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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
幼少期編
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4.初対面での印象

予定通りの投稿になります、誤字脱字等あればコメントからでもご指摘ください。

 旭と感動的な再会をしたのはいいものの、お茶会が始まったばかりでは二人でゆっくり話したりできないのが現実である。


「急に失礼しました。カドガン侯爵家のフタバと申します」

 同じテーブルに座っている他の貴族子女たちにも挨拶をする。どうぞよろしくお願いいたします、と礼儀正しく腰を折るといきなりテーブルに来たことは流してもらえたようで、朗らかな挨拶が返ってくる。

「僕は神官長の息子、サティ・ユースシスと申します」

 よろしくね、と白髪男子が言う。神官長ならば神職の中でもトップクラスの地位であり、貴族に換算すると伯爵以上である。因みに同い年である。

「正式に貴族とは言えないですが、仲良くしてくれると嬉しいです~」

彼の父親が20年前の国家危機に活躍したのもこの場にいる一因だろう。最も特殊な身分であるサティが声をかけてくれたため、話しやすく和やかな空気になり旭も安心したようだ。二人の女の子と談笑している。

 いい方向に旭の緊張が解れてきたと感じた矢先、今一番関わりたくない人から声が掛けられた。


「みな、楽しそうだね。私も混ぜてもらえるかな?」

 日の光を反射する美しいブロンドの髪に、角度によって輝きを変えるサファイアの瞳。間違いなくこの国の第一王子セドリック・ヴァルガス殿下である。

「は、はい、勿論です」

「ありがとう」

 一斉に頭を下げ、発言の許可を貰い順に名乗っていく。隣の旭が再び緊張で身を固くしたのが分かった。タイミングの悪い王子に内心苛立ちを感じたが、表に出せば不敬罪で最悪首が飛ぶので黙っておく。

「ホーソーン伯爵家、アサヒと申します」

「カドガン侯爵家、フタバと申します」

「サティです、お久しぶりです殿下」

「サティは、久しぶり。他の皆は、はじめまして」

 名乗ってから後は、若干の空気の読めなさがあっても許されるサティが存分に能力を発揮し王子に話しかけていた。

「相変わらず、美しい金髪ですね」

「ありがとう」

 曰く、王子の髪と瞳は天上に坐す神様の祝福の証であり、そのなかでも現王陛下と第一王子殿下は美しい色合いであるなど、神殿育ちならではの会話術を揮っていた。よくわからないが都合よく動いてくれて大変有り難い。

「神の祝福を、殿下は受けていらっしゃるのですね」

「サティ様も詳しいのですね」

 などと、相槌を打ちやすい会話である。しかし、王子に挨拶をしてからというものの、誰一人として椅子に座ることができない。挨拶が終わればまた席についても構わないのだが、最も高貴な人物が立ったまま会話を楽しんでいるので先に座るわけにもいかないのだ。

「アサヒ…」

 サティや自分は平気だが、緊張しきっている女子には辛いのではないのだろうか。


 どうにかして座る切っ掛けを作ろうとするものの、すぐにテーブルを移動しなくてはならない王子はよほど話したい相手がいなければ腰を下ろすことはないだろう。

「サティ、他に神殿での話はあるのか?」

「ありますよ、例えば…」

 王子はサティに興味があるようだから、サティごとこの場を離れるか、率先して椅子に座るよう呼び掛けて貰わねばならない。

「………あの、」

 小声で呼びかけ目配せをすると、サティは心得た、と言わんばかりに目を細め笑った。王子との会話を続けつつ、ふと固まっていた女子三人の方に目線を遣り、言った。

「僕、先程お菓子を頂いたんですが、美味しかったです。彼女たちが勧めてくれたんですよ」

 殿下も席に座られて召し上がりませんか、と座るよう促しつつ立ったままの女子三人を王子に意識させるという高等テクニックを披露した。

「確かに、今回のお菓子は美味しそうだね」

 と、王子は興味を示し、女性を立たせたままにしていたことを詫びた。

「レディを立たせたまま長話をしてしまってすまない」

「いえ」

「大丈夫です」

 笑顔での謝罪に旭も、水色髪と茶髪の女の子もお気になさらず、と返した。王子は根が真面目なのか、女の子を椅子に座らせるために椅子を引いてやっていた。その行為は身分が下のものを気遣う素晴らしいものであるが、相手が旭なのは気に食わなかった。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます、殿下」

 何故一番近かった水色の髪の令嬢ではなく旭なのだろうか。旭が粗相をしないように緊張しすぎて笑顔の端が引き攣っている。恐らく胃が痛い、と内心思っているのだろう。王子が率先して動いたので続いて椅子を引く。

「どうぞ、ミフネ嬢」

「ありがとうございます、フタバ様」

 にっこりと笑顔を向けてきた水色の髪はファラデー侯爵令嬢である。一応名前を覚えていたので呼び掛ければ少し嬉しそうに返された。

 貴族社会は一度の挨拶で顔と名前を覚えなければならないのが本当に大変であるが、このようなことがあると覚えようという気力が湧く。

「殿下、こちらがサティ様にもおすすめしたものです」

 全員が席につき、ミフネ嬢が王子にクッキーをそれぞれの味の感想とともに勧める。

「ありがとう、頂くよ」

 と、王子は最初に勧められたクッキーに手を伸ばした。

「これは、ドライフルーツが甘くておいしいね」

「僕、それが一番好きです」

「私は隣の何も混ざってないものがいいですね」

 予想外に長時間王子がこのテーブルに留まっていることに驚きを隠せない。親からも王子殿下は挨拶が忙しいため、お言葉を2,3交わすことができれば上々だと言っていた。

「わ、わたくしは此方の、蜂蜜のものがおすすめです!」

「ありがとう」

 余程サティを気に入ったのか。親同士は親交があると聞いていたので意外と言うほどでもないが、それならサティを伴って次のテーブルに行けばいいと思う。

「フタバはどのクッキーが好みだった?」

 考え事をしていると、王子が此方に微笑みかけながら尋ねてきた。眩しいくらいの王族スマイルである。全く考えずに食べていたとも言えないので適当に答える。

「そうですね、私はこれが好きです。ボイエット公爵領のアーモンドは、苦みが少ないので美味しいです」

 丁度手元にあったアーモンドクッキーを指し示し、そう答える。微妙な表情をされたので、ボイエット公爵領は南側で温かいので、甘いものが作れるのでしょうね、と笑って誤魔化す。

「食べすぎは有毒なので良くないですけどねえ」

 ミフネ嬢が続けて完全に会話は流れていった。王子の微妙な表情も元に戻っている。やはり失言していたのだろうか。

「アサヒ嬢は好きなものはあった?」

「あ、いえ、わたしは」

 次に聞かれると思っていなかったのか、完全に動揺している。食べる作法を気にして味なんてわからなかったのだろう、涙目になって助けを求める目をしていた。

「私にアーモンドを勧めたのは彼女です。好みが似ているようで」

 にっこりと王子に向かって言ってやる。時間も興味もないのに俺の幼馴染を必要以上に困らせるのはやめていただきたいものだ。

「セドリック殿下」

「……ユーリスか、すまない、私はここで」

 王子は一瞬固まったが、余りに移動しないので声をかけに来た側近候補であろう青髪の少年がテーブルに近づいたのを機に去っていった。

 自分もそろそろ動いたほうがいいだろう。そう思い席を立つと、旭が此方を見上げていた。

「ありがとう、後日正式に文書でも礼を述べさせてください」

 つまりは、手紙で話そう、ということである。勿論です、と返しお茶会での社交任務を達成するべく移動した。


 結果から言うと、お茶会のでの社交は概ね成功であったが、完璧ではなかったということを後日届けられた二通の手紙で知ることとなった。


次回更新は6月9日17時予定です。

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