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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
ユーリス編
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97/400

97.噴き上がる水

 ユーリスから差し出された図面を受け取り、ミフネ嬢は暫くの間黙ってそれを見つめていた。目が、端から端までゆっくりと動いていき、そして閉じられる。

「これで、修理できそうです」

「そう、ですか。よかった」

 ミフネ嬢の反応を固唾を飲んで見守っていたユーリスも、その一言にほっと胸をなでおろしたようだ。持っていかれてしまった魔石の代わりはヴィヴィア先生が用意してくれている筈なので、俺達は一足先に現場へ向かう。

 中庭の周辺は立ち入り禁止にされており、ミフネ嬢が修理する際に必要な破片などは纏めておいてあった。よく見ると、破片一つ一つに模様が入っているのが分かった。

「これ、模様がぐるっと一周してるデザインでしたっけ?」

 ミフネ嬢が確認すると、ユーリスは小さく頷いた。無傷の土台部分の模様を見て、同じパターンであるはずだと断言する。

「ありがとうございます。じゃあ、いきますよ…」

 頭の中にはばっちり完成図が浮かんだらしい。正直、俺は設計図だけ見ても、二次元的な見た目は分かっても立体化できないので、単純に凄いと思う。

「『冥王・始生・原生・カンブリア・オルドビス・シルル・デボン』」

 今回は、結構一息に言い切るらしい。前回、呪文を短く切りながら言ったのは俺達へのヒント代わりだったというのもあるのだろう。初めて見るユーリスは、ミフネ嬢が触った欠片のうち一つが浮いた瞬間に、小さく歓声を上げた。

「『石炭・ペルム・トリアス・ジュラ・白亜・第三・第四』」

「『巻き戻れ、遡れ』」

 全ての破片が宙に浮き、噴水の付近に移動する。段々と塊が大きくなっていき、物によっては既に模様が、土台と同じように並んでいるのが見える。

「『復元せよ』」

 最後の一言と、ほぼ同時に噴水は元の姿に戻る。水が出ていないだけで、他は元通りである。先程、花瓶が修理される過程を見たものの、ここまで大きいものも一瞬で修理できるのは驚きである。

 修理というより、言葉の通り復元している、破片を割れる前の状態に巻き戻している、というのが正しいのかもしれないが。

「大分安定していたな、ファラデー」

「あ、先生」

 気が付くと、俺より後ろに十歩程度の位置にヴィヴィア先生が立っていた。手に持っているものは、噴水として機能させるための魔石だろう。

 噴水を修理したことに対する礼や評価よりも先に、魔法に対するコメントが出てくるところが先生らしい。

「保健室の花瓶も綺麗に元通りですよ~」

「安定したのはいいことだ、存分に使うといい。理由に心当りは?」

「えっと~、よくわかりませんねえ」

 ミフネ嬢は、一瞬俺達の方を見てから首を傾げていった。もしかすると、俺とアサヒに話す前はもっと不安定だったんだろうか。もし、記憶を思い出すことが切っ掛けで魔法が使えるようになったなら、他に同じ世界から来た人に事情を話したりすることに意味があるのかもしれない。

 ただ単に、気持ちがすっきりしたことで、コントロールに集中できるようになっただけの可能性も高いが、結果として安定した原因の一つにはなるだろう。

「思い出したらすぐに報告すること」

「わかりました」

 データが取れなかった先生は若干不服そうだが、現在の本題は復元魔法についてではないので追及はしないようだ。

「フォンクライス」

「はい」

「魔石を取り付けて、起動させろ。お前は水属性だったな?」

「分かりました」

 この場で、水属性が得意なのはユーリスとミフネ嬢だ。ヴィヴィア先生の得意な属性は知らない。ミフネ嬢は復元魔法を使ったばかりなので、魔力を消耗していないユーリスに白羽の矢が立ったのだろう。

 俺は地属性と隠密魔法、アサヒは防御魔法と物質変換魔法なので、水属性はほんの少しの水を出すくらいしかできない。

「……『起動せよ』」

 ユーリスは、噴水の頂上部分にある小さな箱の中に魔石を入れ、しっかりとした声で言った。すると、箱から水が溢れ出し、噴水の土台部分が水に満たされていく。

 しかし、水の勢いはあまりなく、噴き上げる、というよりかは流れている、という程度にとどまった。

「ふむ…、ファラデー、手伝え」

「はい~、えっと、『起動せよ』ですか?」

 呪文を確認するミフネ嬢に、ヴィヴィア先生は首を横に振り、小さなメモを彼女に見せた。ミフネ嬢は小さく何度か呟いた後、高らかに言った。

「『噴き上がれ』」

 すると、噴水は勢いよく水をくみ上げ始めた。おお、とつい声を出してしまった。

「よし、終わったな。ご苦労。解散」

 もう用はないと先生は姿を消した。解散、と言われても、既に授業には間に合うような時間ではない。どうせなら、残り時間で復元魔法の説明でもしてくれたらよかったのに、と思いつつ、自分の興味がわかないことは基本的にしないひとだから仕方ないか、とも思う。

「どうしようか、あ、お菓子でも作って食べる?」

「賛成」

「良いですねえ」

 どうせなら、空いた時間を有効活用しようと三人に声をかけた。

「…僕はいい」

 ユーリスはそれだけ言って、一人で歩きだした。


次回更新は9月10日17時予定です。

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