家だ。今は祖母と僕の両親、僕とあと父の弟、つまり叔父が生活している。家は二階建てで上下階で分かれて二世帯としている。

ここで問題なのが叔父である。

叔父は祖母の面倒を見るという名目で祖母の財産を使い、生活しているのだ。そんな生活をしているのだから家を出ないと宣言し、非正規雇用で得た金と祖母の金で暮らしている。そんな叔父がいる環境を僕の両親は良い顔をせず、家を出る機会を狙っていたのだった。

そんな矢先に僕の結婚話が転がり込んできた。

僕に住宅ローンを組ませ、二世帯住宅を購入するように訴えてきたのだ。

金ならいくらか出すと言い、なんとしてもこの家を出る切っ掛けを得ようと必死だったのだ。

さすがにそれは一つ返事ではいとは言えず、相談をさせてくれと逃げてきたのだが、問題はここからだったのだ。


愛。ごめんね。本当にごめん。そう言われてしまったからさ。お願いできないかな?

で、でもさ!私達の意見は何で聞いてくれないの?結婚するならおめでとうってお祝いしてくれるんじゃないの?

その通りだと思う。たぶん、どこの家庭もそうじゃないかな?

だよね!だったら何でなの!

本当にごめん、親とはね、喧嘩しながら話したんだよ。それでも、最後は認めないって言われてね。

そ、そんなぁ。なんでそんなこと言うのよ。

本当にごめん。

拓真が謝ることじゃない。でもね、納得がいかないの。

だよね。

だってさ、私達の将来がかかってる問題だよ?それなのになんでそんな事を今更になって言うの?おかしいよそんなの!

うん。その通りだと思う。

だよね!なんで今なの!もー!


愛は怒っていた。それはそうだろう。まだ籍を入れてはいないが結婚するためにお互いこの半年間動いていたのだから。それが漸く実を結ぶその瞬間。邪魔されたのだから。誰だって怒るのは当たり前だろう。僕も親から言われたとき心底怒り、話し合いをしながら何とか僕らの権利を勝ち取ろうと必死になった。しかし、結果は勝てなかった。僕の惨敗であった。

僕の悪いところが出てしまったのだ。本当に悔しかった。愛に意見を飲んでくれないかとお願いするしかなかったのだ。


愛。本当にごめん。僕が不甲斐ないばかりに。

拓真のせいじゃないから!

だけど、謝らないと気が済まなくて。

だけど、さ。拓真が謝ることじゃないでしょ?私が怒ってるのはお義父さんとお義母さんよ!なんでこんなことを今更言うのよ!

うん。

もー!分かんない!

うん。

でも、じゃないと認めてくれないんでしょ?

うん。

だったらもう仕方がないのかな。

話し合いは続けるよ、

うん、だとしても、決意しないといけないんでしょ?

その決意だけはしておいてほしいかな。説得できるかどうか分からないから。

分かった。でもさ、なるべくはしたくないからね?

うん、分かってる。だから、頑張るよ。

うん。お願いね。でも、頑張りすぎちゃダメよ?

分かったよ。愛、本当にごめんね。


ここから戦いが始まる。




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