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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
ニール編
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49/400

49.遅い昼食

「さて、やってまいりました、男子寮共同キッチンで手作りご飯のコーナーです」

「メンバーはメインシェの俺、フタバ・カドガンと」

「サポート兼実況のサティ・ユースシス」

「火力担当のニール・クローネ」

「実食担当のアサヒ・ホーソーン」

「以上、四名でお送りします!」

 サティの唐突な前振りで始まった、楽しい昼食を作ろうのコーナー。実際に作るのは俺だけである。しかも、俺はきちんと昼食を摂っているので、完全に残りの三人が食べる為だけに作るのだが、手伝う気が全くない。

 アサヒは自分で実食担当と言い切っている。多分、食器を出したり後片付けはやってくれるだろう。ニールは本当に火加減の調整が上手いのだが、せめて野菜を切ったりするのも手伝ってほしい。

「本日のメニューは何ですか?」

「そうですね、冷蔵庫を見て決めましょうか」

 一人分なら、何でも作れるだろうが、三人分、うち二人は結構食べる。アサヒはストレスに応じて食べる量が変わるが、今は食べる気があるので平均以上は食べるだろう。そもそも、剣術の授業の後は三人とも一人前は平然と完食する。

「パンが少し、卵、玉ねぎ、トマトが大量……」

「前と違って芋はないですね」

 サティの実況口調はいつまで続くんだろうか。しばらく止める気はなさそうなので、放置することにして材料からレシピを考える。

 炭水化物が少なくても、お腹が満たされるレシピ。パンだけでは足りないだろうから、パンに乗せるものとスープくらいがちょうどいいだろうか。

「トマトスープと、ハムエッグトーストにするか」

「何か手伝う?」

「じゃあ、トマトと玉ねぎ取って」

 アサヒがまな板の上に指定された材料二つを置く。ついでにウインナーとチーズ、胡椒を取ってもらい、大きめの鍋をニールに出してもらう。

玉ねぎを三個並べて鍋に入れ、隙間にウインナーを入れる。玉ねぎの高さの三分の一近くまで水を入れる。

「弱火で沸騰するまで煮て」

「わかった」

 沸騰するまでの間に、トマトを切ってボウルで潰します。此処でこれはいったん放置。ニールに鍋を任せて、パンの表面を軽く焼き目をつけ、炒り卵を作る。

「サティ、これ、作っておいて」

 溶き卵にちょっと他の調味料を混ぜたボウルを渡す。ニールは無言でもう一つのコンロに火をつけた。サティが受け取って、じゅうじゅうと音を立てながら炒り卵を手際よく作り始めた。

「フタバ、私は?」

「ハムをパンの上に置いて」

「わかった」

 アサヒはハムのブロックを取り出し、専用の包丁で薄く切り取った。流石というか、刃物の扱いは上手で、向こう側が透けて見える程度の均一な厚さの三枚であった。

「僕、ハム食べないんだけど」

「あ、忘れてた」

「俺が貰うよ」

 アサヒが摘まんだハムを開けた口に入れてもらう。薄切りだったので、一口で収まった。恐らく、言われなかったら自分で食べる気だったのだろうが、俺も作っているうちにお腹が空いてきたのだ。

「あ、これ結構、塩気強いね」

 もぐもぐと咀嚼する。アサヒが次の指示を仰ごうと、此方を見つめてきたので口の中のものを飲み込む。返事をしようとした瞬間、ニールが見張っていた鍋が沸騰し始めたので、鍋に先程潰したトマトを入れ、チーズをたっぷり投入する。蓋をして、吹きこぼれないように更に見張るよう指示をする。

「フタバ、炒り卵できた!」

「じゃあ、トーストの上にのせて出来上がり」

 本当はゆで卵で作ったほうがいいのだが、時間がかかるし殻をむくのが面倒なので今日は省略である。

「先に食べてていいよ」

 ニールもコンロの前から追いやる。三人はそれぞれ皿を持って椅子に座り、サティとアサヒは簡易的な祈りを行った。

「「「いただきます」」」

「はい、どうぞ」

「あ、これ、こぼれそうになる」

 パンに結構な量の卵がのっているので、ボリュームはたっぷりの筈だ。大きな口を開けないと、結構炒り卵が口から零れ落ちてしまうだろう。

 横目で見ると、乾燥している携帯食料を食べなれているアサヒは、結構上手に食べているようだ。携帯食料も結構ポロポロ落ちてくるので、要領は同じ何だろう。逆に、食べ歩きをしたことがなさそうなサティが一番食べるのが下手だ。

そうしているうちにも、玉ねぎが柔らかくなってきたので火を止める。ちょっと深めの器によそい、それぞれ胡椒をかけて持って行ってやる。

 スプーンを手渡すと、アサヒとサティは満面の笑みで、ニールは若干口元を緩めて受け取ってくれた。

「お味は如何?」

「よく煮てあって、トマトも玉ねぎも甘くておいしいよ。丸ごとで贅沢感あるし」

「ウインナーと胡椒があっててうまい」

「野菜だけでも美味しい。トーストの方でお腹膨れたし」

 三人とも、それだけ返事をすると無言で食べ始めた。微妙に残ったトマトスープを自分用の皿によそう。確かに、トマトが甘くておいしい。もうちょっと野菜足したり、コンソメ系を入れても良かったかも、と反省する。

「ごちそうさまでした、美味しかった」

 アサヒが一番に完食し、すぐに洗い物を始める。

「別にいいよ」

「いや、作ってもらったから、片づけはする」

 そういって洗い物を始める所は、ずっと変わっていない。大学生の時も、俺が作ったら必ず洗い物は全部やってくれていた。

 今は、全く違う場所で二人仲間が増えているけど、変わっていないところだってある。そう思うと、少しほっとした。

 アサヒが洗い物をする手元を眺めていると、サティのニールが食べ終わったようでご馳走様の声と共にキッチンに入ってくる。

「あ、僕拭くよ」

「俺が片付ける」

「じゃあ、俺は座ってていい?」

「「「どうぞ」」」

 途中から、お料理番組風にすることをすっかり忘れていたのだが、良いのだろうか。


次回更新は7月24日17時予定です。

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